前科3犯、現在逃亡中のおっさん性奴隷を買う

@ma-no

第1話 逃亡者


「ホッホッホッホッ」


 その男は自由を感じ、足取り軽く走っていた。ただし、見た目は重量級。背は平均より高いぐらいだが、はち切れんばかりのマッチョな体をしている。

 この体では、装備している皮の胸当てが申し訳なさそうにしている。歳もそれなりにいっており、見た目通りのおっさんだ。


 目的地は、誰も自分の事を知らない町。ゆえあって、他所の国からやって来た男は走り続ける。


 そうして軽やかに走っていたら、目の前に襲われている馬車を発見した。


「オークか……ま、俺には関係のない事だ」


 見て見ぬ振り……馬車がオーク二匹に襲われていても、男はスピードを落とさずに軽やかに走り、馬車の横を避けようとする。


「ひぃぃ! た、助けてくだされ~」


 しかし、馬車の後ろから顔を出した老人は、必死の形相で男に助けを求めて来た。


 その顔を見た男は悩む。


 悪い老人には思えない。しかし、騙して来る可能性は考えられる。かといって、見捨ててしまっては寝覚めが悪い。

 男は悩んだ結果、オークに突撃した。いや、男の走る道を塞いだオークと衝突した。


 オークは男より大きい。力負けするわけもない。簡単に押し潰せる。


 誰しもがそう考えられる状況で、結果はまったく別となった。


 男に倒されたのはオーク。それもぶつかった衝撃で遠くに飛ばされた。

 仲間のオークがそんな目にあわされたならば、もう一匹は怒り、走って近付く男に棍棒を振り下ろした。


 木っ端微塵。男の頭ではなく、棍棒がだ。オークが驚いたのも束の間、男の体当たりによって吹き飛ばされる。

 そこにトドメ。まだ息のあるオークに、男は顔を踏み潰して走り去り、もう一匹も踏み殺したら、カーブして馬車の前にて止まった。


「じいさん。もう大丈夫だ」


 馬車に戻って一声掛けると、恐る恐る老人は外に出て来た。


「あ、ああ……もう命が無いものと諦めていました。このご恩、どうお返ししていいか……」

「別に返さなくていい。それより、俺に近付かないでくれ」


 ヨロヨロと近付く老人に、男は制止を求める。よっぽと近付かれたくないのだろう。


「しかしあなた様は冒険者でしょう? オークを簡単に倒したところをみると、立派な職業の高ランク。そんな人にお礼をしないわけには……あ! お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「名乗る名など……いや、もういいのか?」


 老人の質問に、男は何やらブツブツ独り言を呟いて答えを出した。


「俺は、ヤ……タピオ。職業もたいした事はない。じゅ……武術家。最近、冒険者登録をし直したから、ランクは一番下だ」


 タピオと名乗ったおっさんは、この物語の主人公。何やら歯切れの悪い自己紹介であったが、理由があるからだ。

 三回ほど強姦罪で逮捕されている。そして現在は、隣の隣の国から逃亡中。名を変え、職業を偽り、ひっそりと暮らす予定だったのだ。


 老人もタピオの説明に引っ掛かっていたが、命の恩人にあれやこれやと聞くのは失礼と感じ、それ以上の詮索はしなかった。


「わしは……」

「ああ。名前はいい。それより、オークは俺が貰っていいんだよな?」

「は、はい。もちろんでございます」


 タピオは手際よく解体すると、高値で売れる部位と自分が食べる肉、魔石だけをアイテムボックスである腰袋に入れる。

 残りは道から離れた場所に、スコップで大穴をあっと言う間に掘って埋めていた。そうして作業を終えたタピオは、走り出すのであっ……


「待ってくだされ!!」


 いや、老人に止められて、仕方なく近付く。


「まだお礼が終わっていません。どうかこれを受け取ってくだされ」


 老人は金貨の入った袋を手渡そうとするが、タピオは手の平を前に出して止める。


「いらないと言ってるだろ」

「そういうわけには……」

「馬もいないんだから、ここを通った人に助けてもらうのに必要だ。大事にしまっておけ」

「で、では、冒険者として雇わせてくだされ! 実は……」


 どうやら老人がタピオを引き止めていた理由は、馬車の積み荷を心配していたようだ。高価な品も乗っているので、もしも盗賊に襲われたならば命も失うが、息子に譲った店の信頼も落ちる事態になるので、タピオを雇いたいとのこと。


