125.コカトリス祭り

 夕方近くまでベルゼル兄さん達はいて、それから出立していった。


 黒い騎士達もコカトリスを堪能したみたいだな。ほくほくしていた。

 傾いた太陽の中で、鎧を着込んだベルゼル兄さんが馬上から挨拶をする。


「それではな、領主殿。お元気で」


 赤い鎧に太陽が輝いて、とても綺麗に見えた。


「無事を祈る」


 これはある意味、決まり文句だ。

 俺の言葉に黒い騎士達も頷く。


「「ありがとうございます、お元気で!」」

「よし、行くぞ!」


 土煙を上げて騎士達は去っていった。

 今度時間があったら、もう少し話をしたいものだ。


 そして、第二広場ではまだ宴が続いている。


「こねこねー……こねこね」

「こねこねです!」


 テテトカやララトマ達は草だんごをこねこねしてる。半分くらい、自分達で食べてるけど。


「ぴよっぴー」(お腹いっぱーい)

「ぴよ、ぴよよー」(ご飯食べ放題、楽園だー)

「ぴぴよぴよ~」(ぬくぬく、みんな暖かい~)


 コカトリス達もご満悦のようだ。

 寝そべりながら草だんごを食べるのが、最高にいいらしい。

 いや、もちろん俺もだいぶ好きだが……。


 地下からやってきたコカトリスも馴染んでるし、おいしくご飯を食べている。

 まずは心配なさそうだな。


「ナナにもお礼を言いたいが……」


 どこにいるのだろう。

 見渡して探してみるけど、見つからない。


「あっちぴよ」


 ディアが羽で指した先には、ナナの着ぐるみの足が見えた。コカトリスのふもふも羽から足だけ出ているな……。


「逆に体を突っ込んでいるのか?」

「互い違いみたいですね」

「コカトリスは寝ているみたいだし、いいけど……」


 ナナが体を突っ込んでいるコカトリスは、むにゃむにゃと寝ている。


 アナリアはイスカミナと一緒に、解説席でだらだらと飲み食いしているな。

 そこに薬師も結構集まっている。


 アナリアの膝の上にイスカミナがいるけど、本当に仲が良いんだな。


「レイアがいないのが残念だな」

「ええ……後で羨ましがりそうですね」


 レイアは今、ザンザスとこの村を行ったり来たりしている。ちょうどザンザスに戻っているので、不在なのだ。


 まぁ、コカトリスをもふもふしにやってくるとも言うが……。

 ステラが紅茶を差し出しながら、改めて労ってくれる。


「お疲れ様でした、エルト様」

「ああ、ありがとう」

「……一時はどうなるかと思いましたが」

「すまない、色々とあるんだ……」


 正直、俺もまだ混乱している。

 ベルゼル兄さんは悪い人じゃなかった。


 元々、複雑な家であるのは仕方ない。

 王国でも指折りの大貴族で、利権やら歴史やらが絡み合っている。


 それに加えて四兄弟の母親が全員違う。

 昼ドラなら、ここだけでも波乱しか感じない。

 さらに家督継承者もまだ決めてないとなれば……。


「でも、改めてありがとう。君がいてくれて良かった」


 ステラはその辺り、決して踏み込んでは来ない。少なくても俺が喋りだそうとするまでは、口にはしない。

 それが本当にありがたい。


「いえ、私も……。今がとても楽しいですから」

「いいことぴよ!」


 アーモンドをがつがつ食べるディアが言う。

 マルコシアスはウッドに寄りかかりながら、むにゃむにゃしてる。

 食べ過ぎて、そこからのお昼寝だ。


 だけども、ステラにそう思ってもらえているなら――本当に何よりだ。


 ◇


 数日後。

 レイアが家にやってきた。


 いつも通りコカトリス帽子を着けているな。

 ……しかもコカトリス帽子の上に、さらに赤いナイトキャップを被っている。

 冬至祭り仕様か……?


 この世界では確か、冬至祭りには赤い物を身につけるという風習がある。

 ペンダントでも靴でも何でもいいらしいが。


 ディアとマルコシアスがキラキラした目で赤いナイトキャップを見つめている。

 特にそれの説明もなく、レイアの話が始まる。


「冬至祭りは、盛大に! なのですが……実は少し問題が出ました」

「問題?」

「人が集まりすぎて、そろそろ警備の限界を超えそうです。警備の応援を担当する騎士団から、分散の方策を取るようにと通達がありました」

「……それって……」

「毎年、警備をする騎士団は変わるのですが……今年は黒竜騎士団のようですね」


 ベルゼル兄さんはそれでこの村を通ったのか。王命とか言っていたから、何事かと思ってはいたんだが……。

 ステラがちょこんと手を上げる。


「そんなに盛況なんですか? 私がいた頃は、豆の入っていない豆のスープを配るくらいでしたが……」

「それは悲しいな……」

「スープというより、煮汁のみとも言います」


 ステラが現役だった頃、ザンザスはとても貧しかったらしい。

 今でこそ安全性が確立されているが、Sランクのダンジョン近くに住むなんて自殺行為だもんな。


 レイアもほろりとしながら、答える。


「先人は苦労されていたんですね……。そのおかげで今があるのですが……昨今の冬至祭りは非常に盛況です」

「ほうほう」

「前後数日間で、金貨数万枚分の売上になります」

「それは凄いな……」


 桁が違う。

 ちょっとした街の、年間予算並の金が動くのか。


「すでに宿屋の予約がかなり入っています。グッズもですね。正直、予想以上です」

「結構な事じゃないか」

「ただ、街の容量はもうかなり限界です。なにせ騎士団からの通達ですし……」


 騎士団の仕事のひとつに、こうした行事の警備もある。威厳を持って歩き回り、交通整理するだけでもかなり違うからな。


「……ん? もしかして、この村に引っ張って来られるのか? その観光客を?」

「あっ……!」

「そうです……! さすが、エルト様! ヒールベリー村とザンザスのコラボレーションです!」


 ぐっと拳を握るレイア。

 ふむ、どのみち冒険者ギルド設立というイベントはあったが……こちらとしてもそういう催し物は大歓迎だ。

 なにせ、俺には大規模イベントのノウハウがない。少しでも学べれば、観光に活かせそうだ。


「しかしザンザスはそれでいいのか? 俺達は儲かりそうだが……」

「ひとつだけ――お願いはあります」


 そこでレイアがじっとディアを見る。


「ぴよ?」

「コカトリス達との握手会をなにとぞ……! 子ども向けだけでいいので!」

「……ザンザスのダンジョンではツアーとかをやっているのでは?」

「それなのですが、ダンジョンへは相応に健康、頑強な者でないと入場させられません。必然的に子どもはダメなのです」

「なるほど……ここなら、触れ合いにも危険はないと」

「もちろんコカトリス達に確認してもらってからで構いませんが……。ぜひとも生ぴよ握手会について、前向きに検討を……」

「まぁ、いいんじゃないか? 確認してみるが……」


 条件の細部を詰める必要はある。

 でも悪い気はしない。


 コカトリスも宴でふもふもされて、特に不満なく楽しんでいたらしいし。やはり人好きのする生き物なのだ。


「では、早速諸々の条件を……!」

「そうだな、詰めるとしよう」

「……あとこの赤い帽子ですが、どうぞ皆様おひとつ……」


 すっと鞄から赤いナイトキャップを取り出して、机に並べていく。

 見事にサイズがぴったりのようだな。


「ぴよー!」


 早速ディアがいちばん小さい帽子をつかむ。


「せっかくだから、被ってみたらどうだ?」

「そうするぴよ!」


 もぞもぞとディアが赤いナイトキャップを被る。

 ……かわいい。

 物凄くかわいい。


「どうぴよ?」

「似合ってますよ!」

「最高だぞ! 我も我も……」

「ウゴウゴ、かわいい!」

「本当に似合ってるぞ」


 なんだろう……ああ、そうか。

 そういえば、ディアがなにかを身に着けるのは初めてかも。

 いままでは毛並みくらいだったからな。

 おしゃれを気にするのだと思うと、感慨深い。


 そんなわけで、わいわいと冬至祭り……改めてコカトリス祭りの準備も始まって行くのだった。


コカトリス祭り準備度

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