第5話 非日常の幕開け
そこらの雑誌に載っているモデルがかすんで見えるほどの美女、ペトラに案内された部屋は5部屋つづりの部屋だった。
この城では、王が使う部屋の次に良い部屋、正妃の部屋らしい。
お茶会用のテーブルがある部屋、机と書棚がある執務用の部屋、今は中身が最低限しかないが衣装部屋、浴室などとつながっている着替え用の部屋に、寝室。
どこの部屋も落ち着いた印象、それでも明らかに調度品は質が良くて高いのがわかる。文句なしに良い部屋だ。
「良い部屋ね」
「ありがとう存じます。それでは、
「もちろんよ」
「はいりなさい」
宰相のペトラは本当に優秀なのだろう。私に対する感情がごっそり何も読めないだけで、仕事に抜かりはない。
静かに入室してきた5名を見て、ドッキリなのだとしたらすごい規模だ、と感心する。よくもこんなにリアルな耳を用意したり、美人を集められたものだ。髪の色がカラフルになっても、痛々しくない美形を集めたその手腕を評価したい。
妖艶な美女から順に最敬礼の仕草をとる。
「アルブ・ヤクシー、
「待ちなさい、ペトラ、2家1女とは?」
「申し訳ございません。この世界での一族内の序列を表しております。2家というのは、一族の中で上から二番目に力のある家、1女はその家の長女を意味します」
なるほど、そもそもの家格以外にもその人の立ち位置がわかるのは良い。
他にも夜叉とか、気になる単語はたくさんあったが、それはこの紹介が終わってから聞く方がよいだろう。
「理解したわ」
「アルブは学院にも通っていました。常識は一通りあります。もし、今後わからないことがあれば、アルブにお聞きください」
「
「ええ、よろしく」
紹介されたアルブは濃紺の髪をすっきりとまとめて、どことなくメイドのような恰好をしている。おそらく、侍女みたいな役割になるのだろう。
こんな侍女を侍らしていけるなんて、それはそれで楽しい。
ちょっと私に向けて敵意があるのも、また良い。
ペトラ的にアルブは問題なかったらしく、アルブの横に控えている幼児たちの紹介が始まった。
アルブの隣にいるのは、ペリ・シタン。
ショタに目覚めたくなるような金髪碧眼の幼児、背中に薄っすら羽が見えるから人外であることは確実だ。きっと見た目通りの年齢ではないのだろう。他にも精霊のシタン一族が、内宮にたくさんいると説明された。彼が部屋の清掃係を務める。
そのペリにそっくりな三つ編みの幼女が、衣装係のパル・シタン。ペリの姉らしい。
ただ、私が気になるのは、後列にいる。騎士とか護衛の類の女性だ。私に向かって敵意や殺意を隠しもしない、ぞっとするほど昏い視線をくれる。
「次に、
もう一人はグルル・ラクシャーサ、近衛隊第1隊所属です。悪鬼のラクシャーサ一族5家2男です。騎士以外に、文官として働く資格も保持しています」
騎士も文官も資格制度なんだ、やけにリアリティがある設定だこと。それだと側仕えにも資格がありそうだ。あとで、アルブに聞いてみよう。
それに、他の人はヤクシー一族とかいう言い回しをしていたのにサラ・イブリストだけ別なのも気になる。
「サラ・イブリストはどこかの一族ではないの?」
「はい。イブリスト、もう一人リヴァイアという者がおりますが、両名は魔力の塊が現出したもの。誰か親がいて生まれい出た魔族ではなく、魔力が溜まる場所に、出現した幻獣そのものです。魔族とは少し区分が異なります」
なるほど。親のあるなしで区分が変わるのか。マジマジと目の前の燃えるような赤毛を見つめてみるが、その他の人もカラフルだし、本人から聞かない限りまったく見分けがつかない。
「イブリストとリヴァイアは、陛下と私の魔力から発生した幻獣で、他の幻獣とは少し異なります。詳細は後日、教育係のソフィアよりお伝えします」
なにそれ、すごい面白い。それが可能なら、同性同士でも実質子どもができるってことだよね。
むしろ、王様と宰相の子どもみたいなその二人は王子王女扱いじゃないの?
異世界ってなんでもありで、すごく面白い。
まあ、それならサラが私に対してすごく暗い感情を向けてくるのも納得だ。陛下と私の間に子どもができたら、彼女らの立場が変わるのが容易に想像つく。
「私が怖い?サラ・イブリスト」
「いいえ、貧弱な人間に対して恐ろしいなんて感情を持つはずがありません」
「イブリスト、言葉を慎め」
「ヴルコラクさま、申し訳ございません」
あくまで私に対しては謝らないぞという強い意志が見れる。完膚なきまでにこのプライドをへし折ってあげる日が楽しみだ。
いい玩具、見つけた。
表層の笑みを変えないまま、内心ではにんまりと笑う。気の強い女騎士、それも王様と宰相様の子ども扱いの幻獣。なんとへし折り甲斐があることか。
「
「ペトラ、よいわ。とっても面白いもの」
でも、一番面白いのは間違いなくこのペトラだ。
それにどこか既視感がある。こんな存在感のある面白い存在を忘れるわけないのに、どうして既視感があるのか不思議だ。
「それでは、
「私からあなたに命令したいときは?」
「アルブを通して伝令をいただければ馳せ参じます」
「わかったわ」
女性とわかっても、一つ一つの仕草に気品があってドキドキするペトラに手をふった。
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