第1726話 鬼人たちの集落

 再会に喜び涙を流して抱き合っていた百鬼なきり動忍鬼どうにんきだったが、両者が落ち着いた頃を見計らい、イバキはこの場に共に現れた鬼人族の者達に事情の説明を行い、ソフィ達が脅威ではないという事を丁寧に説明を行うと、鬼人達もイバキが言うのならばと素直に頷き、集落で改めて双方の説明を行うという事で一致して、一行は鬼人族の集落へと移動する事となった。


 そしてソフィ達は百鬼ではなく、監視を行っていた鬼人たちに先導されて集落へと辿り着くのであった。


 集落の見張りを行っていた者達は、これから人間たちと一戦を交える事になるだろうと覚悟を決めていた為、そんな人間たちを引き連れて同胞達が目の前に現れた時には心底驚いた様子であったが、こちらも動忍鬼といった鬼人の同胞達から説得を受けて、ソフィ達は無事に集落の中へと入る事が出来たのだった。


 そんなソフィ達ではあるが、現在はこの集落を取り纏める立場の『鬼人族』の族長の屋敷に通されていた。しかしソフィ達はまだ直接族長の顔を見てはいない。


 動忍鬼とイバキが事前に族長に報告を行うという事で、この家の別室に居る族長に先に話を行っているからであった。


「しかし成り行きとはいえ、ワシらが『妖魔山』のそれも鬼人たちの集落の中に居るという事に、不思議な感覚を覚えるな」


 ゲンロクが用意された椅子に座りながらぽつりとそう口にすると、隣に居るエイジも頷きを見せるのだった。


「普段遭遇する妖魔はまず襲ってきて話し合いにすらならぬからな。こうして『式』契約も結んでいない状態で妖魔達と交流を行う事になるとは夢に思わなかった」


「我々妖魔退魔師も同じですよ。そもそもこれまで妖魔山の管理は貴方がたの組織で行われていた事ですからね。こうして『妖魔山』に入ることさえ何もかも未知なる事でしたし。百鬼殿の存在がなければ交流など持つ事もなく、調査は非常に簡素なものになっていた事でしょう」


 エイジの言葉に合わせるようにミスズがそう告げると、傍に居た百鬼が口を開いた。


「貴方がたのおかげで俺は同胞に再び会う事が出来た。本当に感謝する」


 そう言って彼は妖魔退魔師組織の面々や、ソフィ達に向けて深々と頭を下げるのだった。


「頭を上げて下さい、百鬼殿。サカダイでも言いましたが、貴方はもう我々の大事な客分なのです。困っている事があれば手を差し伸べるのは当然の事ですよ」


 そのミスズの言葉に、キョウカが満足そうに口元を緩めながら軽く頷いていた。どうやらキョウカも森での一件で百鬼には気を許しているらしく、妖魔である百鬼が妖魔退魔師組織の客分扱いが行われている事に対して大いに賛成をしている側であったようだ。


「うむ。それに我は動忍鬼にも鬼人の同胞を見つけたら、戻れるように協力すると約束しておったしな。百鬼殿に協力する事は必然的に思惑も一致していたのだ」


 百鬼はミスズとソフィの言葉に感極まったようで目に涙を浮かべていた。彼もまた長年探し求めていた『動忍鬼』を無事に探し出せた事で肩の荷が下りたような心持ちで心底ほっとしていたのだろう。


 そこにコンコンと扉がノックする音が部屋に響いた。


「どうぞ」


 ミスズがそのノックの音に返事をすると、直ぐに扉が開いて初老程の年齢の背が高い男が、動忍鬼とイバキ達と共に現れるのだった。


「お話し中にすみませぬな」


「族長!」


 入ってきたその初老の男が口を開いたが、その瞬間に百鬼が声をあげた為に何かを喋ろうとしていた族長と呼ばれた男は口を噤んだ。


「おお、百鬼、無事だったか……!」


 百鬼の顔を見た族長と呼ばれた男は、百鬼の元へと近寄って顔を綻ばせながら握手をするように手を握り、肩を叩くのだった。


「本当に心配したのだぞ。勝手に集落を出て人里へ向かいおって……!」


「その事については本当に申し訳なかった、族長。だが、俺はどうしても動忍鬼を探し出してやりたかった。あんな事があって、更にもう集落に戻る事が出来ないとあっては殿鬼様にも顔向け出来ぬしな……」


「たとえそうであったとしても、せめてワシくらいには事情を説明していってもらいたかった。動忍鬼にも言った事だが、お前も本当に心配したのだぞ」


「すまなかった……」


 そう言って百鬼と族長の玉稿の両者は、互いに手を固く結ぶのだった。

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