第1761話 手に負えない化け物と、後悔という名の感情

(な、何じゃ、あの化け物じみた存在は!? た、確かに戦闘が始まってから奴の戦力値と魔力が大幅に上昇しておったのは、り、理解していたが、こ、攻撃の瞬間だけは、あ、あの『担臨たんりん』と『寿天じゅてん』に直接手を下す瞬間だけは、そ、それまでとは比較にもならぬ程に、こ、攻撃力が増しておった! こ、こやつは一体、な、何者なのだ!?)


 全天狗を束ねている『天魔』である『帝楽智ていらくち』だが、彼女が胸中で呟いた通り、この戦闘が始まってから急激にソフィの『戦力値』と『魔力値』がここに来た時とは比較にもならぬ程に上昇を果たしてはいたが、それでもその時の強さであれば『天従十二将てんじゅうじゅうにしょう』の内、最高幹部に位置する『世来二親せらいにしん』の『担臨』と『寿天』であれば、対等とはいわずともまだ何とか戦える程の差であった筈なのである。


 しかしその『担臨』と『寿天』の顔や首を刎ね飛ばす瞬間、その仕留める瞬間だけは明らかにに変わっていたのであった。


 天狗達に向けて『魔法』を放っていた時までは、まだ妖魔ランクでいえば『8』から『8.5』であり、それでも兆を上回るソフィの戦力値だったが、あくまでそれは基本値であって、彼の全力とは程遠かった。


 だが、その『担臨』と『寿天』を、彼のが顔を出して、更にその兆を超える妖魔ランク『8.5』をを示していた。


 今の彼は怒りという感情によって、何とか完全なる大魔王状態ではあっても理性を少しだけ残せている状態ではあるが、本質部分が見え隠れする今の『完全なる大魔王化』を果たしているソフィは、その彼の思惑一つであっさりと妖魔ランク『9』の範疇を軽々と上回ってしまうのであった。


 そして全天狗を束ねる『帝楽智』と、司令官として長きに渡って副首領の座についていた『華親』は、この化け物のような存在が、なのだという事をハッキリと理解していた。


 あれだけの数の天狗をたった一人で蹂躙し、もはや『天従十二将』は壊滅。残されたのは首領と副首領の天狗二体だけなのである。


 そうだというのに疲労どころか息切れ一つ見せず、それどころか『天魔』達を睨みつけて、更に殺意を膨れ上がらせ始めた化け物を見て、もう余力を残していないと誰が判断するであろうか。


 …………


(な、何だというのだ……! あ、あの化け物は一体、何だというのだ!?)


 先程まで呆けていた『華親』も、多くの同胞が謎の『魔』の概念によって命を絶たれた事に加えて、最高幹部であった『世来二親』の『担臨』と『寿天』の両名があっさりとやられてしまい、そう行ってみせた『化け物』の存在が、残されている自分達に視線を向けてきた事で、ようやく我に返るのだった。


 ――そして意識を取り戻した『華親』の目に、更に予想だにしない出来事が飛び込んでくるのだった。


「ふ、ふざけるなよ! ふ、吹き飛びやがれぇっ!」


 そして遂に『帝楽智』は、多くの魔力を費やし終えた『魔力波』をソフィに向けて放つのだった。


 本来であれば『担臨』と『寿天』の『世来二親』の協力を得ながら相手を無防備状態にさせた後に、準備を終えた『天魔』の一撃で葬り去るという手筈だったのだが、予定通りにはいかずにやられてしまった事で『帝楽智』が単身で放ち命中させざるを得なくなってしまった。


 しかしそれでも流石は『天魔』として全天狗を束ねる首領なだけはあり、世来二親の両者よりも高い『魔力』から放たれたその『魔力波』は、威力そのものに加えて速度も確かなもので、これだけの質量を伴った『魔力波』の速度であれば、あっさりと敵を呑み込んで葬り去る事も可能だと見る者に思わせる程であった。


 大魔王ソフィに向けて放たれた『帝楽智』の『魔力波』が勢いそのままにグングンと迫ってくるが、ソフィは回避行動を取る事を拒否するかの如くその場から一歩も動かない。



 そしてソフィはゆっくりと右手を迫りくる帝楽智の『魔力波』に向けると、そのまま自身もまた合わせるように帝楽智の『魔力波』に向けて『魔力波』を放ち返すのだった。


 突如としてドンッ! という発射音がソフィの手元から聴こえてきたかと思うと、次の瞬間には自ら放った『魔力波』が恐ろしい勢いで相手の『魔力波』によって呑み込まれて消え去り、そしてそのまま放った『魔力波』が帝楽智の元に帰ってくるかの如く、今度は大魔王ソフィの『魔力波』が帝楽智に向かってきてしまう。


「なっ……――!?」


 あれだけ放つまでに溜めを行い準備を行って放った筈の帝楽智の『魔力波』が、咄嗟に放っただけであろうソフィの『魔力波』に力負けをしてしまった事で、これまで自分の『魔力値』に相当の自信があった帝楽智は、驚きの声を上げながら、呆然と迫ってくるソフィの『魔力波』を見つめたまま動かなかった。


「て、天魔様!!」


 放心して動きを見せない帝楽智を見た華親は、決死の覚悟で彼女の身体を迫りくる『魔力波』の射程範囲から押し出すと、自分もその勢いのままに転がりながら、無事に『魔力波』の圏外へと抜け出すのだった。


 そして帝楽智と華親がソフィの『魔力波』を回避したのを見計らい、力の魔神はそのソフィの『魔力波』を止めるために自身の『魔神』としての力を行使する。


「――」(止めるわね、ソフィ!)


 テアを守る為に傍で待機を行っていた『力の魔神』は、浮かべていた恍惚な表情を元に戻したかと思えば、ソフィの『魔力波』で山が崩落してしまわぬように、その『魔力波』の向かっている先に強引に『聖域結界』を展開すると、そのまま『魔力波』は『結界』に被弾すると同時に雲散していった。


 ――流石は最後の『守りの要』としてソフィから多大な信頼を得ている『力の魔神』である。


 あっさりと帝楽智の『魔力波』を呑み込み、勢い衰えずにそのまま障害となるものを消滅しようと突き進んでいた大魔王ソフィの『魔力波』を『力の魔神』は完全に消滅させるのであった。


「い、一体、何なのじゃ、あれは……?」


「く、くぅっ! 得体のしれぬ、ば、化け物共めがっ!!」 


 鮮やかな『青』と、くっきりとした『紅』、そして『金色』の三色のオーラを同時に纏わせて、バチバチと雷のようなスパーク音を周囲に鳴り響かせながら、恐ろしい形相を浮かべてこちらを睨みつけている四翼を生やした大魔王を見て、怯えるような表情と震える声を出しながら、天狗の首領と副首領は同時にその化け物に対して『』という感情を芽生えさせるのであった。

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