299.地下通路の仮説

 そのまま馬車に揺られて小一時間。

 コカトリスはぴよぴよと走っては木陰で休み、こちらを見てはまた走っていく。

 ……大丈夫そうだな。


 天気も良く、馬車が走るには絶好の日だ。


 ちなみに俺は、走るウッドの上に乗って移動していた。久し振りにウッドに乗って移動している気がする。


「大丈夫か、ウッド?」

「ウゴウゴ! 父さんを肩車するの、楽しい!」

「なるほど……。そういう感じになるんだな」


 背丈はウッドのほうが遥かに高い。

 そんなウッドからしたら、小さい父親を運んでいる気分なんだろう。


 うっ……。立派になって。

 ほろりときてしまう。


 村の外には茂みや草原、沢もある。

 道も整備したおかげで行き来は快適だ。道のりの途中には、俺が所々建てた大樹の家がある。


 これらは休憩地点であり、食料や水も多くないが備蓄している。突然の雨とかでも安心だ。

 ザンザスから派遣された警備員が巡回し、道の整備も抜かりないしな。


 ゴトゴトと音を立てて馬車の列が進んでいく。

 そうしていると、ハットリが馬車の中から声を掛けてくる。


「そろそろでござる!」

「ああ、わかった。準備をしよう」


 馬車が止まり、冒険者達が降り始めた。茂みの奥に地下通路への入口がある。

 ちなみに冒険者流の封印が施されており、うっかり他人が入る恐れはない。


 馬車から降りた俺達探検隊とブラウン達の馬車隊は一度別れることになる。


「じゃあ、先行しててくだせぇな」

「にゃーん。はいにゃーん!」


 アラサー冒険者のゴーサインで、馬車隊は先行して進む。また次の地下広場で合流する流れだな。


 馬車から降りたイスカミナの瞳も燃えている。


「もぐ。それじゃ今日も地下通路、探検もぐ!」

「ですねぃ。おおよそ勝手はわかりやしたし、今日はもっとスピードアップしましょうか」

「前回はポーション類にも出番はなかったですからね。しかも今回もぴよちゃん達がおりますし」


 ちらっとアナリアが、すでに到着しているコカトリス達に目を向ける。


「ぴよー、ぴよよー」(ちゃんと体をほぐしましょー)

「ぴよよ、ぴよー」(羽をぐっと伸ばして、首回りー)

「ぴよ……ぴよ……」(いっちに……さんし……)


 コカトリスは体をひねったり、羽を伸ばしたりとストレッチをしていた。

 いや、すでに君達はかなり走り込んだ後だと思うが……。


 しかし入念なストレッチに反対はできない。そもそもコカトリスの筋肉のほぐれ具合はわからんしな。


「油断は禁物だが……確かに、速く進んでも問題はなさそうだな。ただ、ザンザスに近づくにつれて魔力は濃くなり、不測の事態も予想される。そこだけは忘れないでくれ」

「ウゴ、わかった!」


 こうして俺達は再び地下通路へと潜っていく。

 さて、この果てには何があるのか。

 世界十大迷宮、ザンザスへと繋がるのか。それとも別のところで行き止まりになるのだろうか……?


 ◇


 その日の夕方。

 さくさくと地下通路の探索は進んだ。


 想定通り、地下通路は一定間隔で地下広場を通っている。


 ……特筆することはあまりなかった。

 パズルマッシュルームを討伐しながら、えんえんと進んだだけである。


 そして進んでいくたびに少しずつ魔力は濃くなっていった。


 そしてこの日、見つけた地下広場はなんと……五つ! 一気に八個まで地下広場は増えたのだ。


 八個目の地下広場でイスカミナは、ふむふむと頷いていた。


「もぐ。若干だけど地下通路が伸びていますもぐね」

「伸びている……?」


 地下広場の向こうでは倒されたパズルマッシュルームを三匹のコカトリスがもにゅもにゅしていた。

 コメントは……うん、いらないな。

 瞬殺だったし。


「もぐ! 七個目の地下広場とこの八個目の地下広場の間隔は……一個目と二個目の地下広場より長いもぐ!」

「……! なるほど、そうなのか」

「もぐ。この地下広場は魔力的に加工してあるもぐ。これで仮説がひとつできたもぐ」

「仮説、か……」


 この地下通路と地下広場は、なぜ存在するのか?

 これらは明らかに天然物ではない。魔力的に高度な設計がされている。

 何らかの目的があるはず……ということだ。


 前にレイアに見せてもらった資料では、様々な仮説が記載されていた。


 魔王の秘密通路説、ザンザスのダンジョンの延長説、地下シェルター説などだな。


 荒唐無稽なのになると未知の地底人が作った説、コカトリス神を祀るため説……。

 うっ、前世のトンデモ雑誌が……。


 とまぁ、そんな感じなわけだが。

 しかしイスカミナはそれら仮説のなかから、可能性が高まった仮説があるというのだ。


「もぐ、かつての魔王とか……。導かれる仮説があるもぐ!」


 そこでイスカミナがぐっと、ふもふもの手を掲げる。


「この地下通路全体が……コカトリス神の復活のための通路、もぐ!」


 ……。


 うっ、ピラミッドから未知のパワーがアレして世界が……!


 いや、それはおかしい。


「……適当に言ってないか?」

「すみませんもぐ。ノリで言いましたもぐ」


 あっさりとイスカミナは認めた。


「でも、半分は本気もぐ。この地下通路は――ザンザスのダンジョンから魔力を逃がす導管の役割があるように思えますもぐ」

「つまり……?」

「まだまだ未完成だとは思いますもぐ。でも、もし完全に機能を果たしたら……!」


 そこでイスカミナはわたわたと両手を振る。


「ダンジョンの底に眠る――生物か装置かは別にして、その何かにショックを与えることになりますもぐ!」

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