スタジオ29 超絶人気アイドルは流行に敏感なファッションリーダーでもある②

 俺はピンときた。多分間違いない。


 お店の人って、あの子さんのお母さんじゃないかなぁ。

 でもまだ確実じゃない。


 不意に名を呼ばれたあの子さんが返事をした。


「すみません。先月卒業して、今日はプライベートなんです」


 いやいや、あの子さん。

 プライベートだからこそ、いい機会じゃないか。


「奇遇ね。私もプライベートよ」


 と、あの子さんのお母さんらしき人。

 言い方が、あの子さんにそっくり。


 でも、プライベートじゃないだろうな。

 営業中なんだから。


 社長も取り乱してる。


「そうね、私もプライベートよ」


 でしょうね。


 このペースじゃ、まずいな。

 取り留めがなさすぎて、はなしが進まない。

 母娘の名乗りを上げる前に別れる可能性もある。

 だったら、明菜さんが名乗り出易いようにしてあげよう。


 俺は小声でさくらとまりなさん母娘にもどう思うか確認した。

 同意してくれたのは、1人だった。


「ねぇ。明菜さんって、あの子さんのお母さんじゃないかなぁ」

「さすがは坂本くん。私も同意見よ」

「えっ、そうなの? でもかなりお若い方よ」

「そうですよ。絶対違いますよ」


 その1人がまりこちゃんというのが心強い。


「兎に角、真実を確かめよう」

「そうね。何だか面白そう!」


 まりこちゃんがそう言ってくれて助かった。

 さくらは地味だけど、面白いことに目がない。


「面白そうなら、私もやる!」

「うんうん。私も!」


 こうして俺たち4人はタッグを組んだ。

 そして、明菜さんとあの子さんが母娘かを確かめることにした。




「そういえば、あの子さんのお母さんの名前、何ていうの?」


 さくらが言った。ナイス!

 あの子さんに明菜という名を出させる作戦だ。

 うまくいけば、自然に明菜さんに聞ける。

 明菜さんは、あの子さんの母親ですかって。


 ところが、この作戦は失敗した。

 あの子さんがあほの子だということを忘れていた。


「知りません」

「えっ?」


 俺たちは一斉に聞き直した。


「ですから、知りません。名前も顔も、年齢も」

「じゃあ、どうやって探すのさ?」


 代表して俺が聞いた。


「はい。名乗り出てくれるのをひたすら待ちます!」

「……。」


 あの子さんは自信たっぷりと言った表情だった。

 でもそのスタイル、改めた方がいい気がする。




 あの子さんを動かすには、無理がある。

 明菜さんにアプローチしよう。


「明菜さん、居着いちゃったけど仕事はいいんですか」

「いいのよ。もう店閉めたから」


「えっ、どうしてですか?」

「だって、プライベート! ですから」


 どゆこと?

 それって、あの子さんと一緒だってことと関係あるの?

 母親であることを名乗り出るつもりなのか?


 いやいや、まさか。俺の考え過ぎだろう。

 でも、ひょっとしてってこともあるし。

 っても、俺にはあと一歩が踏み込めない。

 違ったときのダメージが大き過ぎる。


 こういうときは、自虐ネタに限る。


「お店を閉めてまで俺と一緒がいいんですか」


 ちょっとイタ過ぎるかな。

 でも、通るとみた!

 1度引いたあとの要求。少しくらい無理してくれるものだ。

 このあとにあの子さんのことを聞けば、教えてくれるだろう。


「あっ、分かっちゃいました!」

「えっ?」


 なっ、何だこの反応。

 思ってたんと、全然違う!


「年甲斐もなく好きになっちゃったみたい」

「ええっ?」


 たっ、頼む。皆まで言わないで!

 嘘だと言ってくれーっ!


「あなたのことを、私が……。」

「えーっ!」


 まさかの一目惚れってやつかよ。

 俺のどこにそんな魅力があんだよ!


 俺が困っていると、助けてくれたのはさくら。

 いや違う。暴走だ。さくらの暴走だ!


「ちょっと待った! おばさん、それ以上は言わせないわ」

「小便くさい、おじょうちゃんは、早くおねんねしてなさい!」


 売り言葉に買い言葉。今度は明菜さんまでヒートアップ。

 一触即発。俺、何にもしてないのに修羅場を迎えている。


「いい度胸ね。この私と闘う気なの?」

「もう1回言うわ。おねんねしてなさい!」


 もう、誰にも止められない。

 というか社長も他のみんなも笑ってる。

 2人の対決を見て楽しもうとしている。


「キーッ! こうなったら勝負よ」

「望むところよ!」


「勝負は……。」

「……勝負は」


 勝負は、何?




「フランクゲームよっ」

「受けて立つわ!」




 フランクゲーム。それは焼肉店で稀に見られる淑女の闘い。

 男性はフランクソーセージの端にパクつく。

 逆サイドを女性が咥え、もぐもぐする。

 もぐもぐすればするほど、男性に近付いていく。


「坂本くんの。これくらいかしら」

「いいえ。これくらいだったわ」

「なっ! もう少し太いんじゃない?」


 俺の申告はさくらに却下された。


「変な見栄はらないで。こんなものよ」

 

 このゲーム。一見するとチョコレート菓子を使ったアレに似ている。

 しかし、大きな違いが2つある。

 1つ目は太さと長さは男性が自己申告すること。

 2つ目はもぐもぐするのは女性のみだということ。

 つまり、俺は完全に受け身。全ては女性陣のなすがままにされる。


 さくらがいつの間にか仕切っていた。


「じゃあ、全員参加ね」

「いっ、いいのか? まりこちゃんまで」


「本人は至って真剣に準備してるわよ」

「でも、小学生だろ」


「女は女。私の口から辞退しろなんて、言えない」

「そっ、そうですか……。」


 俺にだって言えない。結局、全員参加ということになった。


 こんなゲーム、俺に耐えられるんだろうか。

 一説によると、相当刺激が強いらしい。


 唇と唇が触れてしまうかもというハラハラ感。

 一生懸命に咥える女性陣の息遣いによるドキドキ感。

 気付いたら下のフランクまで咥えてくれてるかもというウキウキ感。

 何より、ハプニングを期待してしまうワクワク感。


 その全てが一級品。

 女性陣が順番を決めている間、俺はトイレに行って、イッた。


======== キ リ ト リ ========


フランクゲーム、危険過ぎます。


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