第55話:勉強会 in 愛の巣

 迎えた週末。10時過ぎに伸二と大槻さんが家にやってきた。一体何時間勉強する気なんだよと呆れるが、どうせ昼ご飯を食べたら集中力が切れて中だるみするからちょうどいいのかもしれないな。


「ポテチよし! チョコレートよし! コーラもよし! 準備万端! これで勉強が捗るね!」


 ニャハハと笑う大槻さんのテンションは無駄に高く、パートナーである伸二も苦笑いしている。楓さんもどこか呆れ顔だ。ちなみに今日の楓さんは伊達眼鏡をかけている。理由を尋ねたら、


『フフッ。家庭教師感を出そうと思いまして。どうですか、似合っていますか?』


 控えめに言って最高、と返しておいた。眼鏡姿の楓さんはお姉さん感が増してとても良い。甘えたい。


 おっと、変なことを考えるのはこの辺りにしておこう。


 その楓さんは大槻さんが持ってきた大量のお菓子をお皿に盛りつけてテーブルの中心に置いた。この絵面だけを見れば勉強会というよりただのお菓子パーティーだ。本当にやる気があるのか早くも不安になってきた。


「秋穂。真面目にしないとそろそろまずいと思うよ? 二学期の期末試験も赤点ギリギリだったよね?」

「日暮君の言う通りですよ、秋穂ちゃん。しっかりやらないとお昼ご飯は抜きですからね? お菓子も没収しますからそのつもりで」

「そ、そんな殺生な!? 今日の一番の楽しみは楓ちゃんの手料理なんだよ!? それを私から奪うなんて酷いよ! 酷すぎる!」


 そうか。大槻さんは見かけによらず成績があまりよろしくないのか。楓さんは入学以来学年一位を死守しているし、俺と伸二はちょうど真ん中か下くらいの成績。だが今回俺は学年ベスト10に入ることを目標にしている。一葉楓の彼氏として恥ずかしくない自分でありたいからな。


「残念でしたぁ。今日のお昼ご飯は私ではなく勇也君お手製のラザニアです。勉強をしないなら私が秋穂ちゃんの分まで食べちゃいますのでそのつもりで」

「ヨ、ヨッシーの手料理……だと? 嘘、ヨッシー料理できるの!? しかもラザニアってオシャレな物を……」


 別にラザニアなんてそんな難しい物じゃないだろう。スパゲティ用に多めに作ったミートソースの余りをそのまま使っているだけだし、ホワイトソースは缶詰を買ってきて牛乳と混ぜれば簡単に作れる。あとは生地の間に交互に挟んでいけば下準備は終わり。オーブンで焼いたら出来上がりだ。


「勇也君が早起きして準備した特製のラザニアですよ? 本当なら独り占めしたいところを必死で我慢しているんです。それをいらないというのはどういうことですか! 怒りますよ、秋穂ちゃん!」


 勉強をさぼろうとする大槻さんへの怒りから俺が作ったラザニアを食べないつもりでいる大槻さんへの怒りへと変わっている。まぁ大槻さんは食べないとは一言も言っていないんだけどな。


「た、食べたいです! ヨッシー特製のラザニア食べたいです! だから勉強頑張ります!」

「よろしい。ではそろそろ始めますよ。秋穂ちゃんは私が見ておきますので勇也君と日暮君は自由に進めてください。わからないところがあれば聞いてくださいね?」

「ありがとう、一葉さん。うちの秋穂をよろしくね」


 自分の娘を敏腕家庭教師に預ける親のように頭を下げる伸二。体育会系の俺達より勉強ができないとなるとかなりの強敵だと思うが、楓先生なら大丈夫か。俺も楓先生に指導してもらいたいなぁ。


「フフッ。勇也君には今夜、特別指導してあげますから楽しみにしていてくださいね?」


 眼鏡をくいっと持ち上げて妖艶に微笑む楓さんに俺の心臓は一撃で撃ち抜かれた。やばい、過呼吸で死ぬかも。


「また始まったよ……シン君、生きてるかい? ちなみに私はもうダメかもしれない」

「秋穂……頑張ろう。頑張って耐えよう。もし来年二人と同じクラスになるようなことがあれば四六時中この様子に付き合わないといけなくなる。今から……慣れない……と……」


 二人がぶつくさ言っているが気にしない。楓さんの特別指導をご褒美に勉強頑張るぞ!

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