450.転換

「これがダンジョンの『転換』ってやつか……。今日は色々と――ん?」


 俺は周囲を見回して気付いた。

 ナナが触れていた空間の歪み………それがなくなっている。


「気が付いたね。どうやら出入り口を見失ったみたいだ」

「……本では読んでいたが、恐ろしいな」


 不安定なダンジョンでは、しばしば風景が一変する。それに伴い、出入り口から離される。


 ヴィクターが手に持ったシダ植物はそのままだが。


「様々な具材で切り分けられたピザのようなものだ。俺達はジャングルのピースから、岩山のピースへと移動させられた」

「分かりやすい例えですわ……」

「出入り口は変わらず、あのシダ植物のジャングルにあるのか?」

「ああ、その通りだろう。問題はどの方角かだが……」


 どの程度の移動だったのか、それがわからないと帰り道もわからないわけだな。

 ステラは目を閉じて、静かにしている。


「集中すれば分かります……さきほどの魔力の流れを辿れば」


 そういうものか……。

 俺も集中して魔力を辿ってみる。


「……そういうものでしたかしら?」

「いや、僕も聞いたことないけど……」

「俺もだな。学院でもそういうのは教えていない」


 ジェシカとナナ、ヴィクターの声が聞こえる。

 さらっとステラの超人技のひとつだったか……。


 いや、だが……わかる。

 魔力の流れがそよ風のように感じられる。この岩山の魔力はさきほどのジャングルとは――少し違う。


「……あちら側か?」

「そうです……! さすがエルぴよちゃんです!」


 さわさわ。

 ステラが俺の着ぐるみお腹を撫でる。


 いや、さっきエルトって呼んでたよな。

 焦ってたからその呼び方になったんのだろうが……。


「ウゴ、俺もなんとなくわかる……かも……」

「ウッドもわかるのか。……やはり俺の子どもだからかな?」

「ウゴ! きっとそう!」

「わたしの秘蔵っ子でもありますからね……!」


 どやぁ。

 二人してドヤ顔、やや親バカである。


「こほん……。魔力の流れで出入り口がわかったのなら、一安心ではあるな」

「闇雲に歩かなくてすむからね。ただ出入り口がわかっても、すぐには――」


 ナナがピクッと反応する。


「あっちの岩山の陰から、星クラゲだ。それもかなりの数」

「むっ、まだ見えませんが……ついに来ましたか」


 ここには水はないが、ダンジョン内では魔物は生態を変化させて適応する。


「見えてきましたね……」


 むぅ、俺にも見えてきた。


 星クラゲの大群が空を飛んでいる。まっすぐこちらに向かってくるな。

 魔力を糧にして……とはいえ、少しシュールか。


 ダンジョン化していた場合の目標はひとつ。ボス個体―もしくは魔力の源を探すこと。


「よし……とりあえず星クラゲを退治するか」


 あの群れが来た方向に行けば、何かあるかもしれないからな。

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