698.マルちゃんの部屋・決着

 それからナナとコカトリス姉妹の暗算対決は苛烈を極めた。


「わふわふ。11532✕236は?」

「2721552……!」

「ぴよっ!」(2721552っ!)


 ほとんど同時に答えるナナとコカトリス姉妹。すでに15分近く、暗算対決は続いていた。


「わふー。652+78+1256+25は?」

「2011!」

「ぴよよ!」(2011!)

「くっ……まさか君たちがここまでできるとは……!」

「ぴよよ……」(ふふっ、食欲と睡眠欲さえなければこのくらい朝飯前だよ……)

「ぴよ!」(頭の回転をフルにすれば、どうということはない!)

「マルちゃん時空で一時的に雑念が消えてるおかげだぞ」

「……なるほど」

「それじゃ、どんどん続けていくんだぞ! 次は――」


 ◇


 それからさらに10分後。


「わふふ。826✕31456から7692を引くと?」

「……25974964!」

「ぴよ……ぴよ」(むにゃ……25974964)

「……ぴよ」(……すやー)


 コカトリス姉妹はでろーんとなりながらマルコシアスの問題に答えていた。


「ぴよ……」(んぁ、すや……)

「これは……?」

「ぴよ……」(風、気持ちいい……)

「ぴよよ……」(夢の中のひなたぼっこ、さいこ〜……)

「まさか、夢の中でもお昼寝するの?」

「どうやらこの爽やかな草原に飲まれてるんだぞ」

「僕にとっては眩しすぎて落ち着かないけど」


 ナナはもぞもぞと身体を揺らした。ヴァンパイアであるナナは太陽の光を苦手とする。

 ここはマルちゃん時空なので肌がチリチリすることもなく快適だが、日光の下は不慣れである。


「わふ。決着がつくまで続くんだぞ。93156✕741は?」

「69028596……!」


 ナナが答える横でコカトリス姉妹の身体がゆらゆらと揺れて、まぶたが落ちる。


「ぴよぅ、ぴよよ……ぴよー……」(むにゃ、69028……すやー……)

「ぴよー」(くかー)


 コカトリス姉妹は草原の風に負け、眠りに落ちた……。


「ナナの勝ちなんだぞ……!」

「なんか釈然としないけど」

「マルちゃん時空は30分までだから、ちょうど良かったんだぞ」

「うん?」

「深く考えちゃダメなんだぞ」


 マルコシアスが前腕をぴっと上げる。


「わふ、それでは景品なんだぞ」

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