第22話

「おはよう…。…もしかして、わざわざここまで、迎えに来てくれたの?」


 トオヤは玄関の表札の横に立って、頷いた。


「うん。昨日、大変そうだったから」




 …あ。




 インパクトの強かった夢のせいで、昨日、阿賀野拓也と再会した最悪な出来事を、瑠衣は、完全に忘れていた。




「ありがとう…トオヤ」


 申し訳無さと、感謝が溢れてくる。

 こんなに、心配してくれるなんて。



 優しい、トオヤ。



 それなのに、自分ときたら。

 昨日の出来事を忘れて、夢の内容で頭がいっぱいになっていたなんて。




「瑠衣、風邪?」




 少し心配そうに、トオヤはマスク姿の瑠衣を見つめてくる。


 瑠衣は、少し慌てて言い訳をした。

「うん、ちょっとね、風邪、…というか、いろいろ…予防」


「そう」


 トオヤは瑠衣の全身をサッと見て、


「靴下が左右違うけど。わざと?」

と言った。


ええっ?!!


 慌てて自分の靴下を見る。

 左が黒で、右が紺色。長さも少し違う。


 恥ずかしい!



「間違えた…!」



「まだ時間あるから、戻って履き替えたら?」


「そうする!ごめん、ちょっと待ってて」


 瑠衣は家に戻り、慌てて靴下を履き替え、等身大の鏡を見た。


 マスク姿の、自分。

 表情を隠すためだけにつけた、マスク。


 これは、自分がなりたい自分じゃない。



 …隠しては、ダメだ。




 瑠衣は口元につけていた使い捨てマスクを、自分の部屋のゴミ箱に、意を決して捨てた。



 そして、トオヤの元へと走った。



「マスクは?」



 瑠衣は、恥ずかしそうに、笑って答えた。



「やめた!」












 学校に着くとクラスの皆に挨拶をしながら、荷物を置いて席に座る。


「今日、修学旅行の班のメンバー決めないとね?久世君の他に、男子は誰を誘おうか」


 東條さんは朝の挨拶が済むと、瑠衣とトオヤに相談を始めた。


「俺は、誰でもいい」


 トオヤは、淡々と答えた。


 四条南高校の修学旅行は、5月末に行われる。皆がクラスにようやく馴染んだ頃に、この高校生活最大の、楽しいイベントがやって来るのだ。


 男女均等にシャッフルして6人ずつの班を5つ決め、そのメンバーで班別行動の時間を過ごす。誰と同じ班になるかを、事前に決めておかなくてはならない。


 瑠衣はトオヤの他に、東條さんと漆戸さんを誘って、一緒に回ろうと約束していた。



 …男子。





 ……滝君。





 ……滝君、昨夜は本当にごめんなさい。








 ………妙な夢に、登場させてしまって…。





 あんな…。












 その滝君が、いきなり話に参加してきた。

「俺も、同じ班に混ぜて!!」





「!!!!」






 瑠衣は、びくっと体が飛び上がった。







 本物!!!!!






「いいわよ!ね?」


 東條さんは笑って、漆戸さん、瑠衣、トオヤを見た。


「う、うん、もちろん!よ、よろしく!」



 瑠衣は勢い良く、不自然なくらいに何度も、首を縦に振った。



「…?」



 滝君とトオヤは、ちょっと不思議そうな目で瑠衣を見つめた。



「ええ、いいですよ。でも、滝君は他の班の女子から誘われていたのでは?!」


 漆戸さんがそう聞くと、滝君は苦笑いした。


「この班以外からはね。だから、ここがいいんだ。1番気楽に話せるし。あと、戌井も誘ってみていい?」


「うん」

 トオヤが頷いた。


「この間トランプしたメンバーになったわね!いいわよ。漆戸さんにも入ってもらって、また全員でトランプしましょ!」


 東條さんは、とても嬉しそうだった。



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