15.ドリアード

 ドリアードの村……?

 ドリアードはドライアドとも森の妖精とも呼ばれる種族。

 こんなところに住んでいたのか。

 とりあえず、みんなを呼び止めよう。


「この先にドリアードが住んでいるみたいだ……。みんな、ちょっと立ち止まってくれ」


 ニャフ族が猫の亜人としたら、ドリアードは花の亜人というべき存在だ。

 頭の上にふわふわの花が咲いており、身長はニャフ族と同じくらい。

 かなり小さくてかわいい種族だ。


 と、ブラウンが興奮しながら呼び掛けてくる。


「ド、ドリアードにゃん?! 本当ですかにゃん!?」

「落ち着いてくれ、声が裏返ってるぞ」


 そんなに興奮する相手だろうか。ほわほわでマスコットみたいな、温厚で無害な種族だ。


「で、ですがドリアードですにゃん?」

「どうして興奮するのか、その辺りがよくわからないのだが……。ドリアードはヤバい連中なのか?」


 前世のゲーム世界だとドリアードは色々な作物を育てたり、植物に関係した話にでてきたな。

 エルフやニャフ族に比べるとかなり珍しい存在だが、危険はないはずだ。


「んにゃん……ドリアードは我が王国にはもういないのですにゃん。もし見つかれば、百年ぶりに集落が見つかったことになりますにゃん」

「……そ、そうなのか?」


 知らなかった。

 うーむ、どうもローカルな知識は抜けがあるな。

 魔法みたいな普遍的な知識は間違いないのだが……まぁ、仕方ない。


「なので接触は慎重にですにゃん。どんな連中か、情報がないですにゃん」

「うーん、それだが……特に危ない連中ではないと思うぞ。ここまで俺達はがやがやと集団で歩いてきたが、ドリアードが反応している様子はないし」


 もし神経質な種族なら、さすがに何らかの行動を起こしている頃だ。

 だけどドリアードは基本的にのんびりとしている。好戦的な種族ではない――はずだ。


「それにここに住んでいるなら、この森はドリアードの縄張りだろう。挨拶くらいはするべきだろうし、森についても何か知っているかもだしな」

「んにゃん……それはエルト様の言われる通りですにゃん。浅慮でしたにゃん」

「いや、気にしないでくれ。何かあれば声をかけて欲しい」


 そうして先頭を歩くのは俺とウッドだ。

 三十歩先か……生い茂った草と木のせいで、視界はかなり悪い。

 手で枝や葉をどけながら歩いていく。


「よっと……もう、目の前のはずなんだが……」

「ウゴウゴ! あれ、大きな木!」

「おお、そうだな……。塔みたいだ」


 茂みを出ると、少し開けた場所に出てきた。

 目の前には確かに大木がそびえ立っている。

 デカいな……見上げるほど大きい。そしてビルのように幹が太いのだ。

 ざっと五階建ての建物くらいはあるな、


 圧倒される光景だが、俺は木の様子に違和感を覚えた。


「ん……? 葉がないな、枯れかけているのか」


 他の周りの木はたくさんの葉があるのに、その大木は葉が落ちきっている。

 どう見ても元気がない。


【森の鑑定人】にもっと集中してみよう。魔力を使うほど、詳細な情報がわかるはずだ。


『ドリアードが村にしている巨木。すでに枯れている』


 やはり枯れているのか。

 そうして大木を見上げていると、大木の幹の真ん中が扉のように音を立てて開き始めた。


「わー、人間さんがいるよぅ」


 白いバラの花が生えたドリアードが扉を開けて出てきた。

 ……ちっこい。身長はニャフ族といい勝負だな。


 声も幼いし、子供のように見える。白バラのドリアードはそのまま、ぽてぽてと俺達に歩いて近寄ってくる。

 扉の向こうでは、ドリアード達が興味深そうに俺達を見ていた。

 なるほど、やはり村といえるぐらいの人数がここに住んでいそうだ。


「人間さん、ご機嫌うるわしゅ~」

「ああ、ごきげんよう……挨拶と出迎えに感謝する。俺達は怪しいものじゃないんだ――」


 俺達はここまで来た経緯を、ドリアードへ簡単に説明した。


 ◇


「なるほど~、森の向こうに人間さんが住みはじめたのですねー」


 事情を聞いた白バラのドリアード――テテトカはふんふんと頷いた。


「森に入ったのはまずかったか?」

「森はみんなのものですから、ぼくたちは気にしないです~」

「……そういってもらえると助かる」

「いえいえー」


 そこでテテトカはしゅんと肩を落とす。


「本当はお茶でも出したいんですけど、でもぼくたちは今とっても大変で……」

「……この枯れた木か?」

「わ、わかるのですかー? そうです、木が枯れちゃったのでお引っ越しをするところなんです」

「引っ越すのか……。あてはあるのか?」

「んー、森のもっと奥に……この木の半分くらいの木はありましたので、そこにしようかと」


 ふむふむ、なるほど……。結構大変なことになっているな。

 枯れた木はやがて倒れるかしてしまう。

 確かにどこかに移るしかないだろう。


 ……うん?

 木の家なら俺も用意できるぞ。


 ここで出会ったのも何かの縁。

 ちいさな子供みたいのが困っているのを、見過ごすのもかわいそうだ。


「実は、俺はこんな魔法が使えるんだが……」


 魔力を集中させて、俺は大樹の家を唱える。

 テテトカの目の前に、あっという間に木の家が出来上がる。


 その様子を見たテテトカは、ぴょんと飛びはねていた。


「ふぁぁ~……!! すっごいです!」

「植物魔法と言うんだ。もしよければ、これで家を作ろうか?」

「ええ~! そんな、いいんですか?」

「ああ、今の俺には魔力に余裕がある。たぶん数十人分だろう? 問題ない」

「うれしいです~……でもぼくたちは、みんなでひとつの木に住んでいたいんです。別々の木には住みたくありません……」

「ふむ、この大きさの木でもなんとか作れるぞ」

「作れるんですか~!?」


 そう言うと、テテトカはまたぴょんぴょん飛びはねた。

 ……たぶん、跳ねるのが好きなんだな。


 大樹の家は魔力を使えば使うほど、さらに大きな木も作れるのだ。

 この目の前にある枯れた大木と同じサイズの木も、今の俺には生み出せるだろう。


 だが、ここだと場所がないな……。

 森のなかにもうひとつ、この大きさの木を生み出すのは自然破壊だ。

 大樹の家もモノがあると失敗してしまうかもしれない。


「だが、空きスペースが問題だな……」

「それならいい考えがありますにゃん!」


 ウッドの後ろで話を聞いていたブラウンが、にゅっと前に出てきた。


「いい考えですか~?」

「エルト様の村の方に住めばいいのですにゃん!」

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