第2話 半田 楓
なんで容姿のことが気になるかって言うと、半田楓って名前に行き着く。彼女は私の隣の同じような古い日本家屋の家に住んでいる。分家?っていうのかな、遠い親戚だけど、年齢が同じで、小さい頃からずっと一緒だから、友達というよりも双子の姉妹のような感じがする(もちろん姉は私、だって楓は守りたくなるような可愛い子なんだもん)。
その楓は、私の母から踊りも習っていて、毎日のようにお稽古に来るから、その踊りを見るのも結構好きなんだ。幼稚園から高校まで同じ学校だし、家族同士もとても仲がいいから、私の記憶の全てに存在しているような子だ。
半田楓は、もう一回言うが、とても可愛い…。髪は同じようなくせ毛だけど、私よりも茶色が濃く、色白で色素が薄い感じだ。目は二重でやや丸い顔とつんとした高さの鼻と小さいけど厚みのある可愛い唇…。顔のパーツは、親戚ということもあり私とよく似ているのだけど、配置と言うか、存在自体が可愛いオーラで包まれているって感じがする。
そう、天使の生まれ変わりだと本気に考えていた時期もあるくらい、透明と言うか白いふわふわしたイメージをもっている。家の後ろに見える深い緑の筑波山と青い空を背景にニッコリと笑う楓を見たら誰だって好きになっちゃうよ!
背は150センチくらいで、華奢で小柄だけど胸はある。これって重要じゃない? 成績は私より少しだけいいけど、運動は私の方が少しだけ出来る。性格はすこぶる良好って言えるほど、とっても優しいし、穏やかだ。楓が人の悪口を言っているとことか、聞いたことがない。そして、極めつけだけど、私の我儘は必ず聞いてくれる。もちろん、どうしてもダメな時もあるけど、最優先で考えてくれているって安心感が私にはある。だから自己嫌悪なんだよね。
今年に入ってから、楓には彼氏が出来た。と言っても、小さい頃からの知り合いが、最近になって帰国して、再会して、お互いに恋に落ちたっていう恋愛ドラマみたいな展開なんですけどね。でも、あせるじゃない?彼氏である風間勇気君は、1学年上だから高校2年生だ。帰国子女?子男? 英語は勿論、数学も良くできて彼氏として申し分ない。髪は真っ黒でやや天然パーマが入った緩やかなウェーブの前髪と短く刈り込んだ襟元は、ほっそりとした顎と整った顔立ちに良く似合っている。
背は175センチ、体重は不明だけど痩せ型だし、女子高校生的にはオールOKでしょう?二人が仲良くなっていくのを端で見ているのは、かなり喜ばしいことけど、何故か少し寂しい。
二人が付き合い始めてから、私と楓との時間が少なくなって、そして実感したのは、私って友人が少ない…趣味もない…中身のない人間…。
ほんと暇なんだよね。彼氏が欲しいという気持ちは全くないのだけど、なんかあせるって感じ…。今まで楓は私を大事にしてくれていたから、今度は私が二人を生暖かく見守る番なんですけどね。
楓に彼氏が出来てから、周囲がざわざわしてるのも気になっている。風間君はもてるのだ、きっと、多分、絶対…。楓の体操服が隠されたり、教科書が汚れていたり、楓が入った教材室のドアが急に開かなくなったり…。そんなこと、聞くだけでイライラするんだよね。挙句に、私のことまで噂になっている。楓みたいに可愛い子の近くにいるのって可哀想…、あれじゃ単なる引き立て役じゃないかって。
あー。これよこれ、私が悶々とする理由は…。友達が可愛いからって、何だって私がターゲットにされるわけ? 違うんじゃないかな。顔で友達は選ばないし、楓はそんな子じゃないし…。でも鏡を見ると、言われているように私は十人並みの容姿で、楓の引き立て役になっているような気もするし…。
楓との関係が壊れるのが嫌で、こんな噂は聞き流しているけど、思春期の私は気持ちが揺れるのよね。でも、気持ちが揺れても楓への絶対的な信用は決してなくならない。これも不思議なんだけどね。
あー、でも私が実は両親の本当の子ではないってことだけは言えないでいる。両親と仲良しの楓には変な心配はさせたくないからね。
今は、運命の人に出会えた楓の恋を邪魔したくないんだ。
運命ってなんだろう…。
赤い糸の伝説ってあるけど、信じてみたいなって思う気持ちもある。青い空に向かって、左手の薬指をかざすと、指の色がスッと風景に馴染んで、そこから赤い糸が出てくるような錯覚に襲われる…ってことない?
誰かが私を呼んでいる。そんな気がするのは、思春期のせいなのかな?無視できない声が聞こえてきそうで、時々私は自分の耳をギュッと塞いでしまう。
何やってんだろうね。
こんな片田舎の平凡な高校生に、どんな運命があるって言うんだろう。
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