第2話
多分、
誤解だと思うんだけど!!
急展開過ぎて、何からどう話せばいいか、さっぱりわからない!!!
「あの、話す前にちょっとだけ、席を外すね…」
とりあえず逃げる。
私は彼に断って、席を立った。
「はい。どうぞ」
彼は、とてもにこやかに返事をしてくれた。
明るくて話しやすそうな雰囲気の男の子だなあ…。
一旦頭を、整理しよう。
店の奥にあるトイレに行きがてら少し彼と距離を置いて、私は考えてみる事にした。
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先週の水曜日に、私は携帯電話で話しながら胡桃を誘った。
八百洲ブックセンターで行われる神原彩架月先生のサイン会が、日曜日(今日)の午後2時から行われる。
先生は超人気作家だから、早めに軽食を取ってから並んでおかないと、サインをもらえるまで何時間待たされるかわからない。
だから、12時にカフェ『未来志向』集合に決めた。胡桃もファンの1人だし、サイン会には興味があるかと思ったのだ。
サイン会の知らせがメールで届いた時、早く行動に移さなければと私は焦った。
まず、申し込みが必要なのである。こういう催しは人数制限があるからだ。
校内の携帯電話での通話は、固く禁止されている…が。
でももう下校時間だし、私的にこれは緊急事態。そのため何卒今回ばかりは、どうか神様仏様、勝手な自分をお許し下さい…。
誰にもバレない様にスピーカー状態にした携帯をポケットに隠し、校内を何気無く1人で歩いている風を装いながら、電話をかけた。
何度かコール音が鳴り響き、胡桃が小声で出る。
『沙織、今どこにいるの〜?…まだ学校の中でしょ!どうして今電話してきたの?何かあった?』
彼女は多分、部室棟の中だ。演劇部のミーティングが始まる前だから出られたのだろう。
間一髪だった。
「胡桃、神原彩架月先生のサイン会、一緒に行かない?…早く申し込みしなきゃならないの」
「…え〜…あの、長蛇の列になるやつでしょ?…私は遠慮しようかな〜」
「…そんな事言わずに…。一人で並ぶの、寂しいよ」
私は、話しながら何食わぬ顔で図書館の中に入った。
『霽月の輝く庭』の11巻を返して、12巻を借りなければならなかったからだ。
「お願い!」
一緒に行ってくれそうな人は、あなたしかいない!!
『…いつ?サイン会』
「日曜日の12時に、カフェ『未来志向』に来てもらえない?」
胡桃は何か返事をした様だが、良く聞こえない。
電波が悪いのかも知れない。
私はもう1度繰り返し日時を言った。
胡桃はまた何か返事をしたが、その声は聞き取れなくなってしまった。
チャットで会話した方が良かったかも…。
「…ちゃんと、聞こえてる?」
胡桃はそれには答えずに、呆れた口調でこう言った。
『ホントに沙織は、神原彩架月先生が好きね〜』
「大好きなの…!!」
だから、絶対にサイン会に行きたいの!!
「だから…お願い…!!私と、付き合って!!!」
しばらくの、空白の後。
「…はい。わかりました」
…やったあ!!!
図書館の中で、思わず私はバンザイしてしまった。
たまたまで書架の間で本を読んでいた教頭先生に、はしゃいでいるその姿を見られ、凄い形相で睨まれてしまった。
私は慌てて、そそくさと図書館から逃げ出し、
『…沙織…どうしたの〜?』
携帯電話の通話を慌ててOFFにした。
ゴメン胡桃。また後でゆっくり話すから…!!
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私はあの時の出来事を思い出しながら、トイレの個室の中で腕組みをした。
う~ん、もしかすると。
彼はあの時、図書館にいて…
私の会話を聞いて、何かを誤解した…?!
自分の髪形や服装が、突然気になり出す。
まさか突然男の子とお茶することになるとは、夢にも思わなかった。思わず私はトイレの鏡に映る自分の姿を、隅々までチェックしてしまう。
何の変哲もないセミロングの黒いストレートヘアーに、何となくブラシをかけただけの髪。
アクセサリーなどは何一つ身に着けてこなかった。今日着てきた薄ピンクのコートとギャザーロングワンピースはお気に入りの一つだが、この季節にしては少し胸元が寒すぎる。
…ただ存在するだけで華やかな彼と比べ、あまりにも地味すぎる自分を別の生き物に、今すぐ変えてしまいたくなってしまう。
もう少し、外見に気を付けた方が良かったかも…。
トイレを出て、こちらを背に白井君が座っている窓際の席へと私は向かった。
テーブルには湯気を立てたもう一つのホットコーヒーが運ばれてきており、彼はそれを口に運びながら私を待っていた。
「お待たせしました…」
私は再び元の、彼の向かいの椅子に座った。
「はい。お帰りなさい!」
彼はにっこにこの笑顔で返事をしてくれた。
何だろう、この爽やか美少年は。
血統書付きの、真っ白い子猫を思い出す。
思わずほんわかと、癒されてしまう。
だ、ダメダメダメ駄目だよ。
見とれていないで、ちゃんと話をしないと。
「えっと、白井君」
「司でいいです」
「じゃあ、…司君」
「はい!」
幸せそうに司君は微笑む。
すっかり彼のペースに乗せられている私。
「先週の水曜日の放課後、図書館で私…」
彼は私の話を、遮った。
「はい。…嬉しかったです。告白」
急に、その時の状況を彼は説明し始めた。
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あなたは、僕の目を見つめて言いました。
「お願い!」
僕はびっくりしました。
いきなりあなたが必死な様子で僕に、こう言ったからです。
「日曜日の12時に、『未来志向』に来てもらえない?」
僕は、あなたに聞き返しました。
「もう一度、言ってもらえませんか…?」
「日曜日の、12時。カフェ『未来志向』に、来て欲しいの」
ああ、あの場所!
ようやく、思い当たりました。
八百洲ブックセンターの横に、去年新しく出来たカフェの事だと。
日曜日、特に予定は無いし。
…ずっと気になっていたあなたに、誘われたのです。
絶対に行きたい!!と思いました。
「…ちゃんと、聞こえてる?」
ボーッとしている僕に、あなたは聞こえているかを確認しました。
もちろん、ちゃんと聞こえていました!
「………はい」
心臓がどきどきと、音を立てました。
だって、これってデートでしょう?
「大好きなの…!!」
あなたは僕を真剣な表情で見つめて、
その時告白、してくれました。
「だから…お願い…!!私と、付き合って!!!」
…これは夢でしょうか。
信じられなくて、幸せ過ぎて。
すぐに返事が出来ませんでした。
「…はい。わかりました」
やっと、言葉にできた。
僕は、それしか言えませんでした。
あなたは、
『 …やったあ!!!』
という様な、可愛いポーズを見せてくれました。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
私はまた、フリーズした。
どうしよう!
司君、やっぱり物凄く誤解しているみたい!!
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