第76話:楓さんのファションショー?
昼食を食べながらこの後の予定を話し合う。正直一番やりたかったお参りは終わったのでどうしよう。予定では楓さんが買い物をしたいといったが、何か買いたい物でもあるのだろうか?
「そろそろ新調したいなぁって思っているんですよね。どうせ買うなら勇也君の好みを聞きたいなぁって」
「ん? 俺の好み? 楓さん、何を買おうとしているの?」
なんだろう。春物の洋服かな? 今日のロングスカートは清楚系で可愛いけど俺としてはスタイルの良い楓さんにはタイトパンツも絶対に似合うと思う。いわゆる綺麗系の服装の楓さんを見てみたいなぁ。
「フフッ。決まっているんじゃないですか。それはぁ……し・た・ぎ、です」
顔を近づけて誰にも聞かれないように耳打ちしてきたその内容に俺は椅子から転げ落ちそうになった。何を言っているんですかね楓さん!?
「え、ダメですか? いくつか欲しいと思っているので勇也君が可愛いと思うものを着たいなぁって思っているんですか……選んでくれませんか?」
おいおいおい。俺が可愛いと思った下着を楓さんが着てくれるのか!? それは嬉しいと言うか恥ずかしいと言うか、でもそれを見る機会はあるのか!?
「安心してください。毎晩お風呂上りに着用して勇也君だけの鑑賞会を開いてあげますから」
「―――!!?? 楓さん!? あなた何を言っているんですかね!?」
「勇也君。大きな声を出したら他のお客様の迷惑になるから静かにしないとダメですよ?」
そんなこと言っても無理だよ! え、お風呂上りに鑑賞会!? 湯上りで火照った身体に俺が選んだ新しい下着を身に付けた楓さんを眺めるの!? なんだよその洗練された紳士の嗜みは!
「楓さん……どこまで本気で言ってるの?」
「フフフ。さぁ、どこまででしょう? 勇也君は、どこまで本気だと思いますか?」
アハハ。さすがの楓さんでもそんなことはしないよね? え、しないよね?
「それは……禁則事項です」
使い方、間違ってないかそれ。
*****
予想外なことに楓さんは宣言通り、ショッピングモールに入るや否や俺の手を引いて下着売り場へと向かった。
「あ、あの……楓さん? マジで俺も一緒にここに入るの?」
「そうですけどいけませんか? せっかくつけるなら勇也君の好みに合わせたいので忌憚のない意見を聞かせてくださいね」
どうやら俺に拒否権はないらしい。ごくりと唾を飲み込んでから俺は覚悟を決めて不可侵領域へと足を踏み入れた。
そこはまさしく桃源郷。色取り取りの下着が展示されている。若い女性客もちらほら見受けられるが彼氏同伴で入っているのは楓さんだけだ。おかげで突き刺さる視線が痛い。
「勇也君はどんな色が好きですか? 柄は? やっぱり可愛らしい花柄が好きですか? それとも大人な女性感の出るレース系? リボンブラって言うのもあるみたいです? わぁ……どれも可愛いですね、勇也君!」
そこで俺に振らないでくれ。お願いだからやめてくれ。どれも可愛いし綺麗なのは同意しかないのだが、その中でどれが楓さんに似合いそうかを選ぶとなると色々考えないといけないから苦行でしかない。
例えば目の前に展示されているマネキンが着用しているオレンジ色の花柄の下着セット。色合いは可憐で花柄も華美になりすぎていない絶妙なデザインバランス。マネキンが着用しているのはキャミソールでこれが何とも言えない妖艶さを醸し出している。もしもお風呂姿の楓さんがこの格好で出てきたら―――
俺はぶんぶんと首を振って邪念を払い、隣のマネキンに目を向ける。今度は大人な雰囲気漂う情熱のルージュカラー。デザインこそシンプルではあるがカップのサイドにあしらわれた薔薇が女性らしい美しさと簡単には靡かない心の強さ演出している。しかし驚くのはこのマネキンさんが履いておられるショーツがTバックということ。もしも楓さんがこの燃えるような下着を身に纏い、雌豹のポーズで迫って来たら―――
ダメだ。想像するな。どっちもいいがそれは俺の理性の絶滅を意味するぞ。そうなるのはお義父様にご挨拶をしてからにしないと。
「勇也君、大丈夫ですか? 先ほどから大分顔が赤いですけど……フフッ。勇也君はこういうのがお好みなんですか?」
「ひゃ!? かかか楓さん!? ち、違うよ!? たまたま目の前にマネキンがあって、それで楓さんがこういうのを着たらどうかなぁって想像していただけだよ!?」
「それで、勇也君の中でこれらの下着を着た私はどうでしたか? 可愛かったですか?」
「もちろん! そりゃはもう滅茶苦茶エロ可愛かったよ! それで迫られたらダメになる自信があ……る、ね……」
俺は何を言っているんだ!? どうして素直に思ったままを話してしまったんだ!? 言うに事欠いてエロ可愛いってなんだよ。そんなこと言ったらバスタオル一枚やパツパツのスクール水着、ノーブラパジャマだって相当エロ可愛かったぞ。
「そ、そうですか。エロ可愛いですか……うぅ。まさか勇也君がこういう下着が好みだったとは……予想外です。ですが!」
楓さんは頬を朱色に染めながら覚悟を決めた戦士の目つきとなって俺がついつい妄想してしまったマネキン着用の2つの下着セットを無言で手に取ると試着室へと向かった。さすがにここから先は俺は立ち入りはできないので店の外に出ることにした。
十数分後。楓さんはそのままレジへと向かってお会計を済ませてテコテコと俺の下へとやってきた。顔が先ほどよりも赤いけど大丈夫か?
「えへへ。着てみたら思っていた以上に可愛かったので両方とも買っちゃいました。これで勇也君をメロメロにできますね!」
「大丈夫。すでに十分すぎるくらい楓さんにメロメロになっているから」
それにメロメロになるというかドキドキでバクバクになるといったほうが正しいだろうな。可愛くて抱きしめてキスをするだけで留まれるかそろそろ自信が無くなる。
「そ、そうだ! 試着室の中で自撮りしてみたんですけど写真見ます? 見ます?」
さらに顔を赤くして俺に迫ってくる楓さん。なんだろう、どうしても俺を赤面させない時が済まない負けず嫌いモードに突入したのだろうか?
「いや……そこは写真じゃなくて生で……ね? その時を楽しみにしてるよ、楓さん」
「―――!!?? 勇也君!?」
フハハハ! 俺は自身の理性をリリースして楓さんの照れた可愛い顔を特殊召喚するぜ! いつまでもやられっぱなしだと思うなよ!
「もう……そこまで言うなら絶対鑑賞会開きますからね。覚悟していてくださいね」
口を尖らせて少し拗ねたように言う楓さん。返しの一撃で俺のライフは見事に0になりました。
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