607.砂の雷鳴

 砂コカトリスの宮殿への入場にはひと悶着あった。

 やはり入り口でストップがかかったのだ。


「このエルぴよちゃんサボテンを食べながら、ちょっと待っていてくださいね?」

「「ぴよよー!」」(もぐもぐー!)


 砂コカトリスたちは頬が膨らむほどサボテンを詰め込んでいる。


「ぴよぴよ」(おいひぃ)

「ぴよよー!」(夢の食べ放題だー!)

「ぴよ! よかったぴよねー!」

「まだたくさんあるんだぞ。父上のぱわーは無限大なんだぞ!」


 いや、そこまでじゃないが。このコカトリスがお腹いっぱいになるくらいは楽だけれど。


 だがまだ入場はできていない。


「少し時間がかかりそうだな……」


 ヴィクター兄さんが門番と押し問答をしている。


「い、いえ……我々の一存では!」

「大丈夫だ」

「コカトリスですよ!? しかもこんなに!」

「問題ない」

「責任者を! 責任者を呼んできますから!」

「後で聞く」


 ……むしろゴリ押しである。

 しかしさすがコカ博士の知名度か、10分ほどして宮殿へ入ることができた。

 もちろん砂コカトリスも一緒にだ。


「ぴっぴよー」(お邪魔しまーす)


 サボテンを持ち込みながら、優雅な入場である。


 空はだいぶ暗くなっており、太陽の光が遮られ始めている。


「まるで大雨の前だな」

「ウゴ、そうだね……。さっきの砂嵐と違う」

「この速さならすぐ通り過ぎるだろうが……」


 とりあえず大広間に砂コカトリスたちを並べる。


「ふぅ、ふわもっこ……そこにある、ちょっとしたさらさら具合……」


 ステラが砂コカトリスたちを触って回っている。


「微細な異常も見逃しません……! あっ、大きめの砂粒が……」

「はい、ブラシ」

「ありがとう、ナナ!」


 そんなやり取りをしていると、いよいよ宮殿の窓が震えてきた。


 ガタタタ……!!


「すごぴよ。さっきの砂嵐とは違うぴよね」

「勢いあるんだぞ」

「窓にくっついて見るぴよ……!」

「ウゴ、俺も見てよっと!」


 べたー。ディアとマルコシアスは窓に顔を押し付けている。

 ウッドがちょっと後ろから覗き込んでいるな。


 ふむ……魔力の波をぴりぴり感じる。

 やはり自然の砂嵐とは違うな。


 その時、轟音が響き渡った。


 ドシャア……!!


 一瞬、室内の照明が明滅する。


「おおっ、雷か……!?」


 砂のドラゴンで雷……魔力の嵐なら不可能じゃないが。

 しかし、すごい音がしたな。


 あっ、子どもたちは……!?


「これが雷ぴよか!?」

「ピカッてしたんだぞ!」

「ウゴ、そうだね!」

「奥のほうで光ったぴよね!」


 うん……楽しそうだった。


 だが、いっぽう……。ステラはぷるぷると震えていた。

 なんとなく弱々しく見える。


「雷ですか……」


 かなり珍しいレベルで嫌そうな顔をしている。

 まさか、雷が苦手なのか?


 村では雷が落ちることはまずなかったので、知らなかったが。


「雷は当たると、けっこう痛いんですよね……」

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