437.着水
とりあえず一休みだ。
ご飯は船のコックが作ってくれる。塩漬けの魚とかパンとかだ。
俺はジュースやスープになる。固形食料は……口に突っ込まないと無理だからな。
甲板の上で待っていると、ルイーゼがにょきっと近付いてくる。
「……なー、魔法で何かぱっと出せたりできないかな?」
「……できるが……出そうか?」
条件を出しても良かったが、デザートを出すくらいはまぁ、いいだろう。
村ではいつもやっていることだしな。
「イチゴ、メロン、マンゴー、バナナ……」
「おおー! それそれ! 甘いもの好きなんだよなー!」
どんどん果物を生み出す俺に、船乗り達も盛り上がっていく。
「果物?!」
「果物だー!」
うん、悪い気はしないな。
船団全員に一口くらいなら、大した手間でもない。
そんなこんなで果物を作り終えると、今度はステラが横に来て、そっと俺にささやいてきた。
「エルぴよちゃん……。その姿だと果物も食べられなくないですか?」
「まぁ、そうだな……」
「果物をジュースにしましょうか? それなら飲めますよね?」
「えっ?」
まさか素手でジュースを?!
確かにステラなら、メロンでもスイカでも何でもジュースにするだろうが……。
ステラの後ろからナナがひょこっと現れる。
手には……ミキサーっぽい魔法具を持っていた。
「……道具はあるよ。簡易ミキサーだけど」
「ああ、なるほど……」
「可及的速やかにトマトジュースが飲みたい時、必要だからね。ミキサーは持ち歩いてるんだ」
そういうことか。それを借りれば、風味豊かな果物ジュースを……。
「……もしかして、わたしが素手でジュースを作ると思いました?」
うっ。ステラの顔はにこやかだが……。機嫌を悪くしたか?
「うん……」
俺がそう答えると、ステラがすっと俺の着ぐるみヘッドに顔を寄せる。
そして俺のもふっとハンドを握りながら、
「もっとレアな硬い実で、作りますから……! 化石樹の実とか、ジュースにするととっても美味しいですよ!」
……ちなみに後で知ったことだが。
ザンザスの第一層にある化石樹の実、鉄でも刃がボロボロになるレベルなんだとか。
た、楽しみにしているよ……。
◇
ジュースを飲みながら一服していると、上空から風が吹いてきた。
「ん?」
見上げると物凄い速度で、黄色い何かが降ってくる。
「博士の着ぐるみだね」
望遠鏡機能を持っているナナが答える。
「……かなりの速度じゃないか?」
ヴィクターがぐんぐん近付いてくる。
まだ船の上では食事中だ。このままだと風でぶちまけることになりかねない。
「ぴよ? でもゆっくりになってきたぴよよ」
「ええ、減速してますね」
「そうなのか?」
「徐々に減速してるね。ちゃんと着地には気を使うみたいだ」
なら、いいか。
……少しして、ヴィクターがゆっくりと降りてきた。
すごく、すごく……ゆっくり。想像以上に静かでゆるやかだ。
「…………」
すっすっすっす……。
着ぐるみが直立に、空から……。
歩くのと同じくらいのスピードで、降りてきた。
誰も、コカトリスですら声を出せない。海藻を食べる羽を止めて、上を見上げていた。
それだけの有無を言わさぬ圧がある。
そのままヴィクターは海コカトリスの前に着水した。
ちゃぽん。
海に浮かびながら、ヴィクターが羽をさっと上げる。
「今、戻ったぞ」
海ぴよも目を丸くしているな。
ちょっとして、1体のコカトリスが声を上げる。
「……ぴよ」(……10点)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます