ステージ25 超絶人気アイドルは私がお腹を痛めて産んだ子です

 あの子さんのお母さん。

 一緒に探すってのは面白そう。


 けど、あまりにも無理ゲー過ぎる。

 だから私は諦めちゃった。

 坂本くんやまりなさん、あの子さん自身もね。


 たった1人だけ諦めの悪いママだった。


「芸能界は天井知らずよ」


 ママの口癖。


「えっ?」

「天辺ったって、あの子が登った山は決して高くはない」


 私だってまだ上り詰めていないのは事実。


「そうね。私からすれば麓の類に過ぎないわ」

「そういうサクラだって、まだまだなのよ」


 これも口癖。


「さくらさんよりももっと高いところまで登れば、お母さんも」


 あの子さん、何夢語ってるの。


「自ら名乗り出てくれるはずよ」

「本当ですか。うわぁっ」


 ったく。ママったら無責任すぎるわ。

 あの子さん、真に受けちゃった。


「よしっ、決めた。俺、絶対にあの子さんのお母さんを探し出す」


 なっ、坂本くん。貴方まで真に受けることないのに。

 私は慌てて否定した。


「ちょっと、どうやって? 章には何もできないんじゃないの」

「そんなことない。できる。それに、やりたい!」


 何の根拠もないくせに。

 けど、それが坂本くんの凄いところ。

 わがまま王子モード、突入。


「出ました。坂本くんのド級やりたい砲!」

「奇遇です。私もそれ言おうと思ってました」

「あっ、あの子さんまで! 俺はそんなにやりたいやりたい言ってない」


 何? みんなも同じようなこと考えてたの。

 坂本くんのいいところ、シェアしたいなんて思ってないのに。


「そういうところよ、やりたい砲」

「なっ」

「わがまま王子モードかよっ、やりたい砲」


 まぁ、乗っかるしかない。

 私はやりたい砲の連打で加わった。

 すぐさまみんなも続いた。


「本当にそうね、やりたい砲」

「自分の意見をゴリ押ししてくる、やりたい砲」

「やりたいから、やりたい砲」

「なっ。違う違う違う。違うったら、違ーうっ」


 この素晴らしい繰り返し、祝福したい。

 小学生かよっ! 思わず、吹き出しちゃった。


「ぷっふふふ。章のそういうところ、私、好き!」

「そうそう。こちらまでやるぞって気持ちにさせられちゃう」

「奇遇です。私もまったく同じですよ」

「いい歳した私までのせられることがあるわ」


 みんな笑顔。その中心にいるのはいつも彼。


「じゃあ、本物のやりたい砲を放ってもいいかい」


 何? これ以上の幸せをくれるっていうの。

 私は、坂本くんが言うのを固唾を飲んで見守った。


「よしっ。じゃあ、4人とやりたい!」


 なるほど、やりたい砲だけにね。面白い。

 いいよ。今直ぐにでも、やろう。

 ちょっと恥ずかしいけど。


 けど、ママが見てる。

 だから、素直にはうんって言えない。


 顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。

 同時に湧き出した様々な感情。

 それらをなるべく隠して、言った。


「はぁ、何それ。ただのセクハラじゃん」

「冗談なら何言ってもいいと思ってるタイプ?」

「そもそも全くもって、笑えませんけどね」

「私は、いいわよっ。今すぐにでも」


 マッ、ママ。ずるい。ずる過ぎる。


「さっ、桜子って呼んでちょうだい、坂本くん」


「なんだ、なんだ」


 こうなったら、囃し立てるしかなかった。


「社長が、陥落しているわ」

「1番なさそうなのに」

「だって、ロールケーキが食べたいんだもの」


 はぁ、そんな理由?

 それで実娘の旦那を寝とるんかい。


「なるほど。それなら私も身を捧げようかしら」

「奇遇です。私もそうしようかと」


 どっ、どどどどどっ。どうして?

 どうしてみんな、そんなに素直なの?


「つくらないから。やりたい砲は放っても、ロールケーキはつくらないから」


 章だって戸惑っている。


「ちょっと。みんなおかしいわ」

「ロールケーキは洋菓子だけど、私たちはおかしいじゃない」


 どういうわけか、ママと口論になった。


「どうして? 人の旦那捕まえてやるやらないって、充分おかしい」

「旦那という前提を捨てるべきね」


「べっ。べきんない!」

「そもそも、まだ旦那じゃない!」


「旦那でしょう。告られてOKしたんだから」

「法的に無理でしょう」


「そんなの、親がいいって言えば……くっ!」


 親の壁。そんなの、乗り越えてみせる。

 私はスマホを取り出した。

 すぐさま通話。


「あっ、しんぞうくん。法律変えてほしい……。」


 彼は、私の奴隷。何でも言うことを聞く。

 ママの奴隷でもあるけど、ここは先手必勝。


「……うん。じゃあ、よろしくねっ」


 これで大丈夫。な訳ない。

 ママもスマホを取り出した。

 けど、相反する命令はくだせないはず。


「ぞうしんちゃん。今のりつほー、施行はデー年後よ。シクヨローッ!」


 そんなに先延ばしさせるの!

 ずるい。


「仕方ない。こうなったら……。」


 家族通話用のガラケー。


「もしもし、オヤジ! 結婚すっから」


 これでどう?


「残念ね、サクラ。あいつの手に親権はないわ」

「何ですって! じゃあ、一体誰の手に?」


 ママ、言ってごらんなさい。今こそ、本当のことを。

 『超絶人気アイドルは私がお腹を痛めて産んだ子です』って。


======== キ リ ト リ ========


さくら、何やかんや社長に母娘の名乗りを上げて欲しいみたいですね。


この作品・登場人物・作者を応援してやんよって方は、

♡や☆、コメントやレビューをお願いします。

励みになります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る