第26話 信用戦争、終結!!
どぉんッ!!どどんどおぉぉおぉんッッ!!
巨大な爆発が森を包み込んで数分が経過。
爆風で後ろへかなり飛ばされ、気を失ってはいたが、ジークフリートの死亡判定は出なかった。
その証拠に、吹っ飛ばされた時に負ったであろう傷が残っていた。
だが三人の姿が見つからない。
ボロボロの体に鞭打って立ち上がる。
「痛ッ」
左腕に突き刺すような痛みが響く。
折れてはないしマーリンの魔術を解けば怪我も治るが、利き腕が痛むというのは少々焦りが出る。
だがそれより優先すべきは三人の発見だ。
「ランスロット団長!バルムンク!アイシェンくん!」
声は森の中を木霊する。
ジークフリートは胸いっぱいに息を吸い込み、もう一度叫んだ。
「ランスロット団長!バルムンク!アイシェンくんっ!!」
「あ、ジーク!」
ばっ、と声が聞こえた方を振り向く。
そこには霧がひとかたまりになって充満していたが、すぐに収縮し、ナイフを持ったアイシェンが出てきた。
すると遠くに吹き飛ばされていたであろうランスロットもその場にかけてくる。その手にはバルムンクも握られていた。
「いやぁ焦った。俺は身体を霧にして、ランスロットさんは身体に水をまとって防御して、バルムンクは爆発と同時に剣に戻って身を守ったんだ」
「そう、だったんだ」
「でも想像以上に爆発が強かったし広かったから、霧ごと上空に吹き飛ばされたよ。本当、サン先生も加減がわからないヒトだよな」
ジークフリートはアイシェンに抱きついた。
当の本人は突然のことに困惑していたが、自分の胸の中で泣きじゃくるジークフリートを見て思わず笑みがこぼれ出る。
「本当に……死んじゃったんじゃないかと……おっ、思っで……!!」
「悪かった、心配かけちゃったか」
「うぅん、私が最初に思いついたことだし、でも、まさか死亡判定が出たあとに使うことになるとは思わなくて……そうだ、あの女はどうなったのよ!?」
アイシェンはランスロットに視線を送る。
空気を読んでこの場を離れようとしていたランスロットだったが、その足を一度止めた。
「さぁ……アタシもまさかここまで高威力の爆弾が仕掛けられてるとは思ってなかったから。死んだと思いたいけど、あの女の遺体がないからそれはないわ。ただ、無事だったとも思えない。だからきっと逃げたのね」
「そうか……くそっ」
アイシェンは心底悔しそうに拳を握る。
殺したかったわけではないだろう。彼の目的はあくまでPOWという組織を潰すこと。
出来ることならば、捕らえて情報を聞き出したかったはずだ。
すると後方から、一人の男性の声が聞こえる。
ブリタニア・コロセウム会場で、信用戦争を観戦していたマーリンだ。
「どうもどうも皆の衆、まずはお疲れ様。今回の信用戦争はアイシェン君達のチームの勝利で決着がついた。明日改めてブリタニア・コロセウムの終了式と、アイシェン君の円卓騎士団長就任式をするから、今日はもう帰って休もうね」
マーリンは右手をジークフリートに向け、彼の手の甲に刻まれた魔法陣を輝かせ、彼女の傷を治した。
この現象にアイシェンは困惑したが、ジークフリートもランスロットも何も言わない。加えて、今はそんなことを聞ける空気じゃないし何より全員疲れている。
だがランスロットは異を唱える。
「ちょっと待ちなさいクズマーリン。アタシは別に、アイシェンちゃん達に殺されたわけじゃないわよ」
マーリンが「クズ……」と軽くショックを受けていたが、ランスロットは話を続ける。
「アタシの魔術が解かれた原因はあの女に首を切り落とされたこと。彼らの作戦にあった爆弾には気付いてたから避けることも出来たわ。アタシは彼らに勝っても負けてもいない。なのに終了?バカ言わないで頂戴!!」
「バカ……こほん、まぁまぁ落ち着こう」
ほんの一言だけだが、マーリンのその一言は鶴のようにランスロットを黙らせた。
「まず、最初のランスロット君の意見にあった、殺したのはマウスという乱入者だった。でも、どういうわけかアーサーはそれを予知していた」
「……予知?」
「そ、戦争の途中、アーサーとボクとベディエールの三人で賭けをしたんだ。どっちが勝つかってね。ボクはアイシェン君の勝利に、ベディエールは円卓の勝利に賭けた。だがアーサーは、そのどちらにも賭けていないんだ」
「賭けてない?」
