第148話 世界中のパパとママにリスペクト
「おお、けっこう寒いな」
「でしょっ? 仁が寒くならないように、しっかり包んであげてねっ?」
「お、おう」
採掘場の中は、夏だというのにひんやりとしていて、少しずつ寒気を感じさせてきた。
しかしそれ以上に、本当にRPGのダンジョンの用な採掘場内部にテンションが上がる。
要所要所ライトアップもされてるようで薄暗い内部もけっこう遠くまで見通せるし、中はかなりの広さのようだ。
これを昔は人力で掘ってたとか、人間ってすごいわ。
「うぅ~」
「あっ、寒いかな? 大丈夫かなー?」
俺の腕の中で仁くんが身を縮めるような動きをしたので、俺はなるべく空気に触れないようにブランケットで仁くんをしっかり包んであげた。
無意識に言葉遣いが赤ちゃん向けになってしまうのはな、しょうがないよな。
しかし、赤ん坊は一人じゃ生きてけないって、よくわかるなぁ。
人間誰しも昔はこうだったはずだが、この子もいつかは自分の足で立ち、自分の言葉で話し、自分の人生を歩んでいくんだと思うと、人間って生き物のすごさを痛感する。
こんな可愛い子が、そのうちリダみたいないかつくてでっかい男に育っていくとか、想像つかないけど。
「そういえばさっ、ゼロやんはだいと結婚まで考えてるのっ?」
「えっ!? け、結婚なんてそんなまだ先のこと……って、な、なんでそれをっ?」
「さっきあーすが二人が付き合ってるって教えてくれたぞ。あーすと話したなら、俺にも言ってくれればよかったのに」
「私はお昼食べてる時にだいから聞いてたけどねっ」
あ、あいつめ!
直接言おうとしてたのに!
「あ、いや、俺から直接言おうと思ってたからさ。報告遅れてごめんな」
ばつが悪い感じで愛想笑いを浮かべる俺。
ちょっと罪悪感が募る。
ちなみにリダは俺より年上だけど、LA内でも普通にため口で話してるからか、敬語で話さなきゃって気には全くならなかった。
リダみたいな強面相手に、知らない人だったなら絶対敬語になっちゃうけど、ゲームの繋がりとはすごいものだ。
ほんと二人とも4年に及ぶ付き合いなだけはあるな。
「付き合ってどのくらいなのっ?」
「あ、まだ1か月ちょっとだよ。というか、だいが女性って知ったの、初めてのオフ会だったし」
「ほんとなのー? 明らかに女の子だったのにっ」
「いや、分からなかったって」
「まぁ、俺もそこはゼロやんに同意なんだけどな!」
「男は鈍くてダメだなーっ」
そう言って嫁キングは笑っていた。
みんなだいが女だと思ってたって言うけど、なぜ女性たちは気づけていたのだろうか、不思議である。
「付き合いたての割にはさっきの感じ、なんというか長年一緒にいる感あったけどな!」
「あー、ほら、知り合ってからなら7年経ってるわけだし?」
「そっかっ。ゼロやんとだいは
「うん、まぁね」
「すごいよなぁ、ゲーム内で知り合ったフレンドと付き合うなんて」
「しかも同業者で、部活も一緒に大会出たんでしょっ? いやぁ、おばさんびっくりだよっ」
「まぁ、うん。って、嫁キングは全然まだまだおばさんじゃないだろ?」
「えー、嬉しいこと言ってくれるじゃん? でももう30で、今年31だからねっ、若くないよ?」
「俺と3つしか違わんて」
「そうか、ゼロやんは今年28になるのか?」
「うん、俺とぴょんと大和……せんかんが同い年だな」
「あ、せんかんは職場一緒なんだっけ?」
「そうなんだよ。あいつが引退前の頃は学校違ったけど、まさか異動先にフレンドがいたとか、知った時はもうほんとびっくりしまくりだったよ」
「奇跡奇跡の連続だなー」
「返す言葉もありません」
こうして自分の口で説明すればするほど、自分のことながら驚くことばかりだな、ほんと。
そして奇跡は伝播するのか、まさかのだいがあーすと知り合いだったし。
「だいとあーすも知り合いだったなんてねっ」
「しかし、あのだいの様子はなんだったんだ?」
「あっ、そうだよな! やっぱリダもそう思うよなっ」
嫁キングの言葉に疑問を呈してくれたリダに激しく同意。
「ん~、そこは本人から聞くのがいいんじゃないなぁ」
「嫁キングも聞いてるのかー」
「うんっ、さっきのご飯の時に、こそっとぴょんが教えてくれたよっ」
「まぁ、今言えないってことは、よほどの事情なのかね?」
「おいおい、怖いこと言うなよっ!?」
うーん、でもやはり嫁キングもガードは固そうだし、教えてはもらえなさそうだな……。
まぁ、さっきのだいの感じ、あーすとそういう関係ってことはないと思うけど……。
そっと首元に触れる俺。
今首元には何もないけど、あのネックレスはだいが持っててくれてと思うと、ちょっとだけ安心。
「だぁ」
そんな俺の手に、仁くんがタッチしてくる。
なんだ? 大丈夫だよって? うん、ありがとな。
その行動をそんな風に解釈しちゃったりして、俺はよしよしと仁くんの頭を撫でてあげた。
「でもさっ、さっきのだいはいい顔してたし、変に不安なることはないんじゃないかなっ」
「うーん、そっか。ありがとな」
「大丈夫っ。ゼロやんもゲンと違ってイケメンだから大丈夫だよっ」
「本人目の前に言うことかよそれ」
そう言ってリダ夫婦が笑ってくれたので、俺も笑った。
この二人の仲の良さが伝わり、ほんとにいい夫婦だなぁと思うよ。
タイミング的には、今かな?
「リダはさ、なんてプロポーズしたんだ?」
「おお、いいねっ。ゼロやんいい質問だぞっ」
俺の質問に何故かテンションを上げる嫁キング。
年齢を感じさせない無邪気な笑顔に対し、なぜかリダは苦笑いだったけど。
「聞いてやってよっ」
「え、何々?」
「あー……もう、2年前か」
採掘場の通路の途中で立ち止まったリダは、まるで空を眺めるかのように遠くを見るような目になった。
いや、上はただの暗い天井なんだけど。
「あの日は俺と美香の交際記念日だった」
「ほー」
あ、リダも嫁キングのこと名前呼びなんだ。
いいね、そういう夫婦。
って、俺はだいのこと菜月って呼んでないけど。
「そして土曜日だった」
「ん?」
「記念日だったけどねっ、夜はみんなと遊んでたんだよねっ」
「土曜日ってことは、そうだよな」
ここでまさかのギルドの話が関わってくるとは、どんな関係が……?
「みんなと遊び終えた頃、日が変わるちょっと前だったかな……」
「ちなみにその日は活動前はデートしてたんだけどねっ」
「ほうほう……」
「いや、でもあの日は美香がちょっと体調悪いって、早めに帰っちゃったんだよ」
「いや~生理かぶっちゃってねっ」
「おおう」
そこはちょっと包み隠して言ってくれてもいいんですよ?
「その日のディナー中に、俺プロポーズしようと思ってたんだけどさ」
「えっ、ま、まさか?」
「指輪も買ってたんだぞ俺!」
「おお……」
なんとなく、先が読めてきたぞ。
くすくす笑い出す嫁キング。
その顔が見えて安心したのか、仁くんもキャッキャと笑い出す。
「やっぱりさ、交際記念日をプロポーズ記念日にしたかったので」
「うん」
「活動を終えてさ、せめて何か二人の場所はって思って、俺は美香をギルドハウスに連れてって」
「うんうん」
美香じゃなくて〈Soulking〉だし、連れてくってか、移動してもらうだよな、それ。
しかもあれじゃん、嫁キングのキャラ犬型獣人の男じゃん。
絵面は男キャラ同士じゃん。
「シンプルに、俺と結婚してくださいって言ったんだ」
「言ったじゃないよっ、あれは打っただよっ」
そう言って嫁キングが爆笑する。
その笑いにリダはばつが悪そうに苦笑い。
「まぁ、その直後に私から電話したんだけどねっ。どういうこと? ってっ」
「おう。それで、電話でもう1回言ったあと、車飛ばして指輪渡しに行ったんだぞ!」
「もう日付変わってたけどねっ」
なんという……。
二人の表情の違いに俺も笑ってしまったけど、なんか、俺とだいの告白の日にちょっとだけ似てるな。
あの日の俺たちは一緒にうちにいたから、だいから『ずっと前から好きでした』のログのあと直接「付き合ってください」って言われたけど。
うん、あれはいい思い出である。
俺らもゲーム内は男同士だったけどな!
しかし、やっぱ俺らにとってLAの世界はかけがえのない場所なんだなぁ……。
でもリダもほんとは直接言おうとしてたみたいだし、やっぱり、プロポーズは直接&指輪用意だよな。
もしだいとそうなるなら……指輪のサイズとかなんとか確認しとかないと……!
「ある意味記憶に残るプロポーズだったんだな」
「そだねっ。でも、私も結婚するつもりで付き合ってたから、嬉しかったちゃ嬉しかったけどねっ」
「おっ、あそこにだいとジャックがいるぞ」
立ち止まって話してたせいか、どうやら後続で入ってきた二人も俺たちの近くまで来ていたようで。
リダが手を振ったのに気づいた二人も、俺たちに手を振り返していた。
それに合わせて俺もだいに向けて手を振る。
ちょっと照れたように笑うだいに、一安心。
「言葉とか場面も大事だと思うけどさっ、やっぱり二人の気持ちだから、ゼロやんがその気なら、そこは大事にしてくんだぞっ?」
「勉強になります」
「でも、旦那としてのゲンは満点だけどねっ」
「子育ては楽しいぞ!」
「ほうほう」
「だぁ?」
俺の腕の中にいる仁くんもいい顔をしてるし、これは二人の愛をしっかりと受けてるから、なんだよな。
もぞもぞと動いたり、俺にタッチしてきたりする仁くんの愛らしさに、いつかは俺もと考え出す。
プロポーズ、結婚、子育て。子ども頃は大人になったら自然とそういうのに関わっていくもんだと思ってたけど、当たり前だけど、自然にはならないんだよなぁ。
俺がどうするか、どうしたいか。
自分のことは、自分で決める。当たり前のことなんだ。
もちろん、相手の気持ちもあるけど。
「ぶつかることも、イラっとすることもあるけどさっ、一人だと出来ないことも、二人なら出来ることもあるし、そういうパパになれるといいねっ」
「善処します」
「いつでも相談乗るぞ!」
「いや、ほんと頼りなるわー」
その流れでさらっと二人と連絡先を交換し、二人を【Teachers】のTalkグループに招待する。
でもほんと、二人と話せてよかったな。
まだ色々片付けなきゃいけないことはあるけど、自分の気持ちに真っすぐに、俺は俺の道を歩こうと思う。
リダ夫婦はほんと、尊敬できる二人だった。
その後もLAでの話や思い出話をしたりしながら、美しくライトアップされた採掘場内を見て回り、俺はせっかくの宇都宮観光を楽しむのだった。
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以下
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。
え、誰?と思った方はぜひご覧ください!
3本目は鋭意準備中です。こつこつ……。
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