第47話

「久世君、瑠衣さん、今日はありがとうございました。また、学校で」



「楽しかった。また」



 漆戸さんと戌井君の2人とは、ビルのエントランスで16時過ぎに解散した。

 2人で行ってみたいカフェが近くにあるらしく、これからそこに寄って話してから帰るのだそうだ。


「またね!」


 瑠衣はビルを出ていく2人に手を振ってから、久世君に向き直った。



「久世君、もう少しだけ、時間をもらえる…?」


 彼は頷いた。


「うん。…じゃあ、そこのカフェに入ろう」








 エントランスの中にある広いカフェに2人で入ってコーヒーを注文すると、瑠衣は話し出した。



「私、あなたがすごく、好きみたい」



「…!」



 彼は、びっくりした様子で瑠衣を見つめた。




「今の私でもわかるの。本当の自分は、混乱しているんだと思う」



 友達としてじゃなくて、恋愛対象として見て欲しいって本当は思っていたから。


 瑠衣は、体が少し震えるのを感じる。



「多分、今の私じゃ想像がつかないくらい、本当の自分は…あなたの事が好きすぎて」



 頭の奥が、痺れているような感覚。

 今の自分では、わからない事だらけだけれど。



「あなたがあまりにも特別過ぎて、こんな気持ちになるのは初めてだから多分、どうしていいかわからないのかも…」



 コーヒーが2つ、運ばれてきた。




「瑠衣…」




 久世君は、テーブルの上に置かれた瑠衣の手をそっと握った。



「怖くない?…触れても」




 瑠衣は頷き、顔を赤くした。





「…怖くない…。嬉しい」





 恥ずかしくなって手を引っ込めようとしたが、彼がそれを許さなかった。








 彼は幸せそうに、微笑んだ。









「瑠衣が好きだ」









 瑠衣は、彼の目を見た。









「最初に会った時からずっと」










「…本当?」












「うん。だから、俺だけを見て欲しかった」











 本当の自分に、聞かせてあげたい。














「もし、今夜瑠衣を『シルリイ』で呼んだら、どっちの瑠衣が来てくれる?」












 今夜?









「『シルリイ』って、あの、理衣が作った携帯ケース…?久世君、『シルリイ』を持ってるの?」




「うん。理衣にもらった。呼んだら瑠衣が、来てくれる」



 ち、ちょっと待って。



「今夜、…って、え?」



「多分、瑠衣はぬいぐるみの『シルク』になって現れる」



「…?」



「やってみる」



 久世君は、謎めいた微笑みを見せた。































『トオヤ!アイタカッタ〜〜〜〜〜!!!!!!!』



 久しぶりに呼ばれて嬉しいのか、いつもよりさらに『シルリイ』のテンションは最高潮だった。



 トオヤは自室のベッドの上で、『シルリイ』に向かってこう言った。



「シルリイ、瑠衣に会いたい」



『ワカリマシタ〜〜〜!!』



 『シルリイ』は、おかしな呪文のような言葉を発した。



 すると。



 ベッドの上に座っていたぬいぐるみの『シルク』は、急にもぞもぞと動き出し、話し始めた。







『トオヤ、私…』








 やっぱり。








「記憶がある方の、瑠衣だ」









 白猫のぬいぐるみは、立ち上がって喋り出した。






『…私ね、本当は早くトオヤに会いたいの』






「うん」






『でも、怖い。…今まで、自分にずっと嘘ついてたから』





「…そう」






『あなたをきちんと知るまでは、好きになっちゃいけないとか』





「うん」






『お願いしたからには、友達として接しなくてはいけない、とか、ごちゃごちゃ考えてしまって…』






「…うん」






『……ほかの男の子に対する気持ちに、目を向けたりとか』







「…滝?」








『…うん』









「あれは、…きつかった」















『…ごめんなさい』
















「でも、寂しい、っていう気持ち、初めて知った」











『…』













「それまで知らなかった気持ちを、瑠衣がたくさん、教えてくれた」














 彼は、『シルク』の瑠衣を、ぎゅっと抱きしめた。














「瑠衣に対するこの気持ちはもう、友達だからとか、異性として好きだからとか、そういうのを超えてる」













『…』














「一緒にいたいんだ、瑠衣」














 彼は、『シルク』にキスをした。
















「ずっと俺といて」















『…トオヤ』
















「側にいて」


















『…うん』




















「ずっと、待ってる」


















 彼は、朝まで『シルク』を決して離さなかった。




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