101.罠は回り込めば楽勝って、みんなが思う

 一方、ステラ達は地下通路の先を進んでいた。

 先頭を行くのはステラから変わって、ウッドになっている。


 これは順番にライオン像と対決していこう、ということから決められた。

 どの程度戦えるのか、倒すにしても時間は掛かるのかは重要な確認事項である。


 冒険者の持つ松明がぱちぱちと鳴り、揺らめく炎が地下通路を映し出していた。


「ウゴウゴ、まだらいおん、いない……」

「そうですね……。次のライオン像はもう少し行った所になります」


 彼女達が行進しているのは、泉と旧ドリアードの家の間の地下通路である。

 事前にライオン像以外の部分は下調べされている、安全な箇所だ。

 アラサー冒険者が剣の柄に手を掛けながら、


「ここを起点に、徐々にマッピングしていくって寸法……。でもこれは意外と大変だな」

「ウゴウゴ、どうして?」

「そりゃ、さっきのゴーレム……ステラは一発で倒せたが、厄介だぜ。雷球は魔力がない金属じゃ防げねぇ。通路が狭いから避けるのも厳しい」


 冒険者達が一様に頷く。


「ああ、そもそも第二層の未踏エリアも雷の球で攻略できなかったんだからな……」

「しかもここは動きがとりづらいし……。ステラさんやウッドがいなければ、かなり歩みは遅くなる」

「ウゴウゴ……あのときとおなじ?」

「ああ、そうさ。エルト様のバックアップがなければ、もっと準備に時間を掛けるか……よそから沢山の人を連れてこなきゃ行けなかっただろうぜ」


 そうこう言いながら歩いていると、地図にあるライオン像の所までやってきた。


 通路の先にライオン像の背中がぼんやりと見える。


「ウゴウゴ、うしろむき?」

「ええ、あのライオン像は回転するみたいですね。完全に固定されているなら、後ろから回り込んだりもするのですが……このライオン像はひとつずつ攻略していくしかありません」


 ライオン像は回転するのである。

 そのため、通路のどちら側から行ってもライオンの口からは逃れられない。


 グゴゴゴ……。


 ライオン像がきしみながら動き、ウッド達に正面を向ける。

 冒険者を認識し、迎撃体勢に入ったと言えるだろう。


「ウゴウゴ、つぎはおれがいく!」


 ウッドがずいっと前に出る。

 ステラとウッドの二人が最大戦力なのは間違いない――後はどれほど早く倒せるか。


 冒険者達はごくりと息を飲み込む。

 雷撃には耐性があるが、果たしてウッドの攻撃はどうか……。


「気を付けてくださいね……!」

「ウゴウゴ、だいじょうぶ!」


 ウッドがゆっくりとライオン像に近付いていく。ライオン像の口には魔力がすでに集中しつつあった。


 ウッドはそれを見て、ライオン像に腕を向ける。


 瞬間、ライオン像から魔力が放たれた。


 紫の雷球がウッドへと――地下通路をまぶしく照らしながら迫ってきた。


 バチッ!!


 ウッドは避けない。

 胴体部分に雷球が弾ける。


「ウゴウゴ、ちょっとぴりぴりきた!」

「ぶ、無事ですよね?」

「ウゴウゴ、だいじょうぶ! かあさんのりょうりより、からくない!」

「ええっ?!」


 雷球はウッドの胴体をピリッとさせた程度。

 ドラゴンの鱗を超える耐性持ちのウッドには効果はほとんどない。


 ウッドは踏ん張ると、次の雷球が来る前に攻撃に移る。【シードバレット】で狙うのはもちろん、ライオンの口。


 ウッドの腕から白い綿毛が射出される。


 ぽん、ぽぽん。


 次々と綿毛の弾がライオン像に命中していく。そのうちのいくつかは、口の中に入り込んでいた。


「ウゴウゴ、これならどう……!?」

「上手です!」


 それでもゴーレムに感情も動揺もない。決められたロジックに従い、攻撃するのみ。


 しかし、それが仇となった。

 ライオン像が次の雷球を撃とうとして――派手な音が炸裂する。


 バチバチィ!!


