373.水の魔術師

 とりあえず、着ぐるみはマシマシにすることで話は決まった。


 予備のパーツは豊富だし、必要なものはザンザスから取り寄せるそうだ。

 向こうには数十体分の予備パーツやらがあるらしい。


「腕がもげても、着ぐるみはダメですからね」


 そうだな、腕だけ生身の着ぐるみとか怖すぎる……。


 ナナはぽむっと胸を叩いて請け負ってくれた。


「パーツはあるから、出発までには間に合うよ」


 ということだ。


 そうしてナナの家をステラと後にする。

 ステラはるんるん気分のようだな。


「楽しみですね〜」

「そうだな、どうなるのか……」


 と言っても、不安はそんなにない。

 ナナの着ぐるみを見過ぎたせいか、レイアの帽子のせいかどうも感覚が麻痺しているかもだ。


「思い切り、かわいくしましょうね……!」

「お、おう……」


 これで大体、必要な人間には話をした。

 討伐隊は俺の家族とナナ、レイア……あともう一人か。


 村を歩いているとお目当ての人物がちょうど視界に入ってきた。

 果樹園でお仕事をしているな……。


「やはり彼女にも声を?」

「水のお仕事なら、彼女も適任だろう」


 近付いていくと、彼女もこちらに気が付いたのか手を止める。


 獅子の頭がついた杖、水色の魔術師の服。

 それと頭に乗っているコカトリス帽子。


「エルト様、何かありましたか?」


 関西弁ぽいのはやめた、ジェシカである。


 理由――他の人との意思疎通に問題があったらしいのだ……。


 ◇


「今、ちょっといいか?」

「大丈夫ですわ」


 ジェシカは今、主に水関係で働いている。

 レインボーフィッシュの飼育やドリアードへのお水の供給など……。

 彼女の水魔法のおかげで、ぽんぽん水が出せるからな。


 俺にとって関西弁ぽく聞こえた喋り方は、他の人にはもっと変わって聞こえていたらしい。

 なので今はこの口調になっていた。


「実はな――」


 あらましを説明すると、ジェシカはふむふむと頷いた。俺が参加することもついでに伝える。


 着ぐるみ着用での参戦は、まぁ……伝えるのはあとでもいいだろう。


「なるほどですわ! それでしたら私の魔法が役に立ちますわね。同行いたしますわ!」


 ステラが興味深そうに尋ねる。


「ほうほう、どんな魔法があるのでしょう?」

「水中で呼吸できるようになる魔法とか……」

「…………」


 ステラがピシっと固まる。


 おや?

 その魔法があったら、もしかして――。


「……それは便利な魔法だな」


 着ぐるみを着たまま、潜らなくても良くなるわけか。

 変装はどうあれ必要だろうが。


「べ、便利な魔法ですね……!」


 ステラの目があっちこっちに泳いでいた。

 多分、俺と同じことに思い当たったのだろう。


「でも万能ではありませんわ。同時だと数人にしか効果がなく、私自身も魔力を使いますので――戦闘員としては全力が出せなくなります」

「な、なるほど……!」


 ステラが気を取り直した。


「つまり潜水できる人は、自前で潜水したほうが良い……と!」

「そういうことですわ」

「ということらしいので、エルト様……!」


 ぐっーとステラが親指を立てる。


 その様子にジェシカが首を傾げる。


「???」

「深くは考えないでくれ……」

「わ、わかりましたですわ」


 ジェシカの同行も取り付けた。

 これでリヴァイアサン討伐のメンバーは決まりだな。


 Sランク冒険者のステラ、ナナ。ジェシカもAランク冒険者だ。

 ウッドも水中で戦えるし、戦力としては十分だろう。


 そしてふと、水中呼吸の話で思い出してしまった。


「どうかされました? なんだかはっとしたような顔をされていますが……」

「い、いや……大丈夫だ」


 ステラは鋭いな。

 こういう変化はほぼ見逃さない。


 だが、すっかり抜け落ちていた。

 とても重大なことなんだが……。


 俺、泳げるか?

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