第1768話 絶対者に対して抱く、各々の感情
妖魔山の中腹ではあれだけ多くの『天狗族』が一挙に集まっていたというのに、すでにもうこの場に天狗は『天魔』である『
そしてその絶滅しかけの状況を作り出した大魔王は、更なる凶悪な『魔法』を生み出して、この場にいつでも発射可能な『
この『魔法』こそが多くの天狗達を一瞬の内に葬ってしまった要因であり、殺傷能力はもはや疑いようもなく、この場に残されている天狗族の『帝楽智』と『華親』はこの『
「さて、待たせたな……」
ソフィがたった一言のその言葉を告げた瞬間に、呆然と『
「ま、待て! 待ってくれ!! も、もう十分じゃろう!? 儂らの同胞がお主らの仲間に手を出した事は悪い事だとは思うが、そ、それを言うのであれば、お主の方こそやっていることは同胞がやった事と同じ事ではないか!」
天狗族の副首領である『華親』は、何とか自分達に向けて待機状態で設置されている『
「そう思うのであれば、今すぐに我を殺せばよい」
「えっ?」
次の瞬間――。
待機状態にあったソフィの『
「かっ……、かふっ――!」
口から大量の血を吐き出した後、華親の目がぐるりと白目を剥いてその場に崩れ落ちていった。
「き、貴様……っ!!」
自分の右腕であった『華親』が絶命する瞬間を目の当たりにした『天魔』の『帝楽智』は、恐怖の感情を克服したかの如く、怨嗟を吐きながら大魔王ソフィを睨みつけるのだった。
――だが、その『帝楽智』が本当の恐怖心を抱く事になるのはこの後であった。
「我が憎いか? 同胞を殺されて憎いと思うのであれば、今すぐに我を止める為に殺しにくるがよい。さもなくば次は……、貴様を殺す」
そうソフィが言葉を発した瞬間、悍ましい殺意が大魔王ソフィから帝楽智に放たれる――。
ブワリと感じた事のない本当の『殺意』というモノを直接大魔王ソフィから放たれた事で、その『殺意』を一身に浴びた天狗族の魔王である『天魔』の『帝楽智』は、背中がぞわりと鳥肌が立っていくのを感じ取った。
何を言っても自分が死ぬ未来は変わる事はない。いくら華親のように目の前の『存在』に正論めいた言葉をぶつけたところで意味はない。
――これは『
決して逆らってはいけない『絶対者』に、喧嘩を売ってしまっただけの話。
いったい自分達は何を勘違いしていたのだろうか――?
この『妖魔山』で多くの種族の妖魔達に『三大妖魔』と呼ばれて持て囃されて、この『妖魔山』の神である『神斗』や『悟獄丸』に山の中腹の管理を認められた事で、自分達『天狗族』は何でも思い通りになると気が大きくなって驕ってしまっていた。
もはやイダラマという人間が用いた『禁術』で自分が『式』にされた時点で気づくべきであった。
自分達は何でも思い通りに出来る『最強の存在』ではなく、あくまで『妖魔神』に認められて山の管理を任されていたに過ぎない。
所詮、自分達が為してきた事で得られた地位というものは、今回のように何か一つのきっかけ次第で脆くも崩れ去るような儚いモノであったに過ぎなかったのである。
本当の『絶対者』とは、たった一人で全てを思い通りに動かせる『存在』の事をいう。
その言葉通りにたった一人で『天狗族』を滅ぼそうと恐ろしい『殺意』を放ちながら、冷酷な目を自分に向けている『絶対者』のように――。
……
……
……
「な、何て恐ろしい『
妖魔退魔師組織の副総長であるミスズは、これまでに感じた事のない恐怖心のせいで、これまで決して口にしたことがない弱気な言葉が漏れてしまうのであった。
そしてそれはミスズだけではなく、同じく妖魔退魔師組織の『組長格』である『ヒノエ』に『スオウ』に『キョウカ』も同様であり、誰もミスズの言葉に何かを言う事も出来ずにだんまりを貫きながら、この場の『絶対者』となった大魔王に視線を送り続ける事しか出来なかった。
――しかし、この場に居る者達の中で、とある『三人』の存在だけは違っていた。
この場でまだ『自分』というモノをしっかりと持った上で、この『絶対者』である『大魔王』と戦えばどちらが生き残るだろうかと考えられていた者は、ミスズと同じ妖魔退魔師組織に属する総長である『シゲン』。
そして同様にこの場で『大魔王ソフィ』という『化け物』をしっかりと理解している大魔王ヌーは、多くの者が抱いている『恐怖心』ではなく、絶対に超えなくてはいけない壁と認識した上で『厄介な存在』と理解しながらも、明確に『倒してやる』と決意を新たにしていた。
最後にヌーと同様に鬼人族の集落の中で決意を新たに、強くなって充実感と満足感を得ようと考えた『イツキ』は、この大魔王ソフィの『殺意』で満ちる空間の中、そのヒシヒシと伝わってくる『殺意』から逃れるのではなく、自ら身を投じて感受するかのように腹に力を入れて必死にこの状況を目に焼き付けていた。
その湧いてくる意欲の高まりを評価する意味合いでいえば、今こんな絶望的な空間の中では、その人間である筈の『イツキ』が一番だったかもしれなかった――。
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