687.魅せプ

 ぽにぽぽにー。

 駆け出したナナが最初の板から、華麗にジャンプをキめる。


「てーいっ!」


 ぴょーん!

 着地も優雅そのもの、その後の動きもよどみなく止まることがない。


「とーうっ!」


 それはまさに、神業というべきものだった。


 どう見ても着ぐるみの動きじゃない……!

 中に人がいないかのようだ。というか、俺と可動域が違いすぎなような……?


 見た目は俺とそれほど違わないが、動きは別次元だ。


「すごぴよー!」

「ウゴ、柔軟な動き!」

「……関節どうなっているんだぞ?」

「関節部位にも魔力アシストを組み込んでいるんでしょうね。ただ、身体のあちこちに魔力を行き渡らせての操作はかなり難しいかと……」


 ふむふむとステラが真剣に見つめている。


「なるほど、器用だな。俺は今のままでも手一杯だが……」


 その間にもナナはぽにぽにぽにと訓練場を高速で突破している。

 速度自体はステラのほうが上、しかしナナは着ぐるみ着用だからな。

 ちなみに俺とは比べ物にならないほど速い。


「ナナは様々な武器を使う戦闘スタイルですからね。身軽に動けるほうが理屈に合っています」

「ぴよ! もうゴールぴよよ!」


 ディアがぴっと羽を掲げる。


「それっ!」


 最後にぴょーんと大ジャンプしたナナ。

 おお、格好良く決めるつもりか!


 ナナが板の上に着地しようとした、その瞬間。


 ……つるっ。


「「あっ」」


 盛大にナナが滑った。


「ぐえー」


 ごちゃ。

 ナナが思い切り、顔面から板に突っ込んだ。そのまま、ナナは倒れ込む。


「死んだぴよね……」

「悲惨な事故なんだぞ……」

「だ、大丈夫のはずだ……」


 駆け寄ろうと腰を浮かすと、ナナがすくっと立ち上がる。何事もなかったかのように。


「ふぅ……これでゴールっと」


 ……ステラが俺にちらちらと視線を送っている。

 何と言っていいかわからないんだろう。


 こういう時は……!


「さすがだ、速かったぞ!」


 俺は空気を読んだ。


「ウ、ウゴ……! 速かった!」

「そ、そうですね。とても良いお手本でした!」


 速かったのは事実だ。

 最後につるっといったが、見なかったことにしよう。


 ちらっ。

 俺はディアを横目で見た。


 ディアはマルコシアスとひそひそ話している。


「ぴよ……。思い切り転んだ気がしたぴよね……?」

「き、気にしちゃダメなんだぞ。ちゃんと高速でゴールしたんだぞ」

「そうぴよ、ゴールしたぴよ!」

「わふ、それが大切なんだぞ!」

「ぴよ! 速かったぴよー!」


 ふぅ、よかった……。


 まぁ……最後はアレだったが、途中まで華麗だったのは事実だ。


 うん、しかし油断はしないようにしよう。

 魅せプは危ない……俺はひそかに心の中で誓ったのであった。

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