　鬼人族の集落に居る玉稿（ぎょっこう）に報告を行いに戻るという事で話が纏まった後、ソフィは死屍累々となって倒れている天狗達に視線を向けていた。

　……

　これまでも大魔王ソフィの仲間や友人に手を出してきた者は、その数や種族に拘らずに関わっている全ての者達を完全に彼の手によって根絶やしにされて世界から消滅させられてきた。

　そしてそれはこの世界であっても同様の結果を招き、強者の部類に入る『三大妖魔』の筆頭種族であった『天狗族』もその全てが種族ごと絶滅させられてしまった。

　この天狗族の縄張りに来た直後であればまだ、直ぐに帝楽智たちが自分達の行った事を認めてソフィに謝罪を行えば、このような凄惨な最期を迎える事はなかったかもしれない。

　しかし天狗達は謝罪を行うどころか、自分達と敵対する鬼人族や、人間と見誤ったソフィに刃向かうならば容赦はせぬとばかりに攻撃を仕掛けてしまった。

　自分達が『妖魔山』の中腹付近までの管理を妖魔神に任されているという事実も相まって、少しばかり気が大きくなって、他種族に対しても居丈高な態度に出てしまっていたのだろう。

　どのような世界にも『上』には『上』が居るものであるが、決して逆らってはいけない『存在』である大魔王ソフィに正面きって挑んでしまった結果が、種族の絶滅という結果を招いてしまった。

　そして本来であれば、このような結果を受けて山の本当の管理者である『妖魔神』が、事の沈静化を行う為に異物な存在であるソフィ達を処理しようと動き出すところではあったが、その『妖魔神』である神斗は、その天狗族と鬼人族の抗争を九尾に任せて後回しにする事を選び、彼はいま影で起きているであろう最も大きな出来事を予見して、その原因を探るべく『悟獄丸』の死体を探し始めて、山の中を探っている様子であった。

　……

「流石におかしい……」

　妖魔山の至る所を歩き回り、常に『魔力感知』を行いながら時には空からも探しているというのに、目的の存在である同じ『妖魔神』である『悟獄丸（ごごくまる）』の姿が見つけられない事で『神斗（こうと）』は立ち止まって険しい表情を浮かべながらそう独り言ちるのだった。

　神斗は当初王琳に告げたように、山の頂で戦った人間を探そうとしたが、流石に『透過（とうか）』技法一つとっても『空間』干渉領域に到達している『魔』の理解者であるあの『存在』が本気で『結界』を張れば、流石に『魔力』から居場所を探る事は出来ないだろうと考えた。

　そして途中からイダラマを追いかけたであろう『悟獄丸』から居場所を探ろうと考えて、山の頂から王琳に任せている中腹付近までの全域を練り歩いていた。

　――しかしいくら探しても死体どころか『魔力』の残滓すら見当たらなかったのである。

「これはもう間違いないか……？　い、いやしかし、そんなまさか……？」

　流石にこれだけ探しても見つからない以上は、すでにイダラマを追っていった悟獄丸は『魔』の理解者の手によって何らかの技法を用いられて、死体ごと別の空間へと運び出されてしまったとみて間違いないだろう。

　しかしそれにしてもあの『悟獄丸』を相手に、こんな短期間で勝負をつけられてしまったのだろうか？

　実際に『魔』を用いた戦闘を行った神斗は、あの人間が生半可な実力者ではないことは理解は出来ている。

　だが、それでも『妖魔神』である『悟獄丸』を相手にこんな一方的に、それもこんな短期間で勝負をつけられるとは、神斗には到底思えなかったのであった。

　人間達が定めている妖魔達の強さを示すモノに『妖魔ランク』というものがあるが、その１から１０段階まである中でも間違いなく、神斗と悟獄丸は『１０』である事は間違いない。

　それもその『１０』とされる枠組みのピンからキリまである中でも、まず間違いなくピン側である最高位であると神斗は考えている。

　もし、今の『魔』の探求者となった神斗でさえ、直接手を合わせる事となれば悟獄丸と勝負をつけるには半日は戦い続ける事を覚悟しなければならないだろう。

　そもそも『魔』の概念を攻撃手法に組み合わせる事に対して、根本から理詰めを行う神斗とは違い、純粋に『透過』を含めた『魔』の概念を感覚的に繰り出して、相手をグイグイと追い詰める悟獄丸のような鬼人は、神斗のようなタイプは相性が悪い筈なのである。

　受けられる攻撃や、受けられずに避けなくてはならない攻撃。その判断を瞬間的に行い、卓越した戦闘技術と戦闘に於ける嗅覚は、流石に神斗でも手を付けられない程であり、致命傷を負うような攻撃を避けるためには長時間の戦闘の中で神経をすり減らし続けて戦わなくてはならないような相手が、その『悟獄丸』という妖魔神なのである。

　それを少し山の頂で王琳と会話を行っていた程度の時間の中で、死体すら残さずにあっさりと勝負をつけたというのが、神斗には到底信じられなかった。

　もし現実に神斗が想像した事が行われたというのであれば、あの山の頂で戦った時の『魔』の理解者である人間は、あの時でさえ本気ではなかったという事になる。

　確かに『透過』という数多の『魔』の中にあるたった一つの技法を見ただけに過ぎず、実力その全てを目の当たりにしたわけではないが――。

　――もし、悟獄丸がこんなにもあっさりとやられるという事なのであれば、あの人間の本当の実力は、この『妖魔山』だけではなく、　『ノックス』という世界の歴史のこれまでの中で、他の追随を許さない程の『最強の存在』で間違いないだろう。

「もし本当に俺の想像通りだとしたら、一体どうやってそんな力を短命な人間が身につけられたというのだ？」

　……