13.提携条件

 かなり唐突な話だ。

 ポーションを売りはじめて、そんなに経過していないのに。

 ……それだけ俺を評価しているということか。


 とはいえ、冒険者ギルドと繋がるのは願ってもない話だ。


 俺の領地は手つかずでまだ資源が多い。

 森に入るだけで素材がわんさかあるのだ。

 冒険者に採集してもらえば、大いに資金は潤うだろう。


「ありがたい話だ、受ける方向で行こう」

「決断が素早いですにゃん」

「いずれそうなればいいな、とは考えていたからな……。思ったよりも話が出てくるのが早かったが、受けない選択肢はない。そろそろ先を見据えた領地作りもしたいしな」

「そこまでお考えだとは……。エルト様は大人よりも賢く、深く考えているのですね」


 アナリアが尊敬の眼差しで俺を見てくる。

 まぁ……実際、前世を足し算したらこの中ではトップクラスの人生経験だろうな。

 だからこそ、決断できる。


 これまでのナールやアナリアの話から、冒険者ギルドは信用できる相手だ。

 そしてお互いによい条件で手を結べば、利益は大きい。

 失敗しても失うのは資金や時間――だけど、それは俺の植物魔法で取り返せる話だ。


「それにこちらには切り札もあるしな……ふふふ」

「植物魔法以外に、ですかにゃん」

「ああ、さっき話したステラだ。冒険者ギルド関連は彼女に立ち回ってもらう。Sランク冒険者ならうまくやれるだろう」

「なるほど……! そうですね、素晴らしいお考えです!」

「確かにそうですにゃ……あちしも握手したいくらいの有名人ですにゃ。無下には対応できませんのにゃ」


 よし、やはりそうだよな。

 最近のステラはずっと開墾ばっかりしているし、そろそろ派手に活躍してもらおう。


 ◇


 それから俺達は特に問題なく、領地に着いた。

 夕日は山の背に消えつつあり、空には星と月が輝きはじめている。


 領内に入ると、移住者の間から驚きの声が聞こえてきた。

 どうやら思ったよりも、家が大きかったらしい。

 特に冒険者達からはかなりの好評だ。


「ほあー、この木が全部住める家なのかい? いいねぇ、ザンザスで借りてた家より倍くらい大きいじゃないか」

「猫の額程度だと思ったが、なかなかどうして立派なものだ。それにしても、これが全て魔法の力とは……」


 ニャフ族の住んでいる区画を過ぎて、新しい移住者用の区画に到着する。

 二十くらいは新しく大樹の家を作ったが、とても足りないな。


 とりあえず大樹の家を連発して、家を作りまくるか。

 冒険者ギルドの件は後回しだ。


「よし……少し下がっていてくれ」


 大樹の家が出来上がるのに、数分はかかるからな。

 あと三十、家を作る必要がある。完全に夜になる前に終わらせないと。


 それから俺は大樹の家をどんどん発動させて、家を増やしていった。


「う、うそだろ……。こんなに魔法を連続で発動できるのか?!」

「領主様くらいの歳なら、せいぜい数回発動させるのが限度のはずだが……」

「はは……なるほど、これだけの魔力を持っているなら領地も任されるだろうな」

「……ああ、王国でも最年少の領主。それが生まれた理由を理解した」


 魔力を高めたのは、こちらに来てからなんだけど……まぁ、それは言わないでいいか。

 良い誤解も良い評判のうち――実際、俺の魔力はもう同年代の貴族の平均を大きく超えている。

 俺に常人離れした魔力があるという風評はプラスになるだろうし。


 こうして俺は移住者の家を作り終わった。

 ……終わったときには、みんな唖然とした顔だったな。

 でも野宿はさせないですんで、一安心だ。


 ◇


 家を作っていたら、結局完全に夜になってしまった。

 ふむ……冒険者ギルドの件は明日にするか。


 俺の領地に残業なし。

 俺自身が決めたことだからな。


 ちゃっかり、ナールはステラに会っていったようだけど。


 翌朝、俺の家にはナール、アナリア、ステラが集まった。

 冒険者ギルドとの提携。

 その話し合いをするためだ。


「ふぇぇ……冒険者ギルド、ですか……」

「ああ、かなり厳重な手紙で書いてきたからな。それだけ重視しているのだろう。手紙には色々と条件があったが――」


 まず冒険者ギルドが俺に求めたのは、次の通りだ。


 ・ポーション類を取り決めた価格でザンザスへと独占供給すること。


 ナールやアナリアに確認したところ、価格的にも適正だと言うことだ。

 これはそのまま受け入れて問題ないな。


 ・冒険者ギルドが求める、状態異常治癒ポーションを作成して供給すること。


 ザンザスのダンジョンは深い層になるほど、状態異常の攻撃をしてくる魔物が増えるらしい。


「ふぇぇ……三層から下は、毒治癒のポーションは必須です。変わっていなければ、ですが……」


 特に毒を治癒するポーションはかなりの量がいるそうだ。足りなくなると、挑むことさえできなくなる。

 なので特定の種類を必要な分、作ってくれということだな。


 そして冒険者ギルドが、見返りに俺へ申し出てきたことはふたつ。


 ・ポーション類の輸送のため、最速の往復便を作る――費用はもちろん冒険者ギルド持ち。


「魔物の襲撃に対応するのに、冒険者ギルドは機動力を持ってるにゃ。特別に足の早い馬やマジックアイテムなどですにゃ」

「そうだな、魔物が襲ってきたらすぐに現場へ着かないといけない。でも俺のために使って大丈夫なのか?」

「どこの冒険者ギルドも、輸送には余裕があるようにしてありますにゃ。それにポーションなしで魔物に返り討ちにあったら、それこそ早く着いてもダメですにゃ」


 なんとなく、俺はすばやく害獣を駆除するハンターを思い浮かべてしまった。

 だが、そういうことなら輸送力を使わせてもらおう。


 これでポーション作成から現金化までのサイクルはかなり早くなるな。

 こちらとしてもより早く色々なことができるわけだ。


 最後にひとつ、冒険者ギルドはこんな提案をしてきた。


 ・こちらが求める人材を、近隣の冒険者ギルドにも問い合わせて紹介する。


 よし……。俺は心のなかでガッツポーズをした。

 これだ、この条件があればいいなと思っていた。


 お金はかなりの速度で貯まっている。しかし、それだけでは不十分だ。

 人がいないと、本当の意味で発展していることにはならないからな。


 特に医者と鍛冶屋はまだいない。

 街にひとりはいるだろう人物が、まだ俺の領地にはいないのだ。


 それが解消するなら大助かりだ。

 三人が見ても、特におかしいことはないみたいだ。


「……よし、この条件で受けようか。ステラ、それではひとつ仕事を頼みたいんだが――」

「わたしにできることなら……何でもします」


 ん? 今、なんでもって言ったな。


「なに、簡単なことだ。ザンザスの冒険者ギルドに一度で良いから、顔を出して欲しいんだ」

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