371.いいプラン

「本当ぴよ……!?」


 抱えられたディアもきらきらと俺を見つめる。


「父上も来るんだぞ!?」


 マルコシアスもぶるんぶるん尻尾を振って、俺の足元に来る。


「ウゴウゴ、そうしたら楽しいよね……!」


 ウッドもにこやかに微笑んでいる。


 うっ。皆が俺と一緒に行くのを望んでいた。


「ええ、東の国と北の芸術祭はこっそり入り込むのは無理でしたが……」

「状況からして、そうだろうな」


 エルフの王宮も北の大聖堂も一般人の立ち入りができるわけではない。

 VIP専用空間である。

 入口で調べられ、発覚するだけだ。


「しかしですよ? 今回は討伐で港町。ルイーゼさえ黙認してくれるなら、何とでもなるのでは?」

「……むぅ……」


 俺の頭の中を父に言われたこととか、家族とかが駆け巡る。


 でもアナリアとナール、それにシュガーがいれば村の日常生活には支障はないだろう。

 冒険者ギルドを中心にした村運営も問題ない。


「ぴよよー……!」


 ディアが俺の胸に飛び込んでくる。

 ふわもっこの体をすりすり……。


 ……かわいい……。


 俺だってそろそろ、旅行の一回くらいしたい。

 それが本音だ。


「ナナからルイーゼに言ってもらえれば、なんとかなるんじゃないかなー……と」

「……わかった。俺も海へ行こう」


 俺がそう言うと、ディアが顔を上げる。


「やったーーぴよーーー!!」

「やったんだぞーー!!」

「ウゴウゴ、嬉しい!!」


 子ども達は凄い喜びようだな。


「おめでたいぴよ! こーいう時は、こーいう時は――」

「踊るんだぞ!!」

「それぴよ!!」


 ディアがぴょんと床に降りて、マルコシアスと踊り始めた。


 といっても羽を上下に、腰を振るくらいだけど。

 でもかわいい……。


「るんるんーぴよよー!」

「だっぞだぞー!」


 微笑ましいその様子を見ていると、ステラがぽんと俺の肩に手を置いた。


「ではベストな着ぐるみを用意しないと、ですね!」


 その顔は、もしかしたら過去最高にいい笑顔だったかもしれなかった。


 ◇


 その夜。

 子ども達が寝静まった頃。


 そろそろ綿布団も終わりかもしれない。

 ちょっと暑さを感じてきたからな……。


 いつも通りの体勢だ。

 ウッドの腕を枕にして、俺の胸の中にディアとマルコシアスがいる。


「これが海ぴよかー……青ぴよー。すやー……ぴよー……」

「広ーいんだぞー……」


 ステラは俺の後ろにぴったりくっ付いているな。

 いつもより、近いというか……。


「……もう海の夢をみているのか」

「そうみたいですね」


 ささやくような声量でも、ステラにはしっかり聞こえている。

 そしてステラの声は、耳元でちゃんと聞こえていた。


「……でも良かったです。初めての家族旅行ですよね?」

「そうだな……。思えば、そうなるか」


 一緒に暮らして数カ月。

 これが初めての遠出と思うと、妙な気分だった。


「意外だった。ステラがあんな風に言うなんて」

「んふふ……。でもわたしには、そういうところがありますよ」


 ステラがもぞもぞ動く。俺の腰に腕を回して、さらに抱きついてくる。

 ……密着状態だな。


 話をそらすのに、俺は冗談めかして言った。


「俺の着ぐるみ姿がそんなに見たいのか?」

「……見たいです。だめですか」


 普段よりも明確に甘えるように、ステラが言う。


「それで海に行ってお仕事して、遊ぶんです……。家族みんなで」

「ああ、そうだな……」


 ステラが俺の背中に顔をすりすりとする。


「とてもいいプランだ」


 着ぐるみは必須だけれど……。

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