 柔らかい綿毛に雷撃が行き渡り、像の内部回路をショートさせる。

 ちょうどステラが雷球を打ち返したみたいに。


 ぷすぷすとライオン像から黒い煙が上がり、集まっていた魔力が霧散する。


 それを見た冒険者達は、警戒したままじりじりと前進を始める。

 ライオン像はもう雷球を放っては来ない。

 アラサー冒険者が感心した風に、


「……さっきと同じで、動かなくなったか。口の中が弱点なんですかねぇ」

「ウゴウゴ、かあさんとおなじこと、ねらってみた!」

「よく出来てましたよ!」

「ウゴウゴ、ありがとう!」


 アラサー冒険者がしみじみと、


「いやはや、あっさり倒したようだけど……俺達だけで攻略するとしたら、ぞっとするなぁ」


 うんうん、と歴戦の冒険者達が頷くのだった。


 ◇


 同じ頃、エルトのいるところでは――。


 イスカミナががさごそして、数分。

 とりあえず俺は魔力を流しながら様子を見守っていた。


 ふむ、口の中に色々と繊細な部分が詰まっているようだな。

 まぁ、魔力の発射口ならそうなるか。


「もう少しもぐー。この回路を……」


 だが何か忘れているような気がする。

 このライオン像は雷球と何かあったはず……。


 ああ、そうだ。回転するんだった。

 この像はちょうどこちらを向いていたから、気にしなかったが。


 ……さっき電気がピリッと行ったみたいだが、回転は大丈夫なんだろうな?

 いきなり回り始めたりは……まさか……。


 そしてイスカミナが嬉々として作業している中、それは唐突に起こった。


「あっーーーもぐ!?」


 イスカミナが叫ぶ。

 同時にライオン像が激しくきしみ、回転しはじめた。


 ぐるぐるぐる!


 俺とナナは勢いよく弾かれ、無情にもイスカミナは口にささったまま。

 回転は止まらない。


「うわー!?」

「ええええっ!?」


 俺も叫ぶ。


「やっぱりーーー!」

「ももももーー!」


 ライオンの口に挟まったイスカミナは、そのままでは出られないらしい。

 どんだけ押し込んだんだ。


「止めるぞ!」

「わかった!」


 俺は回転し続けるイスカミナとライオン像に魔力を放つ。


「もぐもぐもぐー!」


 頑張れ、イスカミナ!


【巨木の腕】


 地下通路の地面から、ぐぐぐっと大きな樹木の腕が生えてくる。

 俺は【巨木の腕】を操る。

 ライオン像を上から鷲掴みするように……動きよ、止まれ……。


 グギギギッ!


 なんとか止まるが、かなりのパワーだ。

【巨木の腕】がきしんでいる。


 ……魔法を弱めるとまた回転する。

 俺は手を離せないな。


 ナナが着ぐるみのお腹に手を突っ込み、何かを取り出す。

 ロープ……か?


 するするとロープが着ぐるみから出てくる。

 かなりの長さだ。


「縛るよ、手伝って!」

「はい!」


 レイアとナナが手際よく【巨木の腕】とライオン像を縛り上げる。

 おおっ、この辺は冒険者か。

 凄く手慣れている。


 縛ってしまうと、ライオン像から音はしなくなったな。

 止まったか……。


「……大丈夫か?」

「土の中にいますから、揺れるのも大丈夫もぐ! 酔いには強いもぐ!」


 ぱたぱたと足をばたつかせるイスカミナ。

 ……まぁ、大丈夫そうだな。


 ふぅ、びっくりした。回路を変な風に繋げたのかな。

 回転し始めるとは……。


 ナナがイスカミナをライオンの口から引っ張り出そうとする。


「とりあえず、一旦口から出よう。これ以上はここだと難しそうだ」

「そろそろ帽子の光も消えますしね……」

「まぁ、そうだな。軽く調べるのは達成できたし……」


 だがナナがぐーっと引っ張ってもイスカミナは出てこない。

 イスカミナは足をばたつかせているが、びくともしない。


 続けてレイアも後ろから力を貸すが、少しも動かない。


 俺も回り込みながら、三人一緒にイスカミナを引っ張る。


 駄目だ。全く動かない。

 嫌な予感がする。


「……まさか」


 俺は念のため、確認をした。

 本当は聞くまでもないが。


「はまっちゃったもぐ……!」


 そっかー……。

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