第59話 元廃人の昔話

 全員の視線が声の方に移動し、少しに下がる。


「合言葉は、イケメンwith美女3人でいいのかな~~? 4人いるみたいだけど~~」

 

 俺たちに声をかけてきたのは、子どもだった。

 

 じゃなくて、子どものように、笑顔を浮かべた女性だった。

 

「その合言葉を知ってるということは!」

「はじめまして、ってのも変だね~~。あたしがジャックで~~す」


 ま、そうですよね。ええ、わかってましたよ?

 こいつらもそこまで驚いてないし、うん、俺も大人だからね。

 ジャックも女だろうって、思ってたよ!!


「ちっさっ」

「ゆっきーと比べちゃったから、ほんとにそうね……」

「わたしよりちいさ~い」

「じゃっくさん、はじめまして。神宮寺優姫です」

「いや、ゆきむらの方名乗るんだぞ?」

「あ、ゆきむらです」

「や~~、それっぽいな~~、って気づいてたんだけどさ、面白そうだからちょっと遠くで眺めさせてもらったよ~~」


 目が開いてるのか閉じてるのか分からないような細い目が印象的な顔が、楽しそうに笑っている。

 背は小さいけど、ゆきむらと比べるとちゃんと化粧もしてるし、うん、ジャックは年近そうだ。髪はミディアムのパッツン。目元が隠れないぐらいの長さだな。

 白のブラウスに、ネイビーのワイドパンツ姿なのも、仕事帰り感を感じるな。

 でも小さい。これは小さい。たぶん、145cmくらいじゃないか……?


 あ、ちなみに今日のみんなの恰好はゆめが薄緑のプリーツスカートに薄手のパーカー。

 ぴょんが英字が印刷された白Tに紺のガウチョパンツ。

 だいは……今日もワンピース姿。薄い青い色のロングワンピース。うん、可愛い。


 つかみんな、今日仕事だったんだよな……?


 俺はもちろん職場からだから、青地の半袖Yシャツにスラックスだぞ。


 あ、だいと青かぶりじゃん。べ、別に合わせたわけじゃないからね!!


「でさ~~、あたしも一つ先に言っとくね。改めまして、ジャックこと池田いけだしずる、今年で29歳、千葉で学校やってま~~す」


 まぁ、もう驚くこともない。きっとジャックも俺たちの会話聞いてた上での、言葉なんだろうなしな。


 もろもろの反応はあったものの、とりあえず全員集まったということで俺たちは、ぴょんが予約したという居酒屋へ、男1に対して女5という前回以上のハーレムで移動するのだった。

 



「ジャックも先生じゃなかったんだ~」

「まぁでも学校で働いてるし、いんじゃねー?」

「そうね、生徒からしたら図書室の先生みたいなものだものね」

「そう言ってくれると助かるよ~~」

「仲間がいて、よかったです」


 今日もしっかり居酒屋は個室だ。俺の正面側には奥側からジャック、ゆきむら、だいと並んでいる。俺側は、奥側に当たる右にゆめ、ひだりにぴょん。

 この両サイドにはもう、嫌な予感しかしないぜ!


 ジャックの話し方はどことなくLA内の時と似ている。間延びする語尾だけど、ゆめと違って言葉遣い自体はさばさばしている。

 この中だと一番年上なわけだし、なんというか会話に余裕を感じるなー。


 逆にゆきむらは一番年下だからか、ずっと敬語だ。

 LA内だとため口なのに、あえてため口でいいとは誰も言わないのは、逆に気を遣ってるからなのだろうか。


「お待たせしましたー」

「おお、乾杯しよーぜ!」

 

 待ちに待ったアルコールの登場にぴょんのテンションが上がる。さすがザル女。今日もどれだけ飲むんだろうか。

 ちなみに俺とぴょん、ジャックが生ビールで、だいとゆきむらがウーロンハイ、ゆめがサングリアだ。

 うん、年長者だけがビールとか、なんかジェネレーションギャップ感じちゃうね。


「じゃ~、乾杯はジャックね~」

「え、あたしか~~」

「年長者年長者!」

「どうせアラサーだよ~~、じゃあ、リダの誕生日を祝って、かんぱい~~」


 さらっとゆめに指定されながらも、ジャックは慌てることなく乾杯の音頭をとってくれた。しっかり昨日の話も覚えてるし、さすが名サポーターメイス使いだな!

 みんなでグラスを合わせ、ついに第2回オフ会の開幕だ。

 

 男一人で、周り全員女性ってのがね、ほんと個室でよかったわ。


「いや~~、ゆっきーが先生じゃない、って話聞こえた時は安心したよ~~」


 会話の口火を切ったのはジャック。ギルドチャットでもけっこうおしゃべりな方だし、リアルでもそうなのかな?


「でも、どうして【Teachers】に入ったの?」

「あ~~、安心できる人が多いかなぁと思ってね~~」

「え~、どういうこと~?」

「この話長くなるけど、平気~~?」

「夜は長いんだ! 聞こうぜっ」


 だいの質問に、なんとも言えない顔で答えるジャック。細い目が、何となくだが困ったような、そんな感情を訴えている、ように見える。

 ゆめとぴょんは話を聞くのに前向きだな。

 もちろん俺もゆきむらも聞く気満々……いや、ゆきむらのやつ、なんで俺ばっか見てるんだ……?

 話の中心はジャックですよー?


 ウーロンハイの入ったジョッキを両手で持ち、口をつけながら、会った時と変わらぬ、ぽーっとした目でずっと俺を見ている。

 え、何この子? どうしたの?


「あたしがるっさんとこ【Vinchitore】にいたのはもうみんな知ってると思うけど~~、昔あそこもオフ会やったんだよ~~」

「え、ゲームしか興味なさそうなのに!」

「いが~い」

「そりゃ全員が来たわけじゃないよ~~? 幹部会でそんな話をしてね~、結局首都圏メンバーだけ集まったのさ~~」

「幹部って、誰だ?」

「ええと、ルチアーノさんに、セシルさん、リチャード、せみまる、もぶくん、うめ、やまちゃん……」

「あとはくもんね~~」

「聞いたことあるメンバーばっかだね~」


 ぴょんの質問にだいが【Vinchitore】の名だたるプレイヤーたちの名をあげていく。

 セシルとかやまちゃんの名前を今は聞きたくなかったが、まぁしょうがない。


「くもんは影薄いもんね~~。まぁオフ会やろうの言い出しっぺはあたしだったんだけどさ~~、結局住んでるとこもあるから、来たのはあたし以外はくもんともぶくんだったのさ~~」


 あ、亜衣菜とか行かなかったんだ。やまちゃんは……4年以上前だと下手したら高校生か未成年か、そりゃいかねーわな。


「くもんさんって、誰だっけ~?」

「【Vinchitore】の、短剣使いじゃなかったかしら?」

「くもんは苦無キャップスキル350だよ~~」

「キャップ2つって、ほんと信じらんねーなー」

「ゼロやんの銃でいくつなの~?」

「俺? 今333」

「それも十分すげーよなー」


 さすがゲームのオフ会らしく、前回とは違いそれっぽい会話になったな。

 ちなみにたぶん、スキル300オーバーを持ってるのはうちのギルドだと、俺とだい、ジャックだけだと思うぞ。


「それでそれで~? オフ会どうだったの~?」

「くもんはあたしより2つ年上の、在宅でweb関係の仕事してて、もぶくんは30くらいのイメージ通りのニートだったよ~~」


 なるほど、在宅ワーカーか、それでログイン多くできてるのかな。

 きっと5年くらい前の話だろうが、今でももぶくんは……いや、もう皆まで言うまい。


「まぁそれなりにLAの話は盛り上がったんだけどさ~~、オフ会後から、よくわかんないけどあたし、もぶくんに狙われちゃったみたいでね~~」

「え、で?」

「そそ。なんかオフ会以降粘着されてさ~~」

「うわ、キモ」

「こわ~」

「恐ろしいわね……」


 可哀想にもぶくん、フルボッコだぞ……でも俺みんなに同意だけど。

 つかあれだな、萩原にもこの話はしとかないとな。

 教え子に何かあったらとか、恐ろしすぎる。


「ずーっとキャラについてきたりとか、アカウントメッセージとか送ってくるからさ~~。さすがに色々怖くなって、ギルド抜けたってわけさ~~」

「なるほど、人間関係かー」

「通報案件じゃない……」

「うちはそういうのなくてよかったよね~」

「ほんとだなー。むしろゼロやん争奪戦だしな!」

「俺が辞めたらとか思わねーのかよ……」

「は?」

「なんで?」

「やめないくせに」

「ゼロやんモテモテだね~~。ウケる~~」


 いまだに俺をじっと見てくるゆきむらとジャック以外の対応は、もう慣れたよ……。

 ああ、男の仲間が欲しい……!


「それで、ジャックはギルド抜けて、うちに入ったのか」

「そそ。【Teachers】の加入条件見て、あ、ここなら安全かも! って思ってさ~~。昔はあたしもフリーターやってたけど、抜けてから学校司書になった感じだね~~。疑いもせずにリダがギルドいれてくれてよかったよ~~」

「私は、ギルドにジャックがいた方が驚いたけど」

「それは俺も思ったわ」

「ジャックってそんな有名だったのかー」

「たしかにうまいもんね~」


 俺とだい、ぴょんとゆめで反応が違うが、これはまぁキャリアの差だな。

 うまいなんてもんじゃない。かつては乱立していた廃ギルド経験者で、ジャックを知らないやつなんていなかったくらいだからな。

 

「抜けるって話したときはみんなに止められたけど、くもんがあたしの味方してくれてね~~」

「おお、くもんいい奴じゃん!」

「そそ。くもんは今でも付き合いあるんだ~~」

「あ、ジャックがルチアーノさんのとこに助っ人でいったりするのは、その繋がりがあったからなのか」

「そだよ~~。でも、まだ繋がってるしね~~」

「え?」

「おお! それはどういう意味で!?」


 ジャックの突然の言葉に、みんなが前のめりになる。

 あ、ようやくゆきむらも俺から目線を外してくれたぞ!


「ご想像の通り~~。実はあたしくもんと付き合ってんだ~~」


 なんと!!

 ジャックの言葉にみんなが歓声を上げる。

 この前プライベートの話聞いた時は「彼いないの?」って聞いたから黙ってたんだろうか……。


 とりあえず、自分で言うのもなんだがぴょんの言う争奪戦参加者が増えないのはありがたい。

 あれだぞ!? 自意識過剰とかじゃなく、ぴょんにいじられる人が減るからだぞ!?



 しかしながら恋人持ちが一人いるだけで話はそちらに集中する。

 みんながジャックにあれやこれやを聞きながら、第2回オフ会は進んでいくのだった。




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以下作者の声です。本編と関係ありません。

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 ゲーム内やTalk会話で慣れてしまうと、オフ会パートは誰が誰かわかりにくいところがありますが

倫:一人称俺

だい:一人称私 女性口調

ぴょん:一人称あたし 言葉を伸ばすときは「ー」

ゆめ:一人称わたし 言葉を伸ばすときは「~」

ゆきむら:一人称私 敬語

ジャック:一人称あたし 基本的に語尾が「~~」

 で書き分けています。

 読み取りづらいところがありましたら、ご参考までに……。

 もしミスっている部分があればごめんなさい!

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