第13話  消し去りたくても忘れられない過去

私に向けられる蔑視。


「なんでここに、こんな奴がいるのよ。目障りだわ」

「申し訳ありません!!!今すぐに追い出します!!」


私の目の前には無駄に派手な服装をした創一朗の妻の絢美と、絢美にぺこぺこと頭を下げ続ける男の姿があった。


その男が近くいた人に小声で何かを伝えると私のほうに歩いてくる。


「いたっ!」

「静かにしろよ。ああ、くそ!」


腕を乱暴に握りしめて引きずり出そうとする。私が声を上げると忌々しそうに私の口をふさいで外へと運び出そうとする。


「んーーー!!!」

「うるせえな」


声を上げて助けを呼ぶ私の首元を乱暴につかむと反対の手で扉を開けた。

満足したようにこちらを見る絢美を睨みつけながら、逆らえるはずもなくされるがままに引きずられていく。


「あのなあ、てめえのせいでこっちにも被害が出るんだよ。わかるか?お前は邪魔なんだ。だれにも求められてない。お前はな─────」


幾度となく繰り返されてきたその言葉を聞き流す。


遠くで男の怒鳴り声が聞こえる。意識して聞かないようにしてるからか、頭の中には内容が入ってこない。


聞いていないことがばれたのか、はたまた気に入らなかっただけなのかはわからないが男は私の口を押さえていた手を振り上げて、私を殴った。世間に出すときにばれないように顔は避けながら。本当に陰湿な手段だ。


「かはっ………」


腹に鈍痛が走る。息ができない。涙がこぼれる。


どうして私が、どうして私だけが。

そんな疑問が頭を駆け巡る。

小さいころから変わらなかった。

私だけが。


私を生んだ母親が憎い。

絢美が憎い。

私を見ている人が憎い。

幸せそうな顔をしている人が憎い。


すべてが怖い。







………………


………






~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~





「坊ちゃま!!」


子供のころから一緒にいる大越がこっちに走ってくる。子供のころからいるといっても俺のほうが若干年下なのだが。


「………坊ちゃまはやめろって言っただろ」

「じゃあなんとお呼びすればよろしいので?」

「いつも通りでいい」

「……かしこまりました」


大越がわざとらしくお辞儀をしてからにやにやとこっちを見る。


「お前俺に嫌がらせしようとしてるだろ」

「してないですよー」

「はあ………せっかくだから友人として接してほしいと何度言ったらわかるんだ」

「まず涼人が堅苦しいしゃべり方してるからだろ?」

「……この話し方は癖だ」


母親から話し方については叩き込まれた。幼い子供にやるような内容じゃないと思うのだが、平気な顔して厳しいことを言ってのけていた。


「まあいいさ。そういえば今度如月家の娘と会食するんだろ?」

「ご息女な。言い方には気をつけろ。お前だって執事だろ?」

「へいへい。で、どうなんだ?」

「……………別にどうってこともない」

「嘘だ。だって許嫁だろ?」


そうだ。


もうすでに決まっていることだが、如月家の娘は───愛美という名前なのだが───俺の許嫁だ。


正直思春期すら到達していない俺はまだ実感がわかないのだが。


「……いろいろあるんだろ?」

「…………」


いろいろ、とはどの程度のことだろうか。


まあ一応はライバル企業だ。あるにはある。


「ほら、あそこのご息女ってちょっと不気味じゃん」

「……そうか?」

「まあ……なんていうかな。ちょっと暗いし」

「俺にはわからないな」

「そうか。ならいい」


……以外にも大越はすぐに引き下がった。こういう時の大越は自分の意見を語りつくすことが多いような気がしていたのだが。


「あー………会うの初めてだっけ?」

「……?」

「いや、その……如月家のご息女と」

「会うのは初めて……だな」

「そうか。わかった」


大越は如月愛美について何か知っていることがあるのだろうか。

………大越が話したくないのなら別にいいか。




如月愛美と会うまであと七日だ。

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