第1765話 絶望の先に待ち受けているのは、更なる絶望

 大魔王ソフィの手によってこの妖魔山で隆盛りゅうせいを極めた『天狗族』の大半が死に至り、この場に残された最後の『天狗族』である『華親かしん』と『帝楽智ていらくち』は信じられないとばかりに、この場を支配する化け物に視線を送り続けていた。


「天魔様……。わ、我々はもう終わりのようですな」


「ば、馬鹿な事を申すな! ま、まだだ……、まだ終わってはおらぬ! この妾にまだお主も残っておるではないかっ! 妾達が居る限りはまだ『天狗族』はやり直せるのだ!!」 


 全力で放った『魔力波』を放ち、それすらもあっさりと跳ね返された『帝楽智』だが、統率者としての意地か、それとも現実をまだ理解しきれていないのか、配下の『華親』の言葉を真っ向から否定して、目の前に居る化け物と対峙する姿勢を保ち続けるのであった。


「やれやれ……。こんな事になるのであれば『鬼人族』など最初から放っておけばよかった……。いや、そもそもがあの人間に近寄らなければよかったですな?」


「何を言うかっ! 妾の大事な片腕であった『座汀虚ざていこ』がやられたのじゃぞ!? あの場面に出くわせば、再び妾は同じ行動を取るであろう……!」


 あの人間とはの事であり、こんな風に種族の絶滅の危機を迎えるのであれば、イダラマに近寄らなければよかったと口にする華親だったが、それを聞いた帝楽智は直ぐに反論してみせた。


「そ、そうでしたな……。そんな貴方が我々の主であったからこそ、貴方に従ってこられたのです。それでは貴方の為に、この『』もまた本気となりましょう!」


 そう言った華親の『青』は更に変貌を遂げていき、 『天色』から『瑠璃るり』へと昇華し終える。


 妖魔退魔師組織の組長格たちや、妖魔召士組織のゲンロクでさえ苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる程に強さを見せる華親は、その絶大なる『魔力』を纏わせながら大魔王ソフィに襲い掛かっていった。


 ソフィは勢いよく迫ってくる華親に対して、先程の天狗達を相手にした時と同様にその場から全く動かずに視線だけを向けている。直接的な『魔力』を放つ攻撃、つまり『魔力波』が天狗族の主だった攻撃手法だとアタリはつけているソフィだが、これ程までの膨大な『魔力』を有する存在が、何の策もなく真正面から走って向かってくるが筈がないと考えていた。


(先程の天狗達と同じ攻撃手法か? だが、あの背後に居る『天魔』と呼ばれている天狗が動く様子もない。もしかするとこの世界にはまだ我達の知らぬ攻撃方法が存在していて、我が気付かぬ内に何かしらの攻撃準備を行っている最中の可能性もあるかもしれぬな……)


 ソフィは天狗族に対する怒りの感情を内包しつつも局面を第三者の視点から俯瞰するかの如く、冷静に『華親』だけではなく、『帝楽智』の方にも意識をしっかりと向けてあらゆる攻撃の可能性を考え始めている。


 これは大魔王ソフィの本質といえる部分が強く表に出てきている事の証左でもあり、現在のソフィが最も冷酷な判断を下せる中で最大限の力を発揮できるような精神状態であろう。


 言うなれば今のこの状況の大魔王ソフィが、一番敵に回すと厄介な状態なのかもしれなかった。


 そしてあらゆる対策を兼ねた大魔王の行動が開始されるのであった。


 ソフィの眼光が鋭く光ると、ソフィの視線の範囲内に映る全ての場所にとある『結界』が施された。


 ――それこそは、一部の大魔王達が死の結界と呼んでいるモノである『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』であった。


 そして『死の結界』である『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』をコンマ数秒で張り終えたソフィは、迫ってくる『華親』の動きを完全に封じようと次の行動を取り始める。


「さて、見事に打ち破ってみせるがいい……」


 ――こうして大魔王ソフィによる、恐ろしい同時攻撃が展開されるのだった。

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