乙女ゲームの中に転移してしまったんだけど、普通に嫌なのですぐ帰りたい。その２。

【イベント1】断罪イベント

「ペイシェンス伯爵令嬢、エリザベス！　お前を告発する！」

　プラチナブロンドのフワフワ柔らか癖毛を短く纏めて澄んだ灰褐色の瞳を持った西洋イケメンが、存在意義が微妙なマントを翻して、ビシリと私を指差す。

　少し高い位置にいる為、ガッツリ私を見下して。

　そしてその後ろには、クリックリの大きな茶色の瞳を潤ませた、漆黒のしっとりサラッサラストレートヘアの女の子が。胸元には深紅の大きな宝石が輝いている。高そう。

　確か彼女は、ベースとなった乙女ゲームのヒロインで、現代日本から召喚されてきたっていう聖女様だ。

　そんな聖女様が、彼の影に隠れながらもこちらを覗き見ていた。

　ここは舞踏会会場。

　王太子だか皇太子だか、よく分からんけどなんか偉い王子様とアタシの正式な結婚報告の場だったハズの場所。

　しかしそこで、真ん中にポッカリ空いた空間に一人立たされた私と、それを斬罪する二人。

　周りを沢山のウルサイほどに着飾った貴族達が、息を飲んで見守っていた。

　アタシは── ペイシェンス伯爵令嬢のエリザベス、と呼ばれたけれど、本名は佐藤よし子。生粋の日本人で35歳アラフォーOL。

　別に、頭を打ったりショックを受けたりして、生まれ変わり前の記憶を思い出したんじゃない。

　生粋の日本人35歳の姿のまま、17歳のペイシェンス伯爵令嬢として、ここに立たされている。なんで？？

　誰かこの状況に違和感を抱かないんか？　みんな認知障害とか抱えてる？

「……言い訳しないのか？　性根が歪んでいる割には潔いな」

　プラチナ王子が、せっかくのイケメン面を醜く歪ませて嘲笑してアタシを更に見下す。

　ムカつくな、お前。

「性根が歪んでるのは自覚してるからね。別に他人に改めて指摘された所でなんとも思わないわ」

　アタシは、ポケットから煙草を取り出して緩く咥えて火をつける。ちなみに、貴族どもは漏れなく豪奢に着飾ってるけど、アタシは普段のブラウスとスカート、ストッキングにパンプスの仕事着姿のままだ。

　なんだかんだと言って、やっぱりこの格好が落ち着く。社畜の証か……

　一息深く吸い込んで、そして、吐き出した。

　あ、ここ屋内禁煙かな。

「なっ……何をしてるんだお前は？！」

　アタシの後ろに距離を取って立っていた、騎士団長の息子とかいう親の七光り男が、硬そうな赤毛を振ってアタシに問いかけてくる。

「見て分かんないの？　一服入れてんだよ。お前の目は節穴か。飾りか。無駄な飾りなら捨てちまえ」

　もう、これだから温室育ちのお坊ちゃんたちは。

「追い詰められて狂ってしまったのか？」

　七光りの横に立つ眼鏡インテリっぽい銀髪の青年が、更に言い募ってくる。確かアイツは、宰相の息子で最年少で何かを成し遂げたとかなんとか頭がいいとかなんとか。よく覚えてないけど。

「頭が？　そうだね。もう狂ってるのかも。よく分からん。でもさぁ、そもそも何を持ってして『狂ってる』って判断すんだよ。基準示してから喋れやボケ」

　アタシは煙草を咥えたまま、斜め後ろに立つインテリア坊やを横目で睨んでそうボヤく。

「もういい。早くしてよ。断罪して追放するんでしょ？　追放エンドでも処刑エンドでもいいから早くしてや。

　早くウチに帰りたいんだよね。

　ウチには、顔だけしか取り柄がない甲斐ナシが5人も待ってるんだからさ。アタシが稼ぎ頭で大黒柱なの。戸籍ないからコンビニバイトとか居酒屋バイトしか出来ないんだよアイツら。食いつなげないから借家追い出されるわ」

　煙草を吐き捨て、爪先で踏み消す。

「どうせ何を言い訳したって、根拠薄弱な証拠揃えてんだろ？　論破すんのも面倒くさいから、やるならサッサとやりな。

　こちとらそんなに悠長に待ってる暇はないんだよ」

　見下げるプラチナ王子を真っ直ぐに見据え、アタシはタンカを切った。