667.砂の音袋

「おー、よってらっしゃい。ここらの名物、砂の音袋ですよ」


 店員のドワーフが朗らかに笑う。


「面白そうな品物だな」

「わかりますかい? これはここら辺で上質の砂を詰めたおもちゃでしてね」


 店員は手元にある小袋を手に取ると、上下に振り始めた。


 シャカシャカ、シャカ……。


 袋の中には砂が入っているのだろう。

 心地よい砂の音が聞こえてくる。


「ぴよ! いい音ぴよね!」

「わふー。和むんだぞ」

「ウゴ、ここだからこその音だね!」


 子どもたちが興味を示すと、店員は嬉しそうに微笑んだ。


「よくわかってるね。そう、よく音が出る砂を選んでいるんだ」

「複数の砂を混ぜているんですね」


 ステラが耳をぴくつかせる。


「おお、1回で聞き分けられるのかい? その通り、何種類もの砂を入れているんだ。でも音だけじゃないよ、これを手に取ってごらん」


 店員が俺たちに小袋を渡す。


「ぴよー。柔らかぴよね!」


 ぽふぽふ……。

 なるほど、綿より少し硬いが良い触り心地だな。


「音も鳴るぴよ!」


 シャカシャカ……。

 勢いよく振りたそうなのを我慢しながら、ディアがそっと振る。


「なかなかなんだぞ」


 マルコシアスも頬すりしている。

 楽しそうだな。よし、買っておこうか。


「ありがとう、一揃い買おう」

「どうも! 毎度あり!」


 音袋は等級分けがされていたので、がばっと広範囲に買ってみた。

 とはいえ、10個くらいだし大した荷物でも値段でもなかったが。


「シャカシャカぴよねー!」

「わふわふー!」


 ディアとマルコシアスは楽しそうにシャカシャカしている。


 物産展を見て回り、俺たちは砂コカトリスのお昼寝広場に戻ってきた。


「結構買いましたね」

「そうだな、思ったよりも収穫があった」


 主に買ったのは、今後の参考になりそうな冊子やらだが。例外は音袋だけだった。


「ぬいぐるみや人形類はなかったな」

「そういえば、そうですね。布が貴重なのでしょうか? 宝石類はたくさんありましたが」


 そう、物産展ではザンザスとお土産の方向性がかなり違っていた。

 宝石類は俺たちではあまり参考にできない……。そもそも宝石類が採掘できないからな。


「でもこの音袋は別だ。これは中々悪くない」

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