【イベント3】地下牢脱出イベント

「リズ……そんなにヤツレて。顔色も悪い。ヤツらに酷い事されたんだろう、可哀想に」

 牢の外側──鉄格子越しに、その男は憐憫れんびんと慈愛の視線をアタシに向けて来ていた。


 別に、ヤツレてんのは普通に仕事の激務のせいだし、顔色悪いのはデスクワークで外に出ることが無いから青白いだけなんだけど。

 煙草取り上げられただけで、他は指一本触れられてないわ。

「余計な世話じゃ。誰、こいつ」

 なんか、ウチにいる顔だけヒモ男たちと同じ匂いを感じて、アタシは横に浮遊する金茄子ゴエプに尋ねる。

「コイツが攻略対象の一人、王弟殿下だヌミョ。っていうか、説明書ぐらい読めヌミョ!! パッケージにも中央にデカデカ描いてあったヌミョ?!」

「あー、ホント? あんま見てなかったわー。それにアタシ、操作説明は読むんだけど人物紹介は読まないんだよねー。だって何も知らない状態で進めたいじゃん? その方が何が起こるのかワクワク出来るし。ついでに、アタシはリロードしない派」

「乙女ゲーム愛好家には珍しいチャレンジャータイプだヌミョね……」

 ボソボソそう金茄子ゴエプと会話していると、王弟殿下が懐から鍵を取り出してガチャリと扉の錠をあける。

 軋む音を響かせて、鉄格子がゆっくりと開かれた。

「さぁ行こうリズ。お前のような清廉潔白な女性に、こんな場所は見合わない」

 輝く白い歯列。シルバーの少し固そうな髪をハーフアップにし、プラチナ王子と同じく灰褐色の瞳をキラキラさせて、アタシに手を差し伸べてくる。

 ……清廉潔白とか言われると悪寒がする。他人に言えない事の一つや二つや三つあるし。まぁAV見たりとかっていう話なら普通にするけど。


「行こうヌミョ。隠しエンドは、この王弟殿下のルートから派生するヌミョ。

 まずは彼について行って──」

「え? 誰がそのエンドへ行くって言った?」

 そんなアタシの言葉に、シルバー王弟の側へとフヨフヨ移動していた金茄子ゴエプの動きが止まり、驚いて竜巻が起こりそうな勢いで振り返る。

 そして、慌ててアタシの側へと金茄子ゴエプが戻ってきた。

「何言ってるヌミョ?!」


 アタシは、両手でそっと金茄子ゴエプの身体を優しく包み込むと、顔をグイッと近づけてそのつぶらな瞳を覗き込む。

「アタシはさぁ……攻略本とかサイト見るの、嫌いなんだよねー」

 次第に指に力を入れていくと、金茄子ゴエプの低反発な身体にジワジワと食い込んで行く。

「い……痛いヌミョ! 指がメリ込んでるメリ込んでるヌミョ!! パァンってなるヌミョ! パァンッて!!」

「『現実へ帰れるエンドが存在する』って分かっただけで充分よ。あとは自力でなんとかするわ」

「自力ヌミョ?!」

 アタシの指に圧縮された金茄子ゴエプが、シワシワになりながら悲鳴のような声を上げた。

「だからね!」

 金茄子ゴエプを右手で掴んだまま思いっきり振り被る。

「お前らはいらん!!」

 そして、全身のバネを使って金茄子ゴエプを王弟殿下の顔に叩きつけた。


「?!」

 牢の入り口に棒立ちしていたシルバー王弟は、顔面に金茄子ゴエプをぶつけられ、そのまま後ろへと仰け反って倒れ込む。

 アタシはすかざず、それを飛び越えた。

 しかし、走り出そうとした足首を、顔に貼り付いた金茄子ゴエプを剥がしたシルバー王弟がガシっと掴んできた。


 そこでアタシは──

「ごめん!!!」

 思いっきりパンプスで足首を掴んでいた手を踏みつけた。

「ぐあ!!」

 ヒールがメリ込んだ手を庇ってゴロゴロと床に転がるシルバー王弟。

 その隙にアタシは出入り口の所まで猛ダッシュした。


 脱出成功!

 あとは『現実に戻るエンドの契機』を目指すだけだ!


 家で待ってるハズの、顔だけヒモ男たちの事を思い浮かべながら、アタシは地下牢を飛び出して行った。

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