501.こだわりの食べ物

 そこでブラウンが俺に気が付いた。


「にゃん。エルト様、いかがされましたにゃん?」

「少しナナに用事があったんだが……後でいい」


 トマトに舌鼓を打つナナを邪魔するのは悪い。

 そう思っていると、ナナがちょいちょいとふもっとハンドで手招きしてくる。


「なら、一緒に食べる? トマトの良さを広めているところなんだ」

「わかった、頂こう」

「みんなで食べるのはおいしいですよー。もぐもぐ」


 ……今、テテトカは草だんごを食べているが。

 ツッコまない方がいいな。


 テーブルにいるコカトリスは3体だ。

 ふむ……近付いてわかった。


 そのうち1体はたぷり気味だから……元々、長くヒールベリーに住むコカトリスだな。

 他の2体はしゅっとしている。海コカトリスだ。


「ぴよぴ」(どう? こうやって食べるのもいいでしょ?)

「ぴよっ!」(本当に!)

「ぴよ……!」(新しい味の扉が、開き始める……!)


 海コカトリスは目をきらきらさせているな。


「ここでは生だけじゃなくて、色々な調理もしてますからねー」

「にゃん。こうやってのんびり食べるのもいいですにゃん」


 ブラウンの側には別の小さなテーブルがある。

 携帯用の加熱魔法具と鍋、それにかなりの野菜だ。

 これで調理しているんだな。


「どうぞですにゃん!」

「ありがとう。恵みに感謝を」


 トマトスープが入ったスープボウルがそっと置かれる。

 スプーンでさっとかき回すと、スープの正体が見えてきた。


「トマトスープに、トマトのぶつ切りがごろごろ入っているな」


 二重にトマトマしてる。

 他には……根菜の類だな。これもかなり入っている。唐辛子もそこそこ入ってた。

 香りは刺激的で豊かだ。


 ナナの手元には大きなスプーンがある。

 形の残る具材はそれで食べているのだろう。くちばしにツッコミながら……。


「そう、根菜や香辛料も入っているけどね。総重量の8割がトマトでないとトマト料理と認めない純粋トマト主義者もいるけれど、僕はそこまでじゃないし」

「初めて聞きましたにゃん」

「純粋トマト主義者はそこそこ多いよ。ヴァンパイアの約3割が純粋トマト主義者と言える」

「意外に多いですにゃん」

「僕は穏健派だから、総重量の半分でトマト料理と認定してる」

「ほぼトマトですにゃん」

「スパゲッティの麺は駄目なのか?」

「もちろん許されない。トマト料理を偽る者には天罰が下るけど、その前にヴァンパイアによって袋叩きにあうだろうね……」

「過激ですねー。ごくごく……」


 テテトカはのんびり答えながら、トマトスープを飲んでいる。


「ぴよ……」

「にゃん……」

「ふむ……」


 俺も静かにトマトスープを飲む。

 濃厚な酸味と辛味、それに根菜のまったりした味が舌を通り抜ける。ガツンと来るトマトスープだ。


 ナナがぼそっと言う。


「君たちにも、草だんごにはこだわりがあるでしょ?」

「あー……」


 テテトカが天を仰いだ。


「許せない草だんごはないですよー。世界には草だんごと草だんご以外があるだけなのでー。もぐもぐ……」

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