第2話

 目を閉じていると、一瞬で浮遊感は消える。

 そのかわり周囲にガヤガヤと人の気配が沢山あるのに気がついた。

 周囲を見渡すとそこには、真っ白の空間を埋め尽くすように人、人、人の群れが大量にあった。

 人種も多種多様で、普通の人間、エルフ、ドワーフ、獣人などなどファンタジー色の強い人種が多かった。

 だが、これらみんな中身は人間なのである。

 VFのシステムの1つに種族システムというものがある。

 人間族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、魔族の中から1つを選ぶのだ。決められない場合にランダムを選ぶとごくごく稀にレア種族というものがあったりもするのだが、基本は上記の5種族から選ぶことになっている。

 俺はどうせ大した運も持ち合わせていない為、無難に戦える人間族を選んでいた。

 すると、突然周囲が暗闇に包まれる。それと同時に何処からか遊園地やサーカスで流れる様な陽気な音楽が流れ始めた。

 ガヤガヤと騒がしい中一箇所に光が当てられる。

 そこにはピエロの姿をした小柄な人物が浮いていた。

 小柄な体型に似合わぬ大人と同じサイズの頭部は、真っ白に塗られ、その顔にはいやらしい笑みを浮かべている。

「初めまして、初めましてプライヤーの皆々様。ワテクシはマスターにより皆様へのご案内を賜った。ゲラリッカと申します。以後お見知り置きを」

 ゲラリッカと名乗ったピエロがペコリとお辞儀をすると、先程まで鳴っていた音楽が鳴り止んだ。

「今回ワテクシがご案内するのは…VFの正式サービス開始についてでございます」

 正式リリースという言葉にプレイヤー達は色めき立つ。

 当然俺もそんなプレイヤーの内の1人だった。

 そんなプレイヤー達を見たゲラリッカは咳払いをする。

「それでは正式サービスの発表を_っと、その前に」

 パチンとゲラリッカが指を弾くとプレイヤー達の身体が光に包まれる。

 俺の身体も光に包まれる。

「…なんでもない?なんだったんだ今の」

 周囲を見渡して妙な違和感を覚える。

 近くにいたプレイヤーの顔がどうも違って見えるのだ。

 周囲のプレイヤー達も徐々に気づいたのかお互いになにかを言い合っていた。

「賢い皆様はお気付きでしょうが、皆様のお顔は現実の物と同じ造形にさせて戴きました」

「ふざけんな!俺達のプライバシーはどうなるんだ!」

「ネットで顔バレとかふざけんなよ!」

 ゲラリッカの言葉にプレイヤー達は憤慨し、口々に文句を言う。

 そんなプレイヤー達の文句を聞いてゲラリッカは顔を歪ませながら笑った。

「良いですねえ!その感情も表情も!実にマスターが喜びそうですよォ!」

 両手を広げて天を仰ぎながら、ゲラリッカは叫ぶ。

「ああ、言い忘れていました。これは皆様にとってゲームでは有りません」

 ゲラリッカは思い出したかの様にそう言った。

 その時俺の脳内にある考えが浮かんだ。

 デスゲーム、VRMMOの世界に閉じ込められるという作品はいくつもえり、俺も読んだことがある。

 すると1人のプレイヤーが叫んだ。

「なんだそれ!デスゲームってやつか!?ふざけんな!」

「デスゲーム?まあ、そんな物だと考えてもらって結構ですよ。我々にとってはゲームに違いはありませんから」

 心底鬱陶しいといった様子で首を振るゲラリッカ。

 それでも収まらないプレイヤー達の質問に対してゲラリッカが取った行動は_


 パンッ!


 柏手を打つ、たったそれだけ、たったそれだけでプレイヤー達は静まり返る。

 そんなプレイヤー達を見てゲラリッカは満足そうに頷くとこう言った。

「ようやく静かになりましたね。説明を始めます。皆様の行き先は…異世界にございます」

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