アイシェンは理解が出来なかった。
いつその賭けを始めたのかはわからないが、少なくとも2つの陣営が勝利を賭けて争っていることに変わりはない。
ならばアイシェンか円卓騎士団長のどちらかに賭けないと成立しないはずだ。
「厳密に言えば賭けた。だがそれも、『第三者の参加によってめちゃくちゃになってからアイシェン君の陣営が勝つ』というものだった。彼女との付き合いはそれこそ何百年ってなるけど、今でもボクは彼女の考えが読めない」
ランスロットは顎に手を当てて考え始める。アイシェンも同じだった。
果たしてアーサーはPOWの乱入者が来ることを知っていたのか。
それともマーリンにもわからない天性の勘故なのか。
もしアーサーがPOWが乱入することを知っていたら、彼女はPOWの仲間なのか。そうだとしたら、アイシェンはブリタニアに手を貸すことは出来ない。
「アイシェンくん」
するとアイシェンの考えを見透かしていたかのように、背後からジークフリートが声をかける。
「安心して、少なくともアーサーがPOWの一員とは考えられない。何らかの形で関わってはいると思うけど、奴らの仲間じゃない。じゃないと、銀のナイフがランベスとロンドンで暴れていた理由がわからない」
「……そうだと良いけど」
「あーあー、まぁ確かに、ブリタニアはPOWに加担してはいない。なにせ、さっきのさっきまであいつら、キャメロット王都でテロを起こしていたんだから」
三人は目を見開いて「えっ!?」と驚愕する。
「あぁ心配しないで。そいつらはベディとボク、アーサーの三人で撃退したから。ま、観客たちのパニックを落ち着かせるのはかなり手間取ったけど」
「あ、そう……」
ランスロットはホッと息を吐く。
「話を戻そう。乱入者が来るということはアーサーが予知していたから、アクシデントで片付けさせてもらうよ。全く、ボクの年収持ってかれた」
「そう、ならアタシから文句は……ちょっとまてあーた今なんつった?」
「ま、話はこれでおーわり。今日はもう帰ろう。もうみんな疲れちゃったんだからね」
言われてアイシェンは、少しだけクラっと目眩を感じた。
怪我は治っているが、疲労は取れていないようだ。
「折角だから、ボクが送ってあげよう。アイシェン君、ジークフリート君、僕の前に立って」
「待ってくれ、サン先生とファフニールは――」
「二人とも、とっくに帰ってるよ。同じところに送ってあげるから安心して。じゃ、また明日!!」
「あ、ちょ!!」
アイシェンとジークフリートの周囲がキラリと光る。
するとあっという間に、二人は別の場所へ移動した。
有無を言わせず無理やり移動させたマーリンにアイシェンは、奇妙な違和感を感じ取った。
「まだ聞けてないことあったのに……」
***
「随分いきなり返すのね。あーたはお喋りが好きだと思ってたけど」
「……ちょっとね」
「彼には聞かれたく話でもあったのかしら?そういえば聞き忘れてたんだけど、アタシは結局彼らに勝っても負けてもいない。なのに、どうして」
「決まってるだろう。仮に乱入者がいなかったとしても、終わらせるつもりだったんだよ」
「どうして?」
「ジークフリート君の魔術は解けていなかったが、君ならあの程度、簡単に倒せる。だが他に生き残っている人物がいた」
「それは誰?」
「サン。アイシェン君の武術や作法の師匠を務めるもう一人のシントウ」
「まさか、アタシがその人に勝てないと?」
「うん勝てない。というかむしろ、アイシェン君を円卓に誘ったのもあの女がいたからなんだよ?」
ランスロットは片眉を下げた。
「あの女に何かあるのかしら?」
「……あぁ、君達はまだブリタニアにいたからね」
「どういうこと?ちょっと、教えなさいよ!このっ!」
「教えませーん!何でもかんでも教えてもらえると思わないことだね。うわ、ちょ、水鉄砲飛ばしてくるな、無駄に威力も上げるな、急所ばっかり狙ってくるな!!」
開始時刻午後一時。終了時刻午後三時五十七分。
およそ3時間に渡る信用戦争は終了した。
しかし、これはこれから始まる激動の物語の序章であることを、アイシェンはまだ知らない。
森の中では、本気で殺そうとするオカマから本気で逃げる男の声だけが響いていた。
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