第21話:楓さんの声援は日本一!

「走れ走れ! ぶっ倒れるまで走り続けろ!」

「今のボール追い付けるだろう!? なんで諦めたんだよ、吉住!」

「日暮ともども、リア充は爆発しやがれコンチクショウ!」


 放課後。サッカー部に練習は何故か気合が入っていた。今日は珍しく紅白戦をしているのだが―――ちなみに俺は赤組―――俺に対する扱いが敵味方関係なくとてつもなく酷かった。おい、最後の言葉を言ったのは誰だ? せめて私怨を隠す努力はしてくれ。


「はぁ……はぁ……くそっ。先輩達気合入れすぎだろう」


 ゴールポストに手をつきながら俺は乱れた息を整える。なんだよ今のパスは。カウンターを仕掛けるのはいいとしてもDFラインからロングパス一本とか信じられない。球足が速すぎる上に精度も低いから尚質が悪い。追い付けるはずもなく、おかげで無駄に走らされることになった。


「まぁ原因は間違いなく……ったく、なんで見ているんだよ、楓さん」


 そう。先輩達の突然のやる気の源は教室の窓からグラウンドを笑顔で眺めている楓さんだ。あっ、目が合った。手を振るんじゃないよ。ちょっと嬉しいけどそれを見た先輩達の視線に殺気が籠るから。


「勇也君、ファイト!」


 手を振るだけにしておいてくれませんかねぇ!? 個人的に応援されるとされなかった先輩達の闘志にガソリンぶちまけることになって益々俺への当たりが強くなるんですけど。


「日本一可愛い彼女に愛されていると大変だね、勇也」

「うるせぇよ、伸二。それにまだ彼女じゃないって言ってんだろうが」

「まだ、ってことはいずれそうなるってことなんだね? 変なところで頑固だよね、勇也は。さっさと素直になればいいの」


 自陣に戻っていると、同じ赤組で相棒である伸二がのんきに声をかけてきた。いや、なんでお前がここにいるんだよ。守備はどうした? 俺が言えたことではないけど。


「大丈夫だよ。先輩達は一葉さんにいい所を見せようとすごく張り切っているから僕や勇也がいなくても守れるって」

「それは攻撃している白組も同じだろうに。まったく。普段からこれくらいやる気を出してくれたら都大会も勝ち抜けるんじゃないか?」


 今一やる気がないのだ、我がサッカー部は。でも個人の能力が低いわけではないから伸二のような突出した天才パサーがいれば、なんちゃってストライカーの俺でも十分得点は取れるわけで。あとは守備が成熟すればチャンスはある。


「勇也が一葉さんと付き合って、彼女にサッカー部のマネージャーになってもらえたら多分全国制覇できるんじゃない?」

「ハハハ。冗談はよし子さん。楓さんがマネージャーになったら気が休まらねぇよ。それより、無駄口はこの辺で終わりにして点を取りに行くぞ」


 冬だというのに走り回ったせいで汗をかいて湿った前髪をかき上げながら相棒に拳を向ける。伸二はひゅぅと口笛を一つついてからトンと拳を叩いた。


「そうだね、ここらで一葉さんに勇也のカッコイイところを見せておこうか。おぜん立ては任せてよ、ストライカー」

「ハッ。別にさっきから大きな声で声援を送ってくれている楓さんに良い格好見せようなんて思ってないんだからな! 紅白戦に勝ちたいだけだからな!」

「はいはい。ツンデレ、ツンデレ。むきになる勇也、可愛いなぁ」


 笑いながら走り出す伸二。おい、それはどういう意味だ! 俺がツンデレなわけないだろう!


「勇也くーーーーん!! 頑張れぇーーーー!」


 窓から応援の声を出すな。なんで今日に限って応援なんてするんだよ。これまでは気付かれないように黙って見ていたんじゃなかったのかよ。


「でも……応援されるのは悪い気がしないな」


 声援は時として実力以上の力を発揮するという。なら今日は楓さんの声を聞きながら、行けるところまで行ってみますか!


 その後。俺は伸二からの絶妙なパスをもらって得点を重ねて、紅白戦は赤組の3対0で勝利に終わった。全ての得点を叩き出してハットトリックを果たした俺は先輩達から称賛されることはなく、むしろ嫉妬の視線を向けられた。解せぬ。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ勇也君カッコイィイイィィィイ!!!」


 なるほど。楓さんが全力ではしゃいでいるせいか。と言うか楓さん、キャラ崩壊していませんか? そんなハイテンションでしったけ? 俺の居残り練習を静かに見ていたんじゃありませんでしたか?


「愛されてるね、勇也」

「お黙りなさい、シン君」


 ニヤニヤしているバカップルの片割れにして最高の相棒である伸二の笑顔がこの時ばかりは無性に腹が立った。

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