「それなら最初から雇っておけばよかったんじゃ……」

「そうしたのですが……」


 どうやら雇った冒険者は、傷んだ魔物肉を食べて途中下車。元々それほど危険な道ではないので強行したら、この始末となったようだ。


「しかし……護衛依頼なんて受けた事がない。馬も無しとなると……」

「一晩か二晩だけでいいのです。それだけ待てば誰かが通りますし、馬を用立てられるはず」

「そんなに時間が掛かるのか……面倒くさい……」

「そこをなんとか!!」


 必死に頭を下げる老人を見てタピオは悩み、面倒くさくなって渋々受ける。


「わかった。ただし、俺の要求を聞いてもらうぞ?」

「はい! なんでも言ってくだされ!!」

「じゃあ、行き先は……」


 老人の行き先はタピオと同じだったため、大金を貰うのは気が引けたようで、金貨一枚を前払いで要求する。

 そうして馬車に乗せられた老人は、頭にクエスチョンマークが浮かんだ。


「あの~……何をなさるででしょうか?」

「誰かを待つのも時間の無駄だからな」

「はあ……でも、馬も無しでは……」

「大丈夫だ。行くぞ!」

「う、うわ~!」


 老人の驚きと共に馬車は動き出す。それは何故か……

 タピオが馬車を引いて走り出したからだ。しかし、最初は驚いていた老人も、すぐに安心する。


「馬車と速度はさほど変わらないんですな」


 そう。タピオの走る速度は、馬が引く速度と変わらないのだ。本気を出せば、もう少し速く走れるのだが、ほんのちょっとなので、自分の疲れない速度をキープしている。


 安心感のある速度だったので、老人は御者台に座ってタピオの姿を眺める。しかし、人を馬車馬のように走らせるのはばつが悪いのか、あれやこれや話し掛けてしまう。

 タピオは自分の事になると口を閉ざし、老人の話には相槌を入れるだけ。だが、ずっと喋り続ける老人に、うっかり自分の情報を漏らしてしまった。


「その歳で、一回も結婚した事がないのですか!?」

「ま、まぁな。人見知りだから、こうやってじいさんと話すのも億劫おっくうなんだ」


 タピオはやんわりと話す事を拒否したのだが、老人は逆に武勇伝を饒舌じょうぜつに語る。

 やれ五股をしたことがあるだとか、やれ愛人は七人いただとか……タピオは辟易へきえきと武勇伝を聞いていたのだが、あるワードを聞いて足が止まった。


「どうかなさいましたか?」

「さっきの性奴隷ってのは、どこに行ったら買えるのだ?」

「おほっ。タピオさんも好きですな~」

「ち、違う」


 タピオは人見知りでもあるが、極端に女性を避けている節がある。それは三度もでっち上げの強姦罪で捕まったのだから仕方がないこと。

 なので普通の女は恐怖の対象。商売女も怖くて近付けない。一度男色に目覚めた事もあったが、それはあくまでも女に見えたからであって、もしも抱けるなら、迷わず女を抱くだろう。


 しかし老人の性奴隷発言で、諦めていた童貞喪失を叶える事ができると考えて、やや前傾姿勢で走り続けるタピオであった。



 目指していた町に着くと、門の前で馬車を停車する。門の前にはそこそこの人だかりがあり、かなり変な目で見られていたので老人を降ろすと、ここで足早にお別れをする。


「あとは、誰かに馬を用意してもらえばいいだろう。それじゃあな」

「待ってくだされ。これをお持ちになってくだされ」

「手紙??」

「これは、その……読んでもらえばわかります!」

「?? まぁあとで読むさ」

「本当に助かりました。有り難う御座いました!!」


 深々と頭を下げる老人をあとに、タピオは門へと向かう。そこで門兵に、首から下げた冒険者証を見せて、中に通してもらった。


 町は栄えすぎず、かといって寂れているわけではなく、ほどほどの活気があり、タピオは冒険者ギルドで聞いた情報通りだとホッと胸を撫で下ろす。

 そうして町並みを見て歩き、何軒か宿屋を見てから、二番目に安い宿に入って部屋を取る。

 夕暮れ時とあり、一階の食堂で夕食をいただくと、部屋に戻ってベッドで横になる。タピオはこのまま眠ってしまおうかと思ったが、老人から受け取った手紙を思い出し、ゴソゴソと取り出した。


「手紙だけか……」


 タピオは、老人がどうして焦りながら手紙を渡したのかと不思議に思いながら目を通す。しかしその理由はすぐにわかる事となった。

 その手紙にはお勧めの宿屋と簡単な地図が書いてあり、それだけでなく、お勧めの奴隷館の名前が書いてあったからだ。さすがに大勢の目のある場所で、奴隷館の話はできないと老人は自重したようだ。


「ほう。明日は、この宿に行ってみるか。それとこの奴隷館にも……。あのじいさん、思ったより顔が利くみたいだな。まぁさっさと寝てしまおう。ふぁ~」


 と、独り言を呟いて眠るタピオ。いや、性奴隷に興奮して、一人でゴソゴソしながら何時間も眠りに就けなかったタピオであった。


 そして翌朝……


 タピオは目を血走らせて宿を出た。道行く人も、ズシズシと歩くタピオを見ては道を開ける。そうして老人から教えられた奴隷館に辿り着き、舘の前を何往復もしてから扉を開くタピオであった。


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『アイムキャット❕❕❓』

好評……かどうかわかりませんが連載中!!

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