お母さんへのラブレター
弓 ゆみ太
お母さんへのラブレター
〰お母さんへ〰
ステージⅣ
その告知について初めて連絡を受けた時、どうせ大した用じゃないだろうと
決めつけて、「何!何回も何回も掛けてきて!忙しいんだからメールにして!」
とぶっきらぼうな態度を取ってしまったことを、今になってはとても後悔していま
す。あなたは「ごめん。忙しいのに、でも聞いて、お母さん調子が悪くなってしま
ってね」と、とてもオロオロした声で不安そうに話してくれましたね
今でもあの時の態度は、自分でで自分を殴りつけて、取り消させたいくらいの
後悔として記憶に焼き付いています
こんなに不器用に育ってしまった俺だから、もう直接はあなたに言うことはできない
けれど、自分の中で整理したいという気持ちと、誰かに聞いて欲しいという気持ち
と、そして少しでも伝わって欲しい気持ちを込めて
これは俺が記す、届けない『お母さんへのラブレター』なんだと思う
ウチは家族みんな性格もばらばらで、決して仲の良い家族ではなかったから、
俺は高校を卒業してさっさと一人暮らしして、悠々自適の自堕落な生活をしてた
けど、今二人の子供の父親になって、二人も大学に行かせて、しかも一人暮らし
させることの大変さが分かり、どれだけ自分が愛されていたかが分かりました
だけど、俺も同じことを二人の子にしてやれるのか、不安で不安で仕方がないよ
お母さん
今までいっぱいいっぱい迷惑ばかりかけて困らせたことが数えきれないくらい
あるけど、とりあえず二つ謝りたいことがあるんだ
1つは、つまらないことで大ゲンカになった時、「俺にばっかり『止めとけ、
止めとけ』って言う前に、自分が老後の事を考えて、旅行に行ったりしてお金
使うの止めとけよ!」とか、心無い事を言ってしまって本当にごめん
言い返したかっただけで、本心じゃなかったんだ
もう1つは、俺の職場にお母さんと同い年の人がいて、専業主婦のお母さんより
あの人の方がスゴイって言って、傷つけてしまってごめんなさい
お母さんはモチベーションモンスターだし、母方のおじいちゃんも叔父さんも
社長をやってた人だから、お母さんだって働いてたら絶対社長やってたと思うよ
今では俺も双子の父親。二人が生まれたときあなたが心から喜んでいるのが分かって
本当に嬉しかった。生まれるのが間にあって本当に良かった
少しは恩返しになったかな?
俺も子供ができたから、代わってあげたいなんて簡単に言えないけど、
健康のことばかりいつも気にしてきたあなたが、65歳という若さで手の施し様の
無い状態なんて可哀想すぎるから、俺の寿命を5年くらい分けてあげたいって
本気で思う
今、打つ手が無くて、薬も飲むものが無くて、肋骨が折れるくらいお腹の腫瘍
大きくなってぐちゃぐちゃで、少しの延命のためにストマとポートの造設手術を
受けた状態の中で、余命は数カ月なのか数週間なのかも分からない恐怖、
92歳のおじいちゃんを残して先に逝かなければならない不安や、双子の成長を
見れない無念さ
そんな気持ち俺には全然想像もできないよ
今はただ、奇跡が起きて病気が治ることと、少しでも苦しまず長生きができることを
心の底から神様に祈ってるよ
今までありがとうな お母さん
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