680.ステラと着ぐるみ

 ザンザスへ行くことを決め――ふと、俺は思った。


「そういえば、ステラは着ぐるみを着ないのか……?」

「ぴよ。そーいえば、そーぴよね」


 もっふもふ。

 ディアがステラの顔の上、ちょうど眉間のあたりでもぞもぞする。

 普通ならあそこに何かが乗っていると落ち着かないだろうが、ディアは別である。

 ふわもっこ効果により、天国の心地なのだ。


「あふ、そこに気が付きましたか……」

「言われると、我先に着ぐるみへ入りそうなんだぞ」

「ウゴ、確かに……」

「わたしもぴよ着ぐるみは愛しているのですが、どうも落ち着かないのですよね」

「ほう、そうなのか?」


 意外だな。

 ステラのコカトリス好きはかなりのものだ。まさか感覚的に落ち着かないという答えが返ってくるとは。


 ステラがエルフ特有の長い耳をぴくぴくさせた。


「まず……耳が引っかかります」

「……これぴよ?」


 ディアの羽がそっとステラの耳に触れる。


「さらにわたしたちエルフにとって、聴覚は極めて大切です。着ぐるみの中だと、うまく音を捉えられません」

「なるほど……」

「思ったより真面目な理由なんだぞ」

「ウゴ、それだと大変だね」

「パジャマくらいなら問題はないのですが、全方位を囲まれていると……」


 ステラのパジャマはふわふわもこもこ、コカトリスを模したフード付きである。

 あれならば大丈夫なのか……。


 そこでステラがディアを抱え、すくっと身体を起こした。


「それはともかく、4層に向かうならば相応の準備が必要です……!」

「もちろんだ。ダンジョンへ行くのは万全を期す。あとは……」

「ぴよよ! ザンザスのおいしいものと! 観光スポットぴよねー!」

「わふー! 楽しみなんだぞ!」

「ウゴ、前に行けなかったところとか行きたい!」


 ウッドは一度、ステラとザンザスへ行っているからな。しかしざっと行っただけで、全体を回っているわけではない。


 ザンザスの博物館や図書館、劇場とかは俺も気になるところだ。


 ……話によるとステラとコカトリスの意匠がひしめき合っているらしいが。


「その辺もレイアに相談しようか。どのみち、話を通しておかないといけないからな」

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