117.テテトカから見たエルト

 その後俺達は地下通路で待つ冒険者達を呼びに行き、合流をした。


 そのまま移動して――地下広場に出ると、やはり誰もが感嘆する。

 見事な地下広場と、恐らく長い年月生き抜いてきたドリアードとコカトリスにだ。


 イスカミナとナナは、特に構造面に興味があるようだった。


「すごいもぐ……。発光苔がこんなに生えてるなんてもぐ」

「僕も心奪われるよ。通路も見事だったけど、ここも凄いね。小川と星夜よりも明るい生存空間だ」


 イスカミナがぺたぺたと壁や土を触る。


「……天然ではないもぐ。魔力が混じって安定してるもぐ」

「ライオンの騎士も含めれば、ちょっとした要塞みたいな手間を掛けてる。いやぁ、文献がないのが残念だ。誰が作ったのかも興味深い」


 レイアとアラサー冒険者は、それぞれ冒険者としての見解から広場を語っていた。


「ドワーフの居住地も見ましたが、こんなに幻想的じゃないですぜ。まぁ、ドリアードは質実剛健で光と水がありゃ、大丈夫なんでしょうが」

「まさか村の地下に繋がっていたとは……それに目が光るコカトリスがこんなに……」


 レイアはコカトリスをじーっと見ていた。

 地下のコカトリスも今は起きて、ぴよぴよと来訪者を観察している。


 ……あのコカトリス姉妹は、もしかしたらこのコカトリスの親戚かもな。地下通路の先に出たコカトリスがいたのかもしれない。


 そしてディアとマルコシアスもコカトリスに興味津々みたいだな。


「けっこう、なかまがいるぴよね!」

「ああ、くんくん……六くらいか」

「しまいとあわせて、八ぴよね!」

「おおっ、我が主は足し算が出来るのか!」

「……マルちゃんはできないのぴよ?」

「あんまり出来ないんだぞ」

「いっしょにおべんきょうするぴよ! かしこくなれば、ぴよがふえてもらくしょーぴよ!」

「おお、そうだな!」


 ……目的は置いておいて、勉強の意欲があるのはいいことだ。


 テテトカとララトマは手を繋いで、さきほど大樹の塔に向かった。

 一対一で話をしたいらしい。

 むしろ、ララトマの方が手を離さない感じだが……かなりのお姉ちゃん好きだな。


 まぁでも、久し振りの再会だしな。それにドリアードの家族観もあるだろう。

 ララトマもこの地下広場のリーダーらしいし。同じリーダー同士、するべき話もある。


 フラワーキャッスルの確認も冒険者達に任せておけば大丈夫だろう。

 特に危険もないようだし、俺とステラは再び坂に登っていった。


「……しかし、思わなかった方向に行ったものだな」


 俺は坂の上から隣にいるステラに話し掛けた。ここからじっくり見ると、地下広場の広さがわかる。

 本当に土作りのドームのようなものだな。


 まだ見てないが、隅の方にフラワーキャッスルの根があるらしいが。


「広大な空間だな……」

「これから――どうされるのですか?」

「ララトマが何を望むかによるだろうが、なるべく仲良くやりたいものだな」


 どれほど昔かはわからないが、フラワーキャッスルを防いだ恩はあるだろう。


 損得を言えば村に移住してもらって、力を合わせて村を盛り立てて欲しい。

 だが、あまりこちらから言うのもな……。


 ドリアードは純朴な種族だ。正直、俺はドリアードを好きになっていた。

 自由で伸び伸びしているしな。


「ドリアードは中々難しい。金貨や権威にはなびかない。ドリアード自身の本能だか計算でしか、居着かないだろう」

「他のどんな種族よりも素朴ですしね……」

「ステラもそう思うか?」

「エルフにも少なくても明確な身分があります。もちろん金銭という概念も。でもドリアード達は……そういうのがないです。光と土と自然、あとは自由」

「それらが実のところ、一番難しいがな」


 これからどうしたいかの選択はララトマ自身に任せるべきだ。


 多分それがいいのだから。


「一旦、村に戻るか。ここは好きに調べていいみたいだし……。水や土も調べたい」


 ◇


 大樹の塔の最上階。

 村のすべてを一望できる一室で、テテトカとララトマは向かい合っていた。


 ララトマはここに登るまでに、おおよその事情は察していた。

 テテトカが「エルト様、妹と少し話したい」と言ったからだ。


 ララトマは一室で用意された草だんごを食べながら、率直に言った。


「まさかテテトカねーちゃんが誰かの下につくなんて……です。女王にも突っかかっていたのに」

「……やっぱり意外かー」

「あの女王は頭良かったのに、テテトカねーちゃんは不満です?」

「いろいろ行けと言われて、不満がないわけないよ」

「……まぁ、それは……考えがあってのことです」


 ララトマは姉の苦労を思った。

 姉はドリアードの中でも随一の力を持ち、女王の命令で色々な所に行かされていた。


 それは女王なりの考えがあってのことだったと思うが、反発もわかる。

 ドリアードはそもそも、放浪したり知らない土地に行くことを好む種族ではない。

 静かな大自然と共にあることを本能的に望むのだ。


「……ララトマもこっちに来るし」

「まさかねーちゃんが、すぐ近くにいたとはです」

「女王はそれも隠してた。もう言っても仕方ないけど」


 テテトカはあまり昔のことを考えない。

 覚えていられないのもあるけど、覚えていても仕方ないからだ。


「……女王は頭良いかもだけど、人間さん。人間さんの考えしかできない」

「ちょ、ねーちゃん……!」


 ララトマは慌てる。

 それはドリアードの中では、なるべく言ってはいけないことであった。

 女王がドリアードそのものではないことは。


「あれからものすごーく冬がきた。もう女王は生きてない」

「それはそうですけど……。じゃあ、なんで? ここの人間さんには従うの?」

「このおっきい木も、あの人が作ったから」

「……へ?」

「この窓から見える、たくさんの木。これは全部エルト様が増やしたんだよ」

「へ、へぇー!!」


 そんな力を持った人間がいたとは。

 ドリアードみたいな力を持つ人間だとララトマは素直に驚いた。


 同時にテテトカがなぜこの村に住み着くようになったのか、ララトマはなんとなくわかった。


「エルト様は、ゆっくり森を広げようとしてる。それはわたし達の生き方にも合っている」


 テテトカは言葉が多い方ではない。

 だけど本能に忠実で自由であるからこそ、ドリアードの中では一目置かれていた。


 テテトカとその一派はいくつもの荒野を森に変え、ドリアードに貢献してきたのだ。


 女王はもういないだろう。

 故郷もどこにあるのかも忘れた。


 あまりにも時間が――流れ過ぎていた。

 それでも生きて行かねばならないのだ。


「ララトマはどうするの、これから?」

「……しばらくは、ねーちゃんと同じように生きてみる。あそこは暗いなとずっと思ってたし」

「ん、わかった」


 テテトカはお皿に乗せた草だんごを食べきっていた。


「地下では草だんごも貴重でしたけど……」

「ここだと、草だんごはこねた分だけ食べ放題」


 テテトカは立ち上がると、柔らかく微笑んだ。


「待ってて、材料取ってくるから。一緒に作って食べようね」


 テテトカは何気なく、窓から村を見下ろした。


 ちょうど、エルトとステラがニャフ族や他の人を連れて塔に戻るところだ。


 休んでいるように見えて、植物が休むことはない。枝は伸び、葉は茂り、根は張らなければならないのだ。


 そして頑張って大きくなろうとしているその姿は、テテトカにはとても好ましいものなのだった。


領地情報

 地名:ヒールベリーの村

 特別施設:冒険者ギルド(仮)、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場

 領民+36(黒薔薇のララトマ率いるゾンビに見えてしまったドリアード28人、目の光るコカトリス8匹)

 総人口:193

 観光レベル:C(土風呂、幻想的な地下空間)

 漁業レベル:D(レインボーフィッシュ飼育)

 牧場レベル:C(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス)

 魔王レベル:E(悪魔マルわんちゃん)

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