第1860話 七耶咫の同胞に対する叱責
ソフィ達が集落の中でコウエンの同志達から妖魔召士達の話を聞いている頃、鬼人族達の集落の門から少し離れた森の中で待機している王琳は、自分の配下である妖狐達から話を聞いているところであった。
「何故俺の命令通りに人間達を
「も、申し訳ありません! さ、最初は妾達も麓まで案内していたのですが、人間達が急に中腹まで戻らせて欲しいと口にしたものですから……」
「そ、そうなんです!
少しばかり
これはあくまで王琳が人間達を気に入っているという事を知っているからこそ、彼女達もまた人間の熱意に心を動かされたのだと、自分達も主と同じく人間というものを気に入っているだというアピールを行ったのである。その理由は語るまでもなく、彼女達の主である『王琳』に気に入られて
――しかし、その言葉を聴いた王琳が何かを言う前に、隣に立っていた七耶咫が口を開くのだった。
「貴方達は何を言っているの? 王琳様の命令が何よりも優先されるというのは我々妖狐の常識でしょう? 貴方達の勝手な行動で、意図せず何らかの不都合が生じて人間達を死なせていたら貴方達はどう責任を取っていたのかしら? 人間達を山の麓へ無事に送り届けろと王琳様は仰ったのでしょう? では、貴方達はそれを優先するべきじゃなかったの? 何を自分勝手な理由で命令に背いているの? 貴方達は
「ひっ、ひぃっ!!」
「うっ、ぁっ……!」
妖狐の七耶咫はそう言うと恐ろしく冷酷な目で六阿狐達を睨みつけて、自身の周囲に『青』を纏わせ始める。
すると六阿狐は目から涙を浮かべ始めて温かいものが股から滴り流れていき、五立楡は喉からせり上がってくる物を感じながら少しずつ白目を剥き始めていく。
決して彼女達は王琳に逆らおうとする気持ちでやったのではなく、この目の前に居る七耶咫のように自分達も側近にしてもらい、今までよりもほんの少しだけでもいいから、傍で可愛がって欲しいという願望を持っただけなのである。
しかし彼女達がなりたいと考えていた『側近』と、実際の『側近』である七耶咫の考え方は
七耶咫や耶王美のような本当の王琳の『側近』達は、いつでも自分達が主を守り、盾となる事を考えている。その先に死が待っていようとも受け入れる覚悟を持っている者達なのである。
そんな本当の『側近』である七耶咫からしてみれば、六阿狐達は人間達の情に
もしこれが王琳という妖狐の命を狙っての策略であった場合、彼女達は人間達に騙されて利用された挙句に主を危険に晒してしまうところだったのだ。
実際にはリクト達はそんな事を考えていたわけでもなく、もしこれが実際に罠であったとしても王琳という妖狐がやられる事はなかっただろう。しかしそう言う話をしているのではなく、王琳という崇拝する主の部下としての覚悟が足りていないと七耶咫は激昂しているのであった。
実際に七耶咫はこの場で六阿狐達を殺すつもりはなく、単なる脅しを行ったに過ぎないが、それでも『思い』と『殺意』は本物であった為に、その殺意をまともに浴びた六阿狐たちは正常ではいられなくなったというわけである。
「
「ははっ!」
王琳に声を掛けられた七耶咫が頭を下げながらオーラを消すと、その場に立ちこめていた『殺意』も雲散していくのだった。
その瞬間に六阿狐は崩れ落ちながら地面に手をつき、全力疾走を行った後のように荒く息を吐いた。
五立楡はもう半分意識が飛び始めていた為、王琳がゆっくりと五立楡に近づいて軽く魔力を込めた右手で頬辺りを撫でながら触診を始めるのだった。
「痙攣をする様子もないし、
「も、申し訳ありません!」
「気にするな、面をあげよ」
王琳は五立楡の容態を診終えると、小さく溜息を吐いて七耶咫の頭を上げさせるのだった。
「まぁ、色々と言いたい事はあるが、お前達が俺を慕っているという事は分かっている。ただ、七耶咫の言う通りにその気持ちを利用しようとする者達が少なからずいるという事は覚えておけ。気を付けるようにな?」
「は、はい……、本当に申し訳ありませんでした」
返事をする事が出来ない五立楡の代わりに、涙を流しながら六阿狐が謝罪を始める。
王琳はそんな六阿狐の元にしゃがんで寄り添うと、その頭を優しく撫でるのだった。
……
……
……
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