第82話:大人げないですよ
楓さんと梨香ちゃんの戦いの火蓋が斬って落とされた。ルールは残機制。相手を先に三回落とした方が勝ちというタイマン勝負。うん、実にシンプルでわかりやすい。
「フフッ。キ〇ーブで鍛えられた私の実力を見せてあげますよ!」
「ふん! パパを相手にコンボを練習した私に勝てると思わないでよね!」
二人が選んだのはどちらもスピード重視のキャラクター。高速で移動して回避しながら隙をついて一撃を与えていく戦闘スタイル。目まぐるしい攻防の入れ替わりを制するのは楓さんか、それとも梨香ちゃんか。楽しみな一戦だ。
対戦開始から数分後。
「っくぅ! 上手くかわしますね! さすがは現役世代……! 私のテクニックが通用しないなんて!」
「楓お姉ちゃんこそ、本当にブランクがあるの!? うぅ……倒しきれない!」
なんだろう。俺の膝の上を賭けるというアホな理由から始まった対戦だが物凄く白熱している上にお互いをライバルと認めているような節さえある。いいなぁ。俺もやりたくなってきたんだが。コントローラー準備するか。
「よし……これで―――! やったぁ! 勇也君! 勝ちましたぁ!!」
「あぁぁああぁぁあ―――!!」
楓さんは両手を上げて勝利の咆哮を上げて俺に抱き着き、梨香ちゃんはまさかの敗北にソファから転げ落ちた。ほんと、梨香ちゃんのリアクションを見ていると将来が不安になって来る。芸人さんでも目指すのか?
「へっへっへ。これで勇也君の膝の上は私のものです。ねぇ、勇也君。いつもみたいに後ろからぎゅぅーーーってしてください。激闘を制した勝者へのご褒美です!」
「ず、ずるいよ、楓お姉ちゃん!! 膝の上だけじゃなくてぎゅぅってしてもらうなんてぇ!!」
これが勝者の特権です、と胸を張って俺のハグを催促する楓さん。うん、確かにこれは大人げないよな。ならここは梨香ちゃんへリベンジのチャンスをお兄ちゃんがあげようじゃないか。
「え、あれ? ぎゅぅってしてくれるのは嬉しいですけど、どうしてキャラクター選択画面に戻っているんですか? ってあれ、キャラは超重量系? って私が操作するんですか!? 私この子使ったことないですよぉ!」
「さぁ、梨香ちゃん。リベンジマッチだ。これで勝ったら膝の上は君のものだ!」
「―――! よ、よぉし! 私、頑張る!」
殺生なぁ! と叫ぶ楓さん。梨香ちゃんの顔は初戦以上に真剣。まさにこの戦いに命を賭けているかのよう。対する楓さんは俺が抱きしめていることもあるせいか動きに精彩がない。まぁ使い慣れないパワー系のキャラを勝手に選んだのも原因だが。
「し、真剣にならないといけないのに……勇也君にハグされて力が出ません……!」
顔が蕩けていて集中できていない。それでもなんとか持ち直そうと奮闘を見せるが、そうはさせまいと俺は妨害工作を行う。その度に楓さんの身体から力が抜けて隙を晒す。120%本気になった梨香ちゃんに敵うはずもなく。第二戦目は梨香ちゃんの完封勝利で終わった。
「やったぁっぁぁぁ―――! さぁ、楓お姉ちゃん! そこをどいてください! 勇也お兄ちゃんの膝の上は私のものです!」
「うぅ……勇也君、卑怯です。私がドキドキするのをわかっていてプレイ中もぎゅぅってしてきましたね! しかもここぞの場面で耳ふーまでしてくるし! この勝負は無効です! 三戦目を要求します!」
楓さんの言う通り、ハグをしていても集中できるようになってきた楓さんに俺は耳に吐息を吹きかけたりした。それでもダメなら耳たぶを甘噛みするつもりだったが、その必要はなく勝負がついた。
「フッフッフッ。望むところです。でもその前に膝の上から降りてくださいね! えへへ。勇也お兄ちゃんの膝の上でゲームだ!」
嬉々として俺の膝の上に乗ってはしゃぐ梨香ちゃん。あぁ、ホント妹みたいで可愛いなぁ。ついつい頭をナデナデしたくなる。まぁそんなことをすれば当然のことながら楓さんが頬をフグのように膨らませて涙目になるんだけどね。でもその拗ねた顔ですら可愛いのだから楓さんも大概反則だ。
「ねぇ、今度は勇也お兄ちゃんも一緒にやろう!」
梨香ちゃんからの誘いを受けたので俺は秘かに用意をしていたキ〇ーブのコントローラーを接続した。これでみんなで遊ぶことが出来る!
「この対戦で勝って勇也君の膝の上を奪還します! 手加減はしませんよ!」
「ふふん! 今度はキャラを変えようかなぁ。でも勇也お兄ちゃんの膝の上は渡さないもんねぇ!」
おいおい。二人とも俺に勝つつもりでいるのか? スティックをカチャカチャと回しながら俺は使い慣れた剣士系のキャラを選択して不敵に笑う。
「俺が勝ったら……二人とも、仲良くするんだよ?」
それから十回ほど戦ったが。俺は一度たりとも負けることはなく、楓さんと梨香ちゃんを仲良くさせることに成功した。
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