440.マルちゃんと海

 その後の話で、とりあえず今日は海底調査で終えることになった。

 海底神殿に踏み込むのは、明日だ。


 回復ポーションをいくつか作り、万全を期す。

 もっとも……それほど危険というわけでもない。


 ナナがぴよっと話しかけてくる。


「他の魔物がいる可能性はないからね」

「そうですね、あれほど星クラゲがいるのなら……いたとしても、巨大化した星クラゲです」

「星クラゲ専用ダンジョンになっているわけか」

「そう……でも今後はわからないし、放置すればどんどん巨大化した星クラゲが出てくるかも。そうなったら、結局被害は拡大する」


 確かにな。


 クロウズと話をしたルイーゼがこちらに来る。


「あとはこっちでやっておくから、帰ってもいいぞ」

「大丈夫なのか?」

「とりあえず星クラゲの姿はないしな。星クラゲも少数なら十分対処できる。それにダンジョン調査のほうが重要だ。英気を養ってくれ」


 ヴィクターがふもっと羽を上げる。


「午後からは俺がやる、午前中に働けなかった分もな。ヒールベリーの住人は休んでくれ」

「……わかった。それじゃ、お言葉に甘えよう」


 俺達はそう言って、港へと戻った。

 いきなり手持ち無沙汰になってしまったな。

 宿舎で休んでもいいが……。


 ちなみにララトマもお休みグループに入っている。

 海ぴよも一時引き上げだな。


「まだまだ元気です! けど――」


 ララトマは草だんごを作り続けていたが、まだ余裕みたいだ。


「どうしましょうか……」

「そうだな、そうしたら――」


 船からだと砂浜がよく見える。俺の懐にいるディアが目をきらきらさせていた。


「砂浜に行ってみるぴよー!」

「うん。少しくらいなら、大丈夫だろう」

「やったんだぞー!」


 ステラに抱えられているマルコシアスが、両前足をバンザイしてる。


「ウゴウゴ、そんなに楽しみだったの?」

「だぞ!」


 マルコシアスも目を輝かせてるな。


「我、ソロモンビーチの生まれなんだぞ!」


 ……。


 どこだ、そこ……?


 ◇


「ちなみに、名前以外はすっかり忘れてるんだぞ」

「そ、そうですか……」


 砂浜についたマルコシアスは、波打ち際に背を向けていた。


 ざぶーん。


 マルコシアスは小さな波を背中で受けている。


「寒いから、今はこのくらいでやめておくんだぞ」

「ウゴ……堅実」

「もう少し温かくなったらサーフィンするんだぞ」

「満喫しているな……」


 地獄の悪魔がサーフィン?

 いや、悪魔だからこそサーフィンも楽しむのか……。


「ぴよ。これが砂浜ぴよねー!」


 ぴよっぴよとディアが砂浜をダッシュしている。


「ぴよよー! 白いぴよねー!」

「ウゴ、気持ちいいね」


 ウッドは砂浜に横たわり、日向ぼっこしていた。

 ララトマもウッドの腕を枕にしつつ、うとうとしている。


「本当ですー!」


 とたとたとた。


 ディアはよほど楽しいのか、砂浜を行ったり来たりしている。


「マルちゃん、波は楽しいぴよ?!」

「楽しいんだぞ。波を通じて世界の揺れを『感じる』んだぞ」

「詩的ですね……」


 ステラも砂浜に座りながら、潮風を受けていた。


「ぴよよ! じゃあ、そっちいくぴよ!」


 ディアがすちゃっとマルコシアスの目の前に来て、一緒に波を浴びる。


 ざぶーん。


「……なかなかいいぴよね」

「だぞ。オツなもんなんだぞ」

「もっと暖かいと、なおいいぴよね……」

「まだ春先なんだぞ。これ以上はヤバぴよだぞ」


 じっとディアがつぶらな瞳でマルコシアスを見つめる。


「マルちゃんなら……できないぴよ?!」

「へっ? だぞ?」


 マルコシアスがかわいらしく頭を傾げる。


「まりょくてきなアレコレで……ちょっとだけ暖かくとかぴよ!」

「マルちゃんにですか……。力が戻れば、あるいは……」

「……そうだな」


 俺はゲームの中でのマルコシアスを思い出していた。

 物理特化のマルコシアスだが、身にまとう属性を変化させることで様々な状況に対応できたはずだ。


 いわゆる属性付与というやつである。

 ステラもきっとそのことを言っているんだろう。


「……できるかもなんだぞ!」

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