第24話 バディ、その2
晩ご飯のお誘いをいただいたけど、冴えない外見のおじさん二人と固辞する。
母娘水入らずにしてあげたかったのと、俺の人生とはいえ、姉には相談と報告が必要だということ。
正直、残念だったさ。どれほどの料理の腕で、どれほどのものなのか、知りたいさ。
でも、今回は仕方ない。
自衛官の人が、俺の自転車を強引に車のトランクに積み込んだ。送って行ってくれるみたいだ。
車に乗ると、後ろから自衛隊の人が冷やかしてきた。
「少年、青春だな。なかなかうらやましいぞ」
あんた、それが言いたくて俺を送る気になったんか? と頭の中では突っ込みを入れるけど、言葉が出ない。
「えっ、まぁ、はい」
などと言葉を濁す。
ちょっと悔しいから、思いつくまま反撃。
「美岬さんのお母さんに、ずいぶん気を使ってましたね」
「上司だからな。組織の役職については、あとで説明してやる」
おうむ返しに返す。
「上司だから、ですか」
あ、ちょっとむっとしたな。カウンターが決まっちまったか。母親さんには一回も決まらなかったのにな。ちょっと自信を取り戻す。
「少年、お前、時々可愛げがないな。上司だからだよ。人妻で、子供持ちにフォローするとすれば、こういう方法しかあるまい。
そもそもな、アレの旦那は人外だぞ」
「はあ」
そういうことですか。こりゃあ、神妙にお返事するしかないわ。で、美岬さんの父親って人外なの!?
「でもな、お前は頑張れ。そのために、今日は特別に命令無視をしてやったんだ」
「命令、無視しちゃったんですか?」
ハンドルを握っている警察の人が笑いだした。
笑いながら、話に加わってくる。
「姫がお前に抱きついたとき、引き剥がせって、『アレ』の目が言っていた」
「冷たい目で見られた自覚はありますが……」
なんだ、二人がかりで上司を「アレ」呼ばわりですか。
「『アレ』は怖いぞ。女なのに、ドライアイスと鉄でできたキンタマ持ってる。
だから、俺たちは、ハイハイと何でも言うことを聞くし、それで俺たちは毎回生きて帰れる。
けどな、あの場では多数決にしてやったんだ」
「多数決?」
「なんでも聞き返すんじゃねぇ。
姫とお前で2、『アレ』が1」
後ろから声が響く。
すげぇ。この二人、同じことを感じ、同じように判断していたのか。
「まぁ、半分以上プライベートな問題だしな、姫の意志の方を尊重したっていいだろうさ」
後ろからの声が続く。
「ま、あとはお前次第だ」
ハンドルを回しながら、警察の人が言う。
「自信ないですが、頑張ります」
「わかいんだから、頑張れ」
後ろからまた、声が響く。
で、その「わ」と「ば」の中間の絶妙な発音、なんすか、それ。まぁ、バカいと若いは紙一重なのは認めざるを得ないけど。
「でもな、わかいうちじゃないと、『守る』なんて大見得は切れない。いつの間にか言えなくなっちまうんだよ。
言える期間を少しでも伸ばすよう、努力することだ。結果は、まぁ、気にするな」
「それって、励ましてくれたんですか? 落としたんですか?」
「持ち上げてから落とした。ただ落としたんじゃ、高低差が不足するからな。まぁ、気にするな」
ちきしょー、さっきの仕返しだな。俺で遊ぶんじゃねぇ。
「そもそもだな、お前の告白、ここで最大音量で再生してもいいんだぞ」
ぎょっとして振り返ると、ICレコーダーを指に挟んでにやにやしている。
ちょ、マジで堪忍してください。
そのまま、ぽいっと放って寄越す。
「自分で好きにしろ」
はい、そうさせていただきます。
まさか、返してくれるとは思わなかった。それどころか、データの初期化もしないなんて……。
なんかね、すごく重いものを受け取った気がしたよ。
それはそうと……。美岬さんのお母さん、確かに綺麗だったな。あこがれちゃうのも解る気はする。恋とかより、女神崇拝になっちゃうかもだけど。
で、そうなると美岬さんの父親って、「人外」って言われるほど「いい男」なんかな? 美岬さんの母親、競争率高かったに違いないし、その中で選ばれるくらいの男なんだからね。
美岬さんに、あとで聞いてみよう。
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