390.エルちゃんと煮込み料理

「ぴよっ!」(ごはんだっ!)

「ぴよよー!」(草だんごだー!)


 コカトリスの瞳がきらきらしている。


 ジェシカがレイアへ、


「わたし、ぴよ語はわかりませんけど……コカトリスが草だんごを楽しみにしているのはわかりますわ」

「ソウルフードですからね、草だんごは」


 その表現は正しい。

 コカトリスが一番愛するのは草だんごである。


「……なんなんだ、その……丸いのは?」

「草だんごだ。ドリアードが作るお菓子だな」


 草だんご自体はドリアード以外も作ってるし、村でも売っている。

 別に隠すようなことではない。


「ふぅん……確かに小腹は空いたな。ひとつもらっていいか?」

「どうぞです! 皆さん分ありますので!」

「んじゃ、もらうぜ」


 ララトマがルイーゼに草だんごを手渡す。


「ぴよよ……」(ぼくたちにも……)

「ぴよ〜!」(食べたい〜!)


 コカトリス達もぽよぽよとララトマに近寄る。


「……ちょっとだけですよ!」

「ぴよ!」(ちょっとだけでも!)

「ぴよっぴよ!」(たぷが増えない範囲で!)


 ララトマが草だんごを二つにちぎって、それぞれコカトリスに手渡す。

 半分なので、凄く小さいが……。


「ぴよー!」(やったー!)

「ぴよぴよよー」(ダイエット期間中なのだー)


 ルイーゼは草だんごをちょっと目の高さに持ってくると、ゆっくり口に入れる。


「んぐ……んん!? 甘い! うまい!」


 ルイーゼもきらりと目を輝かせた。


「もちもちっとして、上品な甘さだな! いいじゃないか!」

「甘いものが好きなのは相変わらずだね」


 ナナもぽよぽよとこちらに近寄って来た。


「あたしは甘い物が大好きだからな!」

「ぴよ!」(もぐもぐ!)

「ぴよっぴよ!」(やっぱり癒やされるー!)


 コカトリスも草だんごをぺろりと食べた。


「ウゴ、俺たちもご飯にする?」

「そうだな。ステラ達が用意してくれているみたいだし」


 ナナが持ってきた鍋に野菜をぶちこんで煮る。

 単純だけど、俺の植物魔法とステラの腕前ならおいしい煮込みになるからな。


 これで小腹を満たすとしよう。


 ◇


 にょきにょきと植物魔法でカボチャやジャガイモを生み出し、煮込み料理にする。

 フルスピードのステラ包丁術ならあっという間に具材は切り分けられる。


「トマトもよろしくね」


 なんでもない風でいて、圧を感じる。

 やはりナナには常に可能な限り、トマトが必要らしい。


「わかった」

「ありがとう。トマトは大切だから」

「……お前も相変わらずだな」

「何か言った?」

「いーや、何も」


 熱発生の魔法具でじっくりことこと。

 味付けはあっさり、煮込み料理は割とすぐに完成する。


「さぁ、出来ましたよ……!」


 さっそく頂くことにする。


「恵みに感謝を」

「感謝ぴよよー!」

「感謝なんだぞ!」

「ウゴ、恵みに感謝を!」


 他の人達も恵みに感謝しながら、鍋を食べ始める。

 うん?

 なぜか具材がかなり小さいような。


 まぁ、いいか。

 当然食べるのに着ぐるみの頭は外さないとな。


 と、そう思っていると……。


 ナナがスープボウルにより分けられた煮込みに太いストローを差した。


 絶妙に具材より大きい。

 いや、もしかしてステラはわかって切り分けたのか?


 ……ま、まぁそうなるよな。

 ステラなら造作もないことだ。


 しかしナナがすすっと予備のストローを俺の目の前に持ってくる。


 ……お、おう。


「エルちゃんも、ストローでどうぞ」

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