美女の悪癖
桐島衣都
その視線すら独り占め
その視線すら独り占め
可愛らしい笑顔の奥に隠そうとする嫉妬。
たけど溢れてしまっている。
それを鼻で笑うと高濃度のウイスキーを喉に押し込んだ
「ニビさん。そんなに飲んだら明日二日酔いになっちゃいますよー」
「ヘーキよ。だいじょーぶ」
「そう言ってこの間俺の家泊まったの誰ですかー?」
ちょっと酔っただけでキャストが部屋に泊めてくれる。
そのことを突きつけられた女はさらに目を怒らせちゃって私を睨みつけた。
「……へー。こんなに大人っぽい人でも酔ってお持ち帰りされることなんてあるんですねぇー」
「あはは。それは勘違いルリちゃん。俺らみたいな奴らがニビさんに手出せないよー」
「えぇー?」
「ニビさんに手出したら多方面からお叱りが来るからねー。こうやって店に来てくれるだけでも結構俺らヤベーの」
「あら、じゃあ来ない方が良かった?」
「イヤイヤイヤ。是非来てくださーい。ここにいるのはニビさん大好きな奴らですからー」
気取った髪型じゃないホスト。
ちょっと変わったホストクラブ。
普段街中で見そうな、雑誌に出てきそうなイケメンばかりを集め、スーツではなく普段着を着たままの接客。
ホストクラブ【ラミー】
この街で知らぬ者はいない、完全紹介制の高級ホストクラブである。
「…さて、今日は帰ろうかしら」
「ニビさんもう帰っちゃうのー」
「今日は一番嫉妬深い奴の家に泊まりなの。あんまり遅くなると明日の朝が辛い」
「………ニビさん。ちょっと遅かったみたいですよー」
「あー……嫉妬深い男ってうちの店長ですかー」
クレジットカードを店の若い子に渡したタイミングで嫉妬深く愛してくれる男が現れた。
細身で、筋肉質で、外国人のような綺麗な顔立ちの男。
この店のオーナーのオリベである。
「俺のカード使えって言ったよな」
「男に貢がれることは趣味じゃないの」
「それに俺の店に来んな。俺ら以外の男誑かしてんじゃねえよ」
「彼等はそれが仕事でしょう?それにここの子たちは素直でイイコよ。あなたと違って、ね」
「………どうでもいい。行くぞ」
強引に、だけど私に気を使いながら私の手を引くオリベ。
その姿にお嬢ちゃんは目を点にしたあと、やっぱり目を怒らせた。
この店が有名ということはこのオーナーも有名。
容姿端麗で経営の才能がある、となればそこらの女は放っておかないもの。
だけどこの男は私のもの。
あなたみたいなお嬢ちゃんには役不足。
「ルリちゃん、だったかしら」
「え、……は、い」
「今日は楽しかったわ。また一緒に飲みましょうね?」
「………」
楽しいはずなんてない酒会。
だけど大人の女を見せつけるようにオリベを引き連れて帰ってくる。
………しばらく楽しませてね、ルリちゃん。
あなたみたいなお嬢ちゃんは私の店の【コレクション】にはいない存在。
…いい【商品】になりそうね。
・・・・
「あの女、なんだ」
「ただのお嬢ちゃん。金があれば愛がもらえると思ってる馬鹿な子」
「【コレクション】に入れるつもりか」
「えぇ。ああいう天然気取りの女を好むクズも世の中にはいるの」
疲れて動けない体。
だけど気持ちの良い余韻。
だらしなくベットに腰掛けながら飲むワインと、私を求めてやまないオリベ。
手の届くところに愛してくれる人がいるって、…嗚呼、幸せだわ。
「あの女、俺の店の会員だったか?」
「いいえ。私が招待したの」
「なぜ」
「ご友人と店の前で騒いでいたのよ。あなたの店の品が落ちると思って仕方なく」
「……面白がるなよ」
「あの時の彼女たちはものすごく愉快だった。自分が中心の考え方。傲慢ね」
思い出すだけで笑みが出る。
きっと小さい頃から褒められて育ったのだろう。
質の良い服、よく手入れされた爪。
どれだけ私を睨んでも崩れない化粧に、高級な宝飾品。
でもね、お嬢ちゃん。
男の飾り方をあなたは知らないみたい。
容姿がいいからってそれだけで満足させちゃダメ。
侍らせて、囲まれて、それで喜ぶあなたにオリベの店は似合ってなかった。
男はただのアクセサリーじゃない。
接し方を間違えれば泥水にだってなってしまう。
だいたい、キャストだって生きてるの。
自分のありのままの感情を、欲を出させた方が輝けるに決まっているでしょう?
無理に笑わせるよりね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます