第1782話 厄介な存在との遭遇

「なるほど。どうやらここまで来たらもう疑いようがないようだ……」


 人間達が定めた妖魔山の中にある『禁止区域』の内側にある森の中、その洞穴の場所に近づいたシギンは、少し前までであればここまで大きく感じる事がなかった『存在』の『魔力』を感知する事が明確に出来てしまうのだった。


 それでもまだシギン程の『魔』の理解者でようやく発見が出来る程の僅かなものであり、中に居る『存在』は封印がすでに解けている事を外に漏らさぬように、上手く隠蔽を施しているようである。


 この至近距離からでも『結界』の隠蔽工作を貫いて、中に居る『存在』に気づける妖魔召士が他に居るとしたならば、それは妖魔山の別の『脅威』であった『真鵺しんぬえ』を『式』にして見せた『サイヨウ』くらいのものだろう。


 それもシギンであれば間違いないと断言出来るだけで、サイヨウ程の最上位妖魔召士であっても、疑念を抱く程の微弱なものなのである。


「もしかすると山の頂で神斗こうとと一悶着起こしたせいで、奴が俺を探しに来る道中でこの漏れ出ている『魔力』に気づいたのかと思ったが、そういうわけでもないようだ……。そもそもそんな簡単に見つけられる程の阻害結界ではなかった筈だ。俺が何かをする前からすでに施されている『結界』に気づけたとしたら、それもやはり『神斗』くらいのものだが、奴は所詮『透過』技法だけが秀でているに過ぎず、他の『魔』の概念に至っては俺から言わせれば並以下でしかない。更に俺が認識阻害を強めた以上は、今の神斗ほどの『魔』の理解力では、最低でもあと数百年は気付けなかっただろうしな」


 そう断言するシギンではあるが、神斗は『ノックス』の世界では一番の『魔』の理解者と呼べるものであり、他の世界であっても『フルーフ』や『エルシス』にまでは及ばないまでも、まず間違いなく大賢者『ミラ』よりも『魔』の概念到達度はであろう。


 更に『透過』に絞って考えれば、ミラどころか『』や『』に比肩、若しくは上回っていてもおかしくはない。


 だが、それはあくまで現時点での到達度である為、今後も『魔』の主軸性を『透過』技法に重きを置いて研鑽を続けて行けるものが最終的には上に立つ事だろう。


 結局のところは互いに長寿な生物である以上は、早く競合する相手を見つける事が重要であり、目標を掲げる事こそが継続の意欲を高めて到達目標を押し上げる事に繋がるだろう。


 しかし『魔』の概念というものは本当に広く深いものである為、それだけ『透過』技法の理解を深めていたとしても、こうしてシギンのように『感知能力』に関しては影響が少ない為に、これまでのように封印されている『存在』に気づく事もなく、また今後も当面は気付けなかった事だろう。


 それこそが『シギン』が山の頂で本人に伝えた事でもあり、あらゆる『魔』の概念に目を向けて満遍なく研鑽を積むことが『魔』の理解を深めるのには必要な事なのであった。


「前回は直接にこの『存在』と直面したわけではなく、また封印の『呪符』の強さからも戦う事を避けて認識阻害に重点をおいて問題を先延ばしにしたわけだが、その封印が破られた以上はこのままにはしておけまいな……」


 妖魔召士シギンは自分が生きている間には、結局は戦う可能性は限りなく低いだろうと決めつけていたが、それがまさか自分がまともに動ける内に、その考えを撤回をせざるを得ない状況に追い込まれるとは思わなかったようである。


「出来れば戦闘が本格化する前に、強引にでも別の空間へと移動させられたらよいのだがな……。運が悪く『神斗』が俺を探しているこの状況下では、流石に奴に存在を隠し通すのは難しいだろう。この『存在』と奴がどのような関係を持っていたのか、せめてそれをもう少し観察する事が出来ていたならば、決断を先送りに出来たかもしれぬのだが……」


 洞穴の入り口付近にまで『結界』を施しながら近づいて見せたシギンはそう独り言ちると、意を決して禍々しい『魔力』がこっそりと漏れ出ているその洞穴の中へと入っていくのであった。

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