525.宿舎の診断

 そういうわけで、ヴィクター兄さんの触診が始まる。


 海コカトリスに集まって並んでもらった。


「ぴよぴ」(並びました)

「ぴよっぴ」(健康チェックは大切)


 ふむ……こうして海コカトリスに並んでもらうと、横に広くなっているのが一目瞭然だな。

 いや、縦にも伸びているかもだが……そうだとしても、それほど背は高くなっていない。


 つまりぴよ用語の『たぷ』が増していると言えなくもない。


「では、始める……!」

「どきどきぴよね!」

「わっふ、着ぐるみ触診なんだぞ」


 ヴィクター兄さんが最初の海コカトリスのお腹にものすごく近寄る。

 具体的には着ぐるみの頭を海コカトリスのお腹に接触させていた。


「近いですねー。もぐもぐ」


 テテトカはマイペースに草だんごを食べている。


 ヴィクター兄さんがコカトリスのお腹をすすっともみもみする。


 もみもみ……。ゆっくり、確かめるように。


「ふむ、健康。ややふっくら」


 そう言うとヴィクター兄さんは最初のコカトリスから離れて、次のコカトリスに向かう。


 矢継ぎ早に移動し、同じように揉んでいく。


「健康、ややふっくら。健康、ややふっくら。健康、ややふっくら」


 同じ言葉を繰り返しているが……同じくらいの状態でいいんだよな。


「みんな、健康ぴよね!」

「ややふっくらしてるんだぞ」


 そうして並んだコカトリスの診断が終わる。


「大丈夫だったのか?」

「ああ、きちんと健康そうだな。コカトリスがややふっくらしているのは問題ない。元々、ご飯の量に比べて体が大きくなりやすいし」

「痩せようと努力はしているみたいだが……」

「太り過ぎのコカトリスの話は聞いたことがないからな。ただ、運動は大切だ。この村なら心配ないだろうが」


 まぁ、問題がなくて何よりだ。


「皆、お昼寝と遊ぶのが大好きですからねー」

「お仕事も手伝ってくれるしな」

「そうですー、すごーく助かってますー」


 そこでヴィクター兄さんが、外を気にする素振りをした。

 むっ、そこそこの時間が経過したか?


「うむ、そろそろ行かなくてはな。極めて残念だが……」


 本当に残念そうだ。

 しょんぼりしている。


「ぴよ、そーいえば博士ぴよの顔を見てなかったぴよね」

「わふー。ずっと着ぐるみ姿なんだぞ」

「ぴよよ、皮だけぴよね。……ちょっと見せて欲しいぴよ」


 ……なんと。

 ディアがこういう興味を持つのは珍しい。


「構わんぞ」


 ヴィクター兄さんは顔を上げ、着ぐるみヘッドを斜めに上げる。


「ぴよ……!」

「あまり大っぴらには歩けないからな。覗き込んでくれ」

「ぴよよ、どれどれぴよ?」


 ヴィクター兄さんが近付き、ディアに隙間を向けるようにする。


「ぴよ……?!」


 ひと声上げると、ディアが俺に振り向いた。


「カッコイイおじさんぴよ」

「そ、そうか……」

「でも博士のほうがいいぴよね」


 はっきり言ったな。

 もう着ぐるみヘッドはぴったりはまって、隙間はない。

 だが、ディアの言葉にヴィクター兄さんも頷いている。


「ふむ……やはりそう思うか」


 ディアが羽を組んでから、ぴっと上げた。


「なかなかのもふみとぴよみ、ぴよ。そっちを推してくぴよよ!」


 どうやらディア基準でヴィクター兄さんの素顔は、着ぐるみには勝てなかった……らしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る