第61話 男はツライよ
「分かった。話す。いいな?」
集中砲火を手で制して、俺は恨みがましくだいを一瞥した。
だいが少しだけ顔をしかめたが、もう知らん。
俺が助かる――かどうかわかんないけど――道はただ一つ。
まぁ隠せるとこは隠すけどな!
「まず俺が亜衣菜と会ったのは先週の水曜日だ」
「ほんとに会ったんだ~」
「ド平日からお盛んなこって」
「すぐそっちに持ってくな!」
無の境地で挑もうとしたのも束の間、即座に下ネタに持っていくぴょん。
何もないからな! ほんとに!
あったのは
「色々あって神田で飯食った後、秋葉原に行った」
「平日から秋葉原とか、オタクか!?」
「ゲーマーのあたしたちが言う言葉でもないけどね~~」
「というかさすがにそれは偏見よ……」
ぴょんのツッコミにジャックとだいが反応する。
いいぞ、そういうのはすごくいいぞ!
「で、秋葉原でたい焼き買ってたんだけど、そこでばったり亜衣菜に会ったんだ」
「うっわ、さすが
「だいだけじゃないんだね~、奇跡の相手」
「常時発動型スキルか」
「これがイケメンスキルキャップの力か~~」
「適当なこと言うな!」
両サイドの攻撃に耐えつつ、俺は話を続けようとするが。
「ゼロさんはたい焼きがお好きなんですか」
「え? いや普通だよ?」
「なら、わざわざ秋葉原までたい焼き買いに行くんですか?」
ギクッ
「たしかに!!」
「ゆっきー鋭い!」
避けたかった部分をいきなり掴まれ、俺の目が泳ぐ。
「はは~ん、名探偵ぴょんには見えたぞ? さてはゼロやん、誰かと仕事終わりにデートしてたな?」
「デ、デートなんかじゃないわよ!!」
「おや~~?」
「おやおや~?」
「あ」
なんでだああああああああああああ!!!
なんでお前がそこで自ら自爆しにいくんだあああああああああ!!!!!
「ゼロさんは、水曜日の仕事後に巨乳美人とデート……」
「違う! 違うから! ゆっきーその呼び方もやめて!」
「巨乳美人=
「ちょっと、ジャック!?」
「まな板の気持ちも考えてあげなよ~」
「誰がまな板じゃああああああ!」
だいの自爆から、個室内の盛り上がりはすさまじくなった。
もはや俺の言葉など誰も聞かないのではないかと思うほどだ。
ジャックとゆめは笑い、だいが顔を真っ赤にし、ぴょんが怒り狂う。
ゆきむらだけは変わらずぽーっとしてるのが、もはや人知を超えた存在のようにも見えてくる。
「ゼロさんとだいさんは、お付き合いされてるんですか?」
「え?」
「ないないないないないない!! そんなことないから!!!」
「うわ、全否定だ~」
「ゆっきーは怖いもの知らずだね~~」
ゆきむらの言葉にフリーズした俺。
そしてだいの全力否定が、多段攻撃のように俺の心をえぐる。
「あ、そうですよね。日曜日にセシルさんとお会いしてるって話でしたし、お付き合いされているなら、そんなことしないですよね。失礼しました」
失礼しました、じゃねえええええええええええ!!
やばいぞゆきむら。こいつが一番やばい。
お前攻撃受け流す
完全に核弾頭クラスのアタッカーじゃねえか!!!
「ゆっきーは面白いな~」
「私、ですか?」
「素晴らしいぞゆっきー!」
「あ、ありがとうございます?」
「天然さんだね~~、可愛いな~~」
「むむ???」
褒める要素どこだよ!! と俺は思うのだが、3人から褒められ(?)たゆきむらが首を
あ、だいはもう
しかしLA内と別人すぎるよゆきむら。
おじさんは君が怖いよ……!
「で、先週の水曜はだいと二人でご飯いって、秋葉原でたい焼き買って、そこで
「会って終わり~?」
どうせならだいも巻き込んでしまえとか、そういう邪念を持って先週の水曜の話から始めてしまったことを痛烈に後悔する。
低レベルなのに高位ダンジョンにつれてかれて、そこに置き去りにされたような、
「あーもう……。会って……だいと一緒に亜衣菜の家に行ったよ」
「わぁお!」
「だいも一緒なんだ~」
「3Pか!?」
「黙れまな板!!」
「おい! セクハラだぞそれ!?」
知るかこのまな板女め!
俺もついに一線を越え、ぴょんに一喝する。
あ、一線越えるとか、そういう意味じゃないぞ! 普通の意味でな!!
ちなみにだいは変わらず
このまま誰も蘇生魔法はかけないでおいてくれ。
「あいつああいう仕事してるからさ、マネージャーの子と同居してるらしいんだけど、そのマネージャーの子が、俺の教え子だったんだ」
「それは奇跡だね~~」
「もう何回目の奇跡~?」
「4Pだったか……」
俺の一喝で少し小声になったぴょんは無視。
というかほんと、こいつの頭の中はそれしかねぇのか!
話をやめたくなるが、じっと俺を見てくるゆきむらの目が、それを許してくれない。
逃げ出したくなる気持ちを抑えて、俺は話を続けるのだった。
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