第632話 進む本題……ん?
みんなの視線が俺に集まる。
でも大丈夫、これは予見していたから。
色とりどりの可愛くて綺麗な眼差したちに捉えられても、今なら平気。
だって俺は覚悟を決めて言ったんだから。
そう。
言った。言ってやった。
讃えよ俺の勇気を。
そんな俺の
「終電? えっと……おわっ、あと25分しかないやっ」
早速今日の主役がスマホを確認してハッとした表情を見せた——
「私は下り電車ですのでまだ大丈夫です。でももうすぐ日が変わっちゃうんですね、早い……」
「あたしとカナさんは今日はここか隣のクズんちに泊まるっす!」
「いや、たしかにあたし明日休みだから帰んなくてもいいけど、ここには泊まんないって」
「私はここから徒歩5分ですからー」
「アタシバイクだから無問題」
「でもたしかにもうこんな時間なんだね。亜衣菜さん話そうと思ってたことどうしようか?」
と思ったら、どうやら残りの時間を気にしなければならないのは亜衣菜さんだけだった。
それでも一応みんなが時計やらスマホやらで時間は確認してくれたことで多少は現実に目を向けてくれたのだが、俺が望んだ「もう解散しませんか?」展開に同調してくれそうなのはだいと佐竹先生の二人くらい。さすが同業者……でも、え、まさかの俺の質問不発……!?
と、俺が予想外の手応えのなさに焦っていると——
「あ、そっか! その話しに来たんだった!」
だいの問いかけにもう終電まで時間が少ないらしい本日の圧倒的中心人物が、さっきよりも本気のハッとした顔を見せてきて、俺は思わずガクっとなる。
いや、忘れてたんかい!
正直PvPチームの話し合いは長くかかりそうって覚悟してたのに!
「でも、そだねー。……うん、本当は色々ね、思うところはあったんだけど」
そんな俺の胸中をよそに、ちょっともにょもにょしつつ、穏やかというか楽しそうというか、そんな表情で亜衣菜が何か言い出して——
「今日みんなと話してみんなと仲良くなれた気するしさ、なんか3人じゃなくてもいっかなって思ってきちゃったっ」
最後ににぱっとした笑顔を見せ、亜衣菜があっけらかんとこう告げた。
だがその言葉に俺とだいは「え」って感じになったのだが、それ以上に——
「おいおい、そんな簡単にいいのかよ?」
拍子抜けというか肩透かしというか、そんな簡単に決めていいのかよと聞きたそうに、レッピーは困惑した顔を見せていた。
でも——
「うん! だって恋々亞ちゃんめっちゃ可愛いんだもんっ」
「……は?」
「あたしも好きになっちゃったしっ」
レッピーの動揺を全て飲み込むかのように、太陽のような笑顔が炸裂する。
だが——
「え? え……は!? いやそれどんな理由だ——」
「それにりんりんが恋々亞ちゃんのことすごく信頼してるみたいだからさっ」
「「え?」」
そんな亜衣菜とは対照的にレッピーは完全に意味が分からんと眉を顰めてたけど、そんな表情お構いなしに続けて放たれた「俺がレッピーを信頼してるから大丈夫」って発言に、俺とレッピーの声がシンクロする。
え、なんでそれが判断基準になるってんだ?
そんな疑問が浮かぶけど——
「たしかにゼロやんとレッピーさんは付き合い長いだけあって仲良しだし、すごい信頼し合ってるよね」
「え」
「あっ、菜月ちゃんの太鼓判ももらえたねっ。じゃああたしはやっぱりあたしたちと勝ちたいって思ってくれた恋々亞ちゃんを信じるよっ」
だいの加勢を受けご自慢の可愛いお顔でバシッとウインクを決める亜衣菜の様子は変わらない。
堂々と晴れやかに、そんな表情を浮かべていた。
「それに正直楽しくやろうって言ってたけど……あんまし勝てなくてちょっとモヤモヤしてたのは事実だしっ」
そしてそんな太陽みたいな表情のまま、スパッと密かに思っていたことを打ち明けてきて、この言葉に俺は思わず苦笑い。
まぁ結局ね、本気でやってるゲーマーとして、勝てなくても楽しめるけど勝てた方が楽しいだろううなって思っちゃうのは俺たちの本能で、もうある種の呪いなんだろうね。
そんなこれで一件落着感を見せる俺たちに。
「提案しといてなんだけど、そんな簡単に決めていいのか?」
ここまでとんとん拍子に話が進んだのがまだ自分の中でしっくりいかないのか、提案した側のレッピーが食い下がる。
しかしあれだな。トリオからスタンダードを提案してきたレッピーが、本当にトリオじゃなくていいのかを聞いてて、トリオがいいっつってた亜衣菜があっさりスタンダードでいこうって言ってるの、完全に立場逆転してるじゃんな。
そうなると、この戦いの結末は見えている。
「だってゲームだよ? 友達と楽しく遊べるなら、それはゲームとして正しくない?」
そしてレッピーへのトドメの一撃となったその言葉は、この中で誰よりも本気でLAをやってる亜衣菜だからこそ、重みがあった。
「おー、セシルいいこと言うなぁ」
そんな亜衣菜の言葉に太田さんが感嘆の声を出すが、こう言われてはもうレッピーに返す言葉などあるわけもなく、それ以上何か言い返すことなくベッドの上にぺたんと座ったまま「そっか」と告げるのみだった。
これで俺・だい・亜衣菜のトリオチームにレッピーが加わって総勢4人のチームが決定する。
とはいえスタンダードは5人1チームだから、あと一人。
「じゃああとは盾だけど……」
そんな状況が誰の目にも明らかになったところで、だいがスッと視線をあの人に向けながら、パーティに欲しい役割を告げると——
「構いませんよ。私が里見先生と北条先生の役に立てるなら」
だいの視線に即座に気づいた、この室内で唯一本職で盾をやってる佐竹先生が、これ以上ないくらいあっさりと躊躇いもなく自らパーティへの参加を申し出る。
「佐竹先生が入ってくれるなら心強いです」
「じゃあこれで揃ったねっ」
そんな彼女の申し出にだいが笑顔を見せ、だいがそう言うならと組んだこともないはずなのに亜衣菜も佐竹先生を歓迎する。
いや、本当簡単に決めるなこいつら、とは思ったけど、これは俺も望んでいた編成で、佐竹先生が入ってくれるなら
〈Zero〉:
〈Daikon〉:
〈Cecil〉:
〈Reppy〉:
〈Cider〉:
という形で昨日俺とレッピーが話し合った理想系のパーティが完成するのだ。
基本構想として、俺と亜衣菜が被ダメを受けないまま遊撃的に攻めつつ、だいが相手の支援職を狙う間、佐竹先生が敵の攻撃を引きつけ、それをレッピーが支援する、という戦闘の絵図が出来上がりってわけだな。
まぁ俺は佐竹先生の実力知らないんだけど、【The】でメイン盾やってるって話と風見さんの言葉を信じるなら、彼女もかなりの技量の持ち主ってことはたしかだろう。
そうなれば、これで俺たちの勝率は飛躍的に上昇する、はずだ。
「お兄様と菜月とセシルに、恋々亞とさっちゃんを加えたパーティっすか?」
そんな佐竹先生加入で俺たちのパーティが完成するって流れに、彼女をギルドメンバーとして擁するギルドのリーダーが、怒るでも悲しむでもなく、素な感じで何気なく尋ねてきたのだが——
「レッピーだっ」
「そうなるねっ」
「ごめんね。ギルドのメンバー引き抜く形になっちゃって」
レッピーがもうほとんどみんなにスルーされてるお決まりの噛みつきを見せつつ、亜衣菜とだいが風見さんに向かって頷くと——
「うちは自由主義ギルドなんで、さっちゃんがどうするかはさっちゃん次第だからそれはいいよ」
あっさり風見さんの了承は出たのだが——
「……でも、うん。そうなると……そっすね」
「どしたリリ?」
認めてくれたと思ったら今度は何故か風見さんが何か考え込む様子を見せ出して、その姿に太田さんがどうしたのかと声をかけると——
「じゃああたしとカナさんとうみも、あと二人メンバー探して組んでお兄様たちと戦いましょ!!」
ご自慢の八重歯を見せつける屈託ない笑顔で、高らかな提案が繰り出されたのだった